43.「自分がやった方が早い」の罠~社長が現場を離れても回り続ける仕組みの作り方
はじめに、こんにちは。株式会社吉和の森の森和吉です。
前回(第53回)は、リピート率10%で低迷していた崖っぷち美容室が、LINEを使った絶妙なタイミングの「先回りおもてなし」によって、地域No.1の繁盛店へと変貌を遂げたリアル店舗の実践事例をお届けしました。
さて今回は、業種を問わず、いま日本中の中小企業が最も頭を抱えている大問題、「採用(人材不足)」にフォーカスした実践事例をお話しします。
舞台は、地方にある従業員25人の「建設・土木会社」です。いわゆる「3K(きつい・汚い・危険)」のイメージが根強く、何百万円もかけて求人媒体に広告を出しても、1年のあいだ応募が「ゼロ」。平均年齢は50代を超え、このままでは技術の継承すらできないと絶望していた社長が、第41回でお伝えした「等身大のブランディング」とデジタルの力を掛け合わせ、どうやって20代の若手を毎年自発的に採用できるようになったのか。その劇的な舞台裏を公開します。
間違いだらけの対策:給与の吊り上げと取り繕った採用サイト
私が相談を受けた際、社長はこう仰っていました。
「森さん、やっぱり今の若い人は建設業なんてやりたくないんですよ。大企業みたいに高い給料は払えないし、求人サイトに『アットホームな職場です!』って綺麗ごとの笑顔の写真を載せても、全く反応がありません…」
実は、これが多くの経営者様が陥る罠です。
大企業と同じように「給与や待遇(スペック)」の勝負をしようとすれば、中小企業は一瞬で負けてしまいます。また、素材サイトから買ってきたような「どこかで見たことのある綺麗な写真と、建前ばかりの文章」で作られた採用ページは、今の賢い求職者(特にSNSネイティブの若者)には、「嘘くさい」「ブラック企業が隠蔽しているんじゃないか」と一瞬で見抜かれてしまいます。
若者が求めているのは、完璧で綺麗な会社ではありません。「ここなら自分らしく、誇りを持って働けるか」という、信頼できる本物のストーリー(一次情報:第26回)なのです。
ステップ1:泥臭い「仕事への誇り」と「創業の想い」の言語化
まず私たちは、第41回のブランディングでお伝えした「等身大の姿」を徹底的に掘り起こすことから始めました。
なぜ、社長は2代目としてこの会社を継いだのか。なぜ、きついと言われるこの仕事を続けているのか。社長と何度も対話を重ねる中で、ある熱い想い(理念:第42回)が浮かび上がってきました。
「私たちが作っているのは、ただの道路や堤防じゃない。10年後、20年後に、この地域に住む子どもたちが災害から身を守るための『未来の当たり前』を作っているんだ」
この、綺麗事ではない「泥臭い経営者の哲学(情熱:第50回)」こそが、大企業には逆立ちしても真似できない最強のブランドの種でした。
ステップ2:「若手社員のリアルな日常」をショート動画で配信
この想いと会社のリアルを届けるために、第37回でご紹介した「ショート動画(縦型動画)」をフル活用しました。採用媒体に頼るのをやめ、TikTokやInstagramのリール、YouTubeショートでの自社発信へと切り替えたのです。
動画に登場したのは、社長と、20代・30代の若手現場スタッフたち。
- 「ぶっちゃけ、夏の現場はどれくらい暑い?」というリアルな質問に答える動画
- 失敗して先輩に怒られた若手が、その後、居酒屋で愚痴を言い合いながらも「でも、自分が関わった道路が完成したときは鳥肌が立った」と笑顔で語るシーン
- 社長が現場に差し入れを持ってきて、スタッフとバカ笑いしている「人肌感(第20回)」溢れる一コマ
飾らない、加工しない、等身大の「働く人間の体温」を60秒の動画にして、コツコツと発信し続けました。
ステップ3:スペックではなく「理念」に共感した若者が殺到
動画の配信を始めて半年が経った頃、会社のホームページに設置した「おもてなしの採用導線(第38回)」から、これまでにない変化が起き始めました。
「動画を見て、この社長のもとで、この先輩たちと一緒に働きたいと思いました」という、近隣の工業高校の卒業生や、20代のUIターン希望者からの直接応募が相次いだのです。
結果として、求人広告費をほぼゼロにしたにもかかわらず、1年で3人の20代若手人材の採用に成功。しかも、彼らは給与や休日数などの条件だけで選んでいないため、「この会社で地域の未来を守る仕事がしたい」と、驚くほど高いモチベーションを持って、今も現場で生き生きと活躍しています。
今回の実践ポイント
地方の建設会社が採用難を突破できた理由は、大金をはたいたからではありません。
他社の真似をせず、自分たちの「泥臭い誇り(想い)」を言葉にした(第41回)
スマホ動画を使って、飾らない「人肌感のある日常」を可視化した(第20回、第37回)
スペックの比較ではなく、「理念への共感」で求職者と繋がった(第42回)
採用とは、条件の提示合いではなく、会社と求職者の「お見合い」です。中小企業だからこそ、経営者やスタッフの「人間味」を全面に出すことで、大企業を凌駕する強い採用力を手に入れることができるのです。


