企業年金の運用成績公開の方向性 現在の問題点は?
2026年10月12日、岸田文雄元首相が訪問先のタイ・バンコクで日本経済新聞の単独インタビューに応じ、個人向け国債への税優遇に慎重な考えを示しました。
前回のコラムでは、同じインタビューから企業型DCとiDeCoについての指摘を取り上げました。
今回は、国内(日本)国債の税優遇をめぐる論点などを整理します。
岸田氏は自民党「資産運用立国議員連盟」の会長を務めており、この発言は年末に向けた2027年度税制改正の議論にも影響する可能性があります。
岸田氏は個人向け国債の税優遇について「資金の好循環を促すものであるかといった観点も重視しなければならない」と語った。不公平な税制だとの指摘にも言及した。
(中略)
「NISAは貯蓄をリスクマネーに振り向けていくという取り組みだ」と話した。「その整合性からどうなのか。慎重に検討する必要がある」と明言した。
出所:日本経済新聞(2026年10月13日付)
国はなぜ、個人に国債を買ってほしいのか
この税優遇には、もともと狙いがありました。
税優遇は預貯金を多く持つ高齢者などの購入を促し、国債の買い手づくりにつなげる狙いがあった。日銀の買い入れ縮小に備えるものだった。
出所:日本経済新聞(2026年10月13日付)
背景には、国債の最大の買い手である日銀が買い入れを減らしていることがあります。
日銀は2024年8月から減額を進めており、日銀の国債保有比率は2026年6月末に41.16%となり、10四半期連続で低下しました。
日銀の資金循環統計によると、家計の国債・財投債の残高は2026年6月末に21.9兆円となり、2013年6月以来の高水準でした。
ただし、国債全体に占める家計の比率は1.92%です。日銀が空けた穴を、家計が全て埋めているわけではありません。
一方で、家計の金融資産は同じ6月末に2,519兆円と過去最高を更新しました。そのうち国債・財投債は21.9兆円ですから、1%にも満たない計算になります。
国としては、預貯金を多く持つ家計に、国債をもっと買ってもらいたい。
税優遇の狙いは、ここにあると考えられます(私見)。
買い手が必要であること自体は、理解できます。問題は、その手段として税制優遇を使うのが適切かどうかです。
GPIFの国内資産配分をめぐる議論も動いている?
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の国内資産配分も注目を集めています。
2026年7月10日、片山さつき財務大臣が「GPIFなど年金基金が日本の金融資産にさらなる投資をする方向で後押しする方策を追求したい」と述べました。
7月17日には高市早苗首相が参議院予算委員会で同様の趣旨を答弁しています。
GPIFは2026年8月21日に経営委員会を開き、「基本ポートフォリオ検証等PTにおける議論について」という議題が上程されていたことが、8月31日に公表された議事次第で明らかになりました。
経営委員会の8月開催は、基本ポートフォリオの見直しが議論された2019年以来7年ぶりでした。
その後、9月28日に開かれた経営委員会では、基本ポートフォリオの検証に関する議題は上程されませんでした(議事次第は10月6日公表)。
ポートフォリオの見直し、変更は行われず、市場で高まった見直し観測は、いったん落ち着いた形です。
2026年6月末の年金積立金全体の構成比は、国内債券25.59%、外国債券24.60%、国内株式24.48%、外国株式25.33%で、基本ポートフォリオとほぼ一致しています。
2026年7月14日公開のコラムで筆者は「すぐに配分変更が行われる可能性は低い」と予測しました。
この見立ては、現時点では読み通りだった、ということになります。
ホームカントリーバイアス、地元愛
ここで、資産配分を考えるうえで欠かせない言葉があります。
「自国市場への親近感」から資産配分が国内寄りになりやすい傾向をホームカントリーバイアスと呼びます。資産運用で投資先を選ぶ際には、その感情とは別に、世界の潮流を冷静に見る視点も必要ではないでしょうか。
出所:RIA JAPANコラム「GPIFが投資する株式、TOP25は?」(2026年7月14日)
ふるさとを愛する気持ちは大切です。日本企業を応援したいという気持ちも自然なものです。しかし、それはそれ。資産運用の判断は、感情とは別にすべきだと思うのです。
10年のうち8回マイナス。国内債券配分増加は合理的か
国内債券のリターンは実際にどうだったのか。GPIFの資産別収益率を見てみます。
| 資産 | 直近10年(2016〜2025年度)の収益率 | マイナスだった回数 |
|---|---|---|
| 国内債券 | ▼1.42% | 8回 |
| 外国債券 | 4.45% | 2回 |
| 国内株式 | 12.54% | 3回 |
| 外国株式 | 15.75% | 1回 |
出所:GPIFの公表データよりRIA JAPAN作成。「▼」はマイナスを表します。過去の実績は将来の運用成果を示唆・保証するものではありません。
「国内債券は安定資産」というイメージを持つ人もいるかもしれません。
しかしGPIFの直近10年中8回がマイナスリターンだったというデータを見る限り、その印象とは異なるのではないでしょうか。
さらにリターンでも4資産の中で最も低いことがデータから読み取れます。
もう少し前の時代も見ておきます。
2001年度から2015年度の15年間で、国内債券がマイナスだったのは2回だけでした。
過去には国内債券は確かに「マイナスになりにくい資産」に見えます。
ただし、相場が弱かった時代においても、国内債券は高リターン資産ではありませんでした。
同期間の収益率は国内債券1.90%、国内株式1.91%、外国債券5.60%、外国株式4.76%です。
国内債券は4カテゴリで最も低く、外国債券・外国株式には遠く及んでいませんでした。
過去の国内債券は、マイナス回数の少ない「守りの資産」だったかもしれません。しかし「リターンに寄与できる資産」ではなかったのです。
そして直近10年では、その「守り」の部分にも疑問符が付いています。
世界基準で見ると、日本資産はどう見えるのか
日本国内での存在感と、世界全体での日本の評価は、必ずしも一致しません。
2026年3月末時点の世界の株式時価総額ランキングでは、TOP50のうち34社(68%)が米国企業で、日本企業は0社でした。参考として、TOP100圏内ではトヨタ自動車が57位、三菱UFJフィナンシャル・グループが86位です。TOP100に入った日本企業はこの2社のみで、TOP100社の時価総額に対して約0.86%にとどまります。
出所: PwC「Global Top 100 companies by market capitalisation」(2026年3月31日時点)より
日本市場の中で見れば大型株でも、世界全体ではさらに巨大な企業群が数多く存在しています。
GPIFの国内株式25%、国内債券25%という配分が、運用成果を追求するうえで本当に望ましいものなのか。世界基準で見ると、考える余地があるのではないでしょうか。
ふるさとを愛する感情と投資先への配分は区別すべき
今回の内容を振り返ります。
- 個人向け国債の税優遇は、日銀の買い入れ縮小を背景に、国債の買い手づくりを狙う背景がある
- 岸田氏は「貯蓄から投資へ」というNISAの目的との整合性から、国債の税優遇やNISA組み入れには慎重な考えを示した
- GPIFの国内資産への配分増加も話題にのぼったが、9月の経営委員会では検証の議題は上程されず、大規模な資産移動の形跡もない
- 国内債券は直近10年で8回マイナス。リターンも4資産で最も低い
- 世界の時価総額TOP50に日本企業は0社。国内での存在感と、世界での評価は一致しない
国内資産への資金配分増加、資金流入増加をしたいという意図と、それが資産形成に効果があるのかは、区別して考える必要があります。
国債の税優遇も、GPIFの配分も、同じ問いの上にあります。
税優遇の対象を広げれば資金が投資に回る、とは限りません。
前回のコラムでご紹介した、優遇を厚くしても現金から動かない英国の姿と同じ構造になりうるという見方もできます。
日本を応援することと、国内資産に資産を寄せること、日本国債を重視することは、同じではありません。
GPIFや投資家の目的は何なのか?
投資により資産を増やすことを目的として、投資を行うのではないでしょうか?
そして日本国債は過去リターンに寄与していない事実があるのです。日本の企業は世界水準で戦える企業は限られているのです。
それでも国内の株式・債券への投資を増やすべきなのでしょうか?
RIA JAPANでは世界水準での投資配分を優先すべき、リターンの源泉が何かを考えるべきだと思うのです。
RIA JAPANは、これからも同じ問題意識で発信を続けてまいります。
※ 本コラムの岸田文雄元首相の発言は、日本経済新聞(2026年10月13日付)の単独インタビューに基づきます。引用は同記事からの抜粋です。
※ GPIFに関する数値は、GPIFが公表する業務概況書などのデータ、およびRIA JAPANコラム「GPIFの直近10年、国内債券は8回マイナス」(2026年7月21日)「GPIFが投資する株式、TOP25は?」(2026年7月14日)に基づきます。過去の実績は将来の運用成果を示唆・保証するものではありません。
※ 家計金融資産・家計の国債保有残高・国債の保有者別比率は、日本銀行の資金循環統計(2026年4〜6月期)に基づきます。
※ 世界の株式時価総額ランキングは、RIA JAPAN調べ(2026年3月末時点)です。
※ 本文は情報提供を目的としたものであり、特定の有価証券その他の投資商品についての勧誘や、売買の推奨を目的としたものではありません。将来の見通しを述べたものではありません。
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