【金融機関】第11回:地方銀行・信用金庫における営業改革の導入ステップ|診断から実行・定着までの実践方法 [金融機関⑪]
目次
はじめに:なぜLTV(顧客生涯価値)が重要なのか
「日頃から地域のために事業支援をしているが、なかなか融資や他のサービスに繋がらない…」
「長年お付き合いのある顧客なのに、融資やサービスを提案すると、『今回は他行で…』と断られることが多い…」
金融機関の営業担当者であれば、一度はこのような悩みを抱えたことがあるのではないでしょうか。
短期的な成約や単発の取引だけに依存するのは限界があります。
特に、地域に根差したエリアビジネスである金融機関は、新規顧客の獲得コストが増加し、限られた顧客基盤の中で競合との差別化が難しくなる中、持続的な成長の鍵は、顧客1人あたりの生涯価値(LTV)を高め、長期的な収益基盤を築くことです。
LTVは、単に契約件数や売上高を増やすだけでなく、顧客との「関係性を深化」させることで実現されます。
本コラムでは、顧客に「選ばれ続ける」ための営業戦略を解説します。
LTV最大化の概念
LTV(Life Time Value)とは、1人の顧客が取引開始から終了までに企業にもたらす利益の総額を指します。
金融機関においては、融資・預金・保険・投資信託・マッチングサービス・福利厚生関連サービスなど、複数のサービスを通じて長期的に収益を得られる関係を構築することが目的となります。
具体的視点
- リレーション強化: 一度の取引で終わらせず、継続的な接点を設計する。
- クロスセル/アップセル: 既存取引に関連するサービスを提案し、顧客の利便性を高めながら収益性を向上させる。
- 離脱防止: 途中離脱や取引縮小のリスクを早期に検知し、適切にフォローする仕組みを持つ。
- 価値共創: 顧客の成長をサポートすることで、金融機関自身の収益にもつながる関係を築く。
LTV向上のための6つのノウハウ
- CRM戦略の構築:顧客関係(構築)管理
- 顧客ポートフォリオの分析(ターゲット選定)
- クロスセルの仕組み化
- アップセルの仕組み化
- フォローアップと関係深化
- 離脱防止の仕組み
1. CRM戦略の構築:顧客関係(構築)管理
概念: 顧客データを収集・管理・分析し、顧客接点を最適化することで、顧客満足度を向上させ、LTVを最大化します。
CRMにおける成果指標:
- カスタマーシェアの向上(既存顧客): 既存顧客に対して、取引の拡大(LTV)を促します。
- ネットワークシェアの向上(新規顧客): 既存顧客からの紹介や口コミを増やし、新規顧客の獲得(CRV)に繋げます。
具体的ノウハウ:
- 顧客接点の設計: 顧客の行動履歴や購買サイクルに基づいて、最適なタイミングで接触する「顧客ジャーニー」を設計します。
- 顧客データの収集・管理: 顧客情報、取引履歴、面談記録などをCRMシステムで一元管理し、リアルタイムで顧客状況を把握します。
- 接点別のフォロー方法設計: 各接点(例:融資実行後、定期預金満期前)でどのようなフォローを行うか、具体的なルールを定めます。
- 顧客満足度向上: 継続的なコミュニケーションを通じて、顧客の課題やニーズを深く理解し、期待を超えるサービスを提供することで、顧客を「ファン化」させます。
2. 顧客ポートフォリオの分析(ターゲット選定)
概念: 顧客ごとの取引状況を可視化し、LTVの高い顧客群を特定します。
具体的ノウハウ:
RFM分析(Recency, Frequency, Monetary)や顧客セグメンテーションを行い、データに基づいて重点顧客を見極めます。
事例:
- 頻繁に融資相談をしている中堅企業に対して、追加で経営支援サービスを提案し、収益拡大に成功しました。
- ポイント: データに基づいて「重点顧客」を見極めることがLTV向上の第一歩となります。
3. クロスセルの仕組み化
概念: 既存取引に関連する商品やサービスを組み合わせて提案する仕組みを構築します。
事例:
- 職域契約を結んでいる企業の従業員に対し、給与振込や住宅ローン、教育ローンなどの金融サービスをパッケージ化して提案します。
- 事業拡大のための融資実行と同時に、役員退職金準備のための保険を提案し、顧客満足と収益性を同時に高めました。
- ポイント: クロスセルは、単に商品を増やすことではなく、顧客の利便性を高めることを主眼に設計します。
4. アップセルの仕組み化
概念: 既存の安定顧客に対して、より高い付加価値のサービスや上位商品を提案し、取引規模を拡大します。
具体的ノウハウ:
融資にとどまらず、経営戦略や人材育成など、顧客の経営課題に対する包括的なソリューションを提示します。
事例:
- 安定顧客に対して新規事業進出に伴う大型融資と同時に、事業承継コンサルティングを提案し、長期的な取引基盤を強化しました。
- ポイント: アップセルは信頼関係を基盤に「さらに踏み込んだ支援」を提案することが重要です。
5. フォローアップと関係深化
概念: 取引後も継続的に関係を維持し、追加ニーズを発掘します。
具体的ノウハウ:
定期面談やアフターフォローの仕組みを整備し、顧客の状況変化を捉えます。
事例:
- 定期的に業績ヒアリングを行いつつ、課題解決を率先して実施することで、新たな資金需要を早期に把握し、スピーディーに対応。
- ポイント: 接点を持ち続けることで、顧客の信頼を強化し、「第一想起される存在」になることが重要です。
6. 離脱防止の仕組み
概念: 取引縮小や解約の兆候を早期に捉えて対応する仕組みを構築します。
具体的ノウハウ:
利用頻度や預金残高の変化をモニタリングし、異変があれば即座にフォローします。
事例:
- 急な預金引き出しが増えた顧客に早期コンタクトを取り、資金繰り支援を行った結果、関係維持に成功しました。
- ポイント: 小さなサインを見逃さず、顧客の状況に合わせて行動することが重要です。
商品・サービス検討と「フロー」の構築
LTVを最大化するためには、単に既存の商品を売るだけでなく、顧客の成長ステージに合わせて柔軟に商品やサービスを組み合わせる視点が不可欠です。
以下に、LTV向上に向けた具体的な商品・サービス展開の例と、そのフローについて解説します。
例1:融資先へのクロスセル
融資取引 → 事業性保険、退職金準備、投資信託、ビジネスマッチング
- 融資取引のある顧客に対し、顧客の利便性を高めるために、融資以外の金融サービスやコンサルティングサービスを提案します。
例2:融資先へのアップセル
短期融資 → 長期融資
- 既存取引からの切り替えや、他行からの借入を一本化することで、融資金額を増加させ、より深い関係を築きます。
例3:事業支援から金融サービス獲得へ
マッチング、財務分析、補助金サポート → 融資・預金
- 非金融サービスから顧客との接点を持ち、信頼関係を構築した上で、融資や預金といった金融サービスの獲得につなげます。
例4:事業支援から非融資サービス獲得へ
事業支援 → 融資・預金以外
- 事業支援を通じて顧客の課題を深く理解し、その解決策として保険、投資信託、M&A仲介などを提案します。
これらの多角的なアプローチを実践するためには、営業担当者が顧客の表面的なニーズだけでなく、潜在的な課題や将来的な展望(インサイト)まで深く理解することが不可欠です。
顧客の経営パートナーとして、単発の取引に留まらない包括的なソリューションを提案することで、LTVは最大化されます。
実務への落とし方法
- LTV指標の導入: 顧客別のLTVを算出し、営業評価に組み込む。
- クロスセル・アップセルのマニュアル化: 提案タイミングや事例を整理し、誰でも実行できる仕組みを作る。
- 定期フォロー体制の整備: 営業担当者任せにせず、組織としてフォローできる体制を構築する。
- 顧客データの活用: CRMやBIツールを活用し、顧客状況をリアルタイムで把握する。
まとめ:短期収益から長期価値へ
LTVの最大化は、金融機関営業が「短期的な契約件数」から「長期的な顧客価値」へと視点を転換することを意味します。
クロスセルやアップセル、関係深化の仕組みを持つことで、単なる金融取引を超えて「経営のパートナー」としての立場を確立することができます。
これは、収益基盤の安定だけでなく、顧客満足度の向上と、ひいては金融機関への揺るぎない信頼につながります。
このコラムが、皆様の営業活動の一助となれば幸いです。
株式会社バリュー・コア・コンサルティングでは、本コラムでご紹介したLTV向上戦略を、貴社のビジネスに合わせてカスタマイズし、実行までをサポートいたします。
株式会社バリュー・コア・コンサルティングのご紹介
私たちバリュー・コア・コンサルティングは、成果創出型の日系総合経営コンサルティング会社です。
様々な金融機関(地方銀行・信用金庫)向けに机上の空論ではない、現場に根差した実践的なコンサルティングで、金融機関及びその事業先の売上・利益向上及び事業再生に貢献します。
クライアント成果事例(一部):金融機関A社
- PJ内容 : 営業力強化(事業者向けセールス・職域セールス)
- PJ成果 : 事業支援受託数167%増(昨対比)
- PJ成果 : 融資金額120%増(昨対比)
- 研修満足度 : 100%(満足・大変満足の合計)
導入成果事例: 【信用金庫】営業生産性を最大5倍に向上
金融機関支援事例: 【地方銀行】地方銀行のエンゲージメント向上を支援
▼ 研修時の感想・気付き(某信用金庫)
研修受講後アンケート
▼ 金融機関向けコラム(複数回にて連載)
第1回:信用金庫・地方銀行が直面する構造課題とは?
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