【金融機関】第5回:営業スキル① セールスフローと差別化戦略|地方銀行・信用金庫の営業が成果を出すための第一歩 [金融機関⑤]
目次
自社の営業改革を進める際、「どこから手をつければよいのか」「本当に組織に定着させられるのか」といった疑問を抱く方は少なくありません。
本稿は、その問いに明確に答え、皆様が自社の状況に当てはめて考えられるように、具体的なステップと事例を交えて解説します。
はじめに:なぜ「導入ステップ」が重要なのか
地方銀行・信用金庫の営業改革は、単なる新しい施策やツールの導入だけでは成果に直結しません。それは、営業改革が組織の行動変容を伴う、複雑なプロセスだからです。
- 「診断」から
- 「設計」
- 「実行」
- そして「定着」
までの一連のプロセスを体系的に踏むことで、初めて組織全体に浸透し、成果を持続させることが可能となります。
これまでの連載(第1回〜第10回)で解説してきた「ターゲット選定」「営業スキル強化」「差別化」「紹介営業」といった個々の要素は、点ではなく線として統合される必要があります。
この統合的なアプローチこそが、改革の成功精度と確率を飛躍的に向上させる鍵となります。
ステップ別導入プロセス(概要)
- 診断(現状の客観的把握)
- 設計(改革の全体像と優先順位の決定)
- 実行(パイロット導入と成功事例の創出)
- 定着(仕組み化と文化の醸成)
ステップ1:診断(現状の客観的把握)
改革の第一歩は、現状を正確に診断することです。
まずは営業スキル診断やプロセス評価、KPI(重要業績評価指標)の達成度を詳細に分析しましょう。
診断の具体例と課題の発見
例1)「訪問数は多い」が「提案件数が少ない」:
これは「営業フローの途中離脱」が課題であることを示唆します。
要因として、
- 顧客のニーズを十分に引き出せていない(ヒアリング不足|第6回参照)
- 自社のサービスの優位性を的確に伝えられていない(差別化不足|第5回参照)
といった可能性が考えられます。
例2)「提案件数は多い」が「受託・融資率が低い」:
この場合、
- 「クロージングスキル」(熱上げスキル|第7回参照)
- 「顧客の購買力分析」(ターゲティング戦略不足|第4回参照)
が不足している可能性があります。提案内容が顧客の真の課題解決につながっているか、顧客が意思決定を行うための後押しができているか、といった視点で分析が必要です。
この段階では、これまでの連載内容に沿ったチェックリストを活用し、金融機関としての強みと弱みを多角的に可視化することが不可欠です。
ステップ2:設計(改革の全体像と優先順位の決定)
診断で明らかになった課題に基づき、具体的な改革の全体像を設計します。
すべてを一度に変えようとするのではなく、最もインパクトが大きい課題から優先的に取り組むことが成功の鍵です。
設計の具体例
1.優先すべきスキルの特定:
例えば、
- (1)関係構築力(顧客への情報提供率/顧客からの質問受領率等
- (2)顧客問題点の共有力(ありたい姿ヒアリング率/顧客未来軸での悩みヒアリング率等
- (3)優位性の訴求力(提案承諾率/次回アポ率/競合相談率等))
が低いと診断された場合、これらのスキルを最優先で強化するプログラムを設計します。
これは、
- (1)顧客との信頼関係構築不足(プロの立場確立スキル|第6回参照)
- (2)ヒアリングの強化(ヒアリングスキル|第6回参照)
- (3)差別化の強化(差別化言語化スキル|第5回参照)
の強化を優先的に実施するイメージです。
2.組織仕様への落とし込み:
単なる一般論ではなく、自社の金融商品やサービス、顧客セグメントに合わせた
- 「営業フロー設計」(営業フロー構築|第5回参照)
- [太字]「CRM(顧客関係管理)の運用ルール」(CRM戦略|第9回参照)
- 「紹介営業のフレームワーク」(紹介営業ノウハウ|第10回参照)
を具体的に設計します。これにより、現場の担当者が迷うことなく実践できる基盤が整います。
各施策の優先順位の付け方:効果と難易度で判断する
営業改革の施策を設計する際には、「効果(インパクト)」と「難易度(手間・コスト)」の2つの軸で優先順位を決定することが重要です。
| 優先順位 | 特徴 | 推奨される施策 |
|---|---|---|
| 最優先 | 効果大|難易度小 | 短期間で大きな成果が出やすく、組織全体のモチベーション向上へ(例:特定の高スキルを持つ人材の成功パターンを言語化し、横展開する。KPIの可視化ツールを導入) |
| 第2優先 | 効果大|難易度大 | 中長期的に大きなインパクトが期待できる施策。経営層のコミットメントが不可欠(例:評価制度の抜本的な見直し、大規模な研修プログラムの導入) |
| 第3優先 | 効果小|難易度小 | 比較的容易に実施できますが、効果は限定的(例:朝会での情報共有会の定期開催、新しいツールの試験導入) |
| 見送り | 効果小|難易度大 | 費用対効果が低い施策は、一旦見送り、より優先度の高い施策にリソースを集中 |
ステップ3:実行(パイロット店導入と成功事例の創出)
設計した改革案を、まずは全社展開の前に、一部の営業店や部署、あるいは特定の高意欲な人材を対象とした「パイロット導入」として実行します。
これにより、全社展開のリスクを最小限に抑えつつ、確実な成功事例を創出できます。
実行に必要な3つの要素
(1)実践的なトレーニング:
- 座学の研修(ショートロープレ)と、営業同行を通じたOJT(オンザジョブトレーニング)を積極的に行い、現場での実践を徹底します。
(2)KPIの可視化:
- 進捗を誰もが把握できるよう、KPI管理表やダッシュボードを整備します。
- これにより、改善すべき点が明確になり、マネジメント層の迅速な意思決定を支援します。
(3)「勝ちパターン化」の推進・情報共有:
- 想定される①勝ちパターンを仮設定し、成功した事例を詳細に分析し、②「なぜうまくいったのか」を言語化します。これをナレッジとして③組織内で共有し、他のメンバーが再現できるようにすることで、組織全体の底上げを図ります。
パイロット導入成功事例
- パイロット店の事例 : 特定の店舗で「差別化トーク」と「相談承諾ステップ」の仕組み化(ツール化)を導入したところ、顧客が「この担当者なら任せられる」と納得する場面が増加し、受託率が15%上昇(差別化・プロの立場確立スキル|第6回参照)
- 紹介強化営業店の事例 : 各担当者の重点顧客10社の経営者に対し、紹介依頼の具体的なスクリプトとフローを徹底した結果、3ヶ月で新規の個人の融資見込先を15名創出し、新人が新規個人ローン獲得(紹介営業ノウハウ|第10回参照)
最初の一歩を踏み出すためのチェックリスト
このチェックリストを活用する理由は、これまで学んだ内容を実際に組織へ落とし込み、抜け漏れを防ぐためです。
各問いに答えることで、営業改革の導入準備状況を可視化でき、強化すべき領域を明確にする効果があります。
結果として、経営層・現場・マネジメントが同じ方向を向き、改革を確実に前進させることが可能になります。(↓ノウハウ記載のコラムリンク)
- 【第1回】金融機関における成果創出の4要素(全体像)が明確か
- 【第2回】金融機関の成果創出に向けた必要な勝ちパターン(全体像)が明確か
- 【第4回】顧客購買力分析(ターゲティング)と戦略設計を行っているか
- 【第5回】営業スキル(セールスフロー・差別化)を習得しているか
- 【第6回】営業スキル(ヒアリング・プロの立場確立)を習得できているか
- 【第7回】営業スキル(熱上げ・クロージング)を習得できているか
- 【第8回】営業マネジメントによる提案量の最大化を実現しているか
- 【第9回】LTVを意識した収益構造の設計をしているか
- 【第10回】紹介営業力(CRV)を強化し、口コミの仕組み化を実行しているか
KPI設計の具体指標(参考)
営業改革を進めるうえでは、必ずKPIを設定し、チェックリストの各項目と紐づけて管理することが不可欠です。
KPIを明確にすることで、進捗が定量的に把握でき、改善サイクルを回すための起点となります。
逆にKPIを設定しない場合、成果が個人依存になり、改善ポイントが曖昧になってしまいます。
その結果、改革の進捗が見えず、マネジメントの打ち手も遅れるリスクが高まります。
| 項目 | 具体指標(KPI) | 関連コラム |
|---|---|---|
| 営業の全体像 | 訪問数、提案件数、成約件数 | 第1回、第8回 |
| ターゲティング | 顧客分析数、購買力評価件数 | 第2回 |
| 顧客信頼関係 | 問題点共有件数、解決策提示率 | 第3回、第7回 |
| LTV | LTV向上率、リピート率 | 第4回、第9回 |
| セールスフロー | 差別化要素の明文化数、セールスフロー実践率 | 第5回 |
| プロの立場 | 相談承諾率、プロの立場確立件数 | 第6回 |
| 提案量最大化 | 提案量KPI達成率、クロージングスピード | 第8回 |
| クロスセル・アップセル | クロスセル・アップセル提案件数、成約率 | 第9回 |
| 紹介営業 | 紹介依頼数、紹介商談化率、紹介成約率 | 第10回 |
まとめ:経営判断と専門家の活用
これらの4ステップを円滑に進めるためには、トップの明確な経営判断と、それに続く組織全体の合意形成が不可欠です。
トップが「営業改革」を経営アジェンダとして明確化し、リソースを投じることで、改革は確実なものとなります。自社だけで改革を進めるのが難しい場合は、外部の専門家の力を借りることが有効な選択肢です。
専門家は客観的な視点から現状を診断し、具体的なスキル強化プログラムやマネジメント支援を提供することで、営業改革のスピードと成果を加速させることができます。
営業改革は、組織全体で取り組むべき挑戦であり、この3ステップを実践の起点として、成功への道を切り拓いていただきたいと思います。
株式会社バリュー・コア・コンサルティングの提供価値
私たちバリュー・コア・コンサルティングは、成果創出型の日系総合経営コンサルティング会社です。
弊社が提供するコンサルティングサービスは、単なる知識の提供に留まりません。
金融機関が抱える構造的課題(第1回参照)を深く理解した上で、組織に合わせた「勝ちパターン」(第2回以降参照)の構築を支援します。
様々な金融機関(地方銀行・信用金庫)向けに机上の空論ではない、現場に根差した実践的なコンサルティングで、金融機関及びその事業先の売上・利益向上及び事業再生に貢献します。
クライアント成果事例(一部):金融機関A社
- PJ内容 : 営業力強化(事業者向けセールス・職域セールス)
- PJ成果 : 事業支援受託数167%増(昨対比)
- PJ成果 : 融資金額120%増(昨対比)
- 研修満足度 : 100%(満足・大変満足の合計)
導入成果事例: 【信用金庫】営業生産性を最大5倍に向上
金融機関支援事例: 【地方銀行】地方銀行のエンゲージメント向上を支援
▼ 研修時の感想・気付き(某信用金庫)
研修受講後アンケート
▼ 金融機関向けコラム(複数回にて連載)
第1回:信用金庫・地方銀行が直面する構造課題とは?
弊社のコンサルティングサポート領域
営業改革を確実に進めるためには、外部の専門的な視点を取り入れることも効果的です。
例えば、以下のような領域で支援を受けることが可能です。
- 営業力診断・組織診断 : 現状の営業活動やプロセスの課題を可視化し、改善ポイントを明確化。
- 営業スキル強化プログラム : 相談承諾、問題点共有、差別化、クロスセル・アップセルなどの研修や実践支援。
- 営業マネジメント支援 : KPI設計、進捗管理、マネジメント会議運営の仕組みづくり。
- 仕組み化・定着化支援 : CRM活用や営業フロー標準化、評価制度への組み込みを支援。
- 戦略的プロジェクト伴走 : パイロット導入から全社展開までを伴走し、成果創出を加速。
これらのサポートを活用することで、金融機関は現場任せにせず、組織全体で営業改革を推進し、成果を持続させることができます。
御社、御庫の現状に合わせた具体的な改革プランについて、ご相談を承ります。
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