社長の力量が足りないと社員は育たないのか? (3/3)
組織マネジメントにおいて、「動機づけ」が必要な場面は多々あります。意欲の高い社員はすぐに行動に移しますし、困難な課題にぶつかっても諦めずに知恵を絞ります。言われたことだけではなく、新しい工夫を試し、プラスアルファの挑戦をします。そんな社員で溢れる企業にしたいと誰もが思いますが、経験に頼っていては実現もままならないでしょう。
「動機づけの基礎理論」を学ぶことで、「人が行動をとる理由を理解する助けとなり、個人や集団の行動パターンを予測することや、必要な行動を促すこと」ができるようになります。また、「自分自身の動機を理解し、自己管理能力を高めること」のマネジメントを担う人にとっては必須のスキルです。
本シリーズでは、9つの動機づけ理論を紹介します。ご自身の仕事において、うまくできていること、できていないことを点検し、改善に結びつけて頂ければ幸いです。
今回が最終回です。「期待理論」について解説します。これは、ヴィクター・ブルームが1964年に提唱したものです。1968年に提唱された「ポーター・ローラーの期待理論」というものもありますが、ベースとなっているのはブルームの期待理論ですので、こちらを紹介しておきます。
期待理論は
•期待感: 努力が成果につながる
•確実性: 成果が報酬に繋がる
•誘意性: 報酬が魅力的である
の3つを満たせば、人は頑張れるというシンプルな理論です。
ここまで動機づけ理論を学んできた皆さんは、このシンプルな理論も組織に当てはまるとそう簡単では無いと考えられるのではないでしょうか?
人には「達成欲求」「権力欲求」「親和欲求」など、様々な欲があります(参考「動機づけの基礎理論を学ぶシリーズ④ マクレランドの欲求理論」)。給与そのものに魅力を感じる人もいれば、出世に魅力を感じる人もいれば、幸せな家庭生活に魅力を感じる人もいます。これらを同時に満たせるような報酬制度が必要になりますし、前回の「動機づけの基礎理論を学ぶシリーズ⑧ 公平理論」で学んだように、評価制度の構築は一朝一夕ではできません。
これらを満たそうとすると複雑になってしまうのですが、
今回はシンプルな一つの原則を共有しておきたいと思います。
「功ある者には禄を与えよ、徳ある者には地位を与えよ」です。
これは西郷隆盛の教えだということですが、人を遇する際の指針にできるものです。
功績を上げた者には報いてあげたいですし、それだけ実力があるのですから、地位も与えてよさそうに感じますが、功績を上げることと、徳があることは別物です。ドラッカーはマネジャーに最も大切な資質として「インテグリティ(人として何が正しいかで判断、行動する)」を挙げていますが、全く同感です。
地位が高くなると、人間の弱さが出やすいものです。人は簡単に奢りますし、裁量が増えて、自由に多くのことを意思決定できるようになると、自分を律する指針を持たない人は道を踏み外すことがあります。「ちょっと魔がさした」ことによって、一度道を踏み外すと、2回目、3回目と道を踏み外してしまうものです。昨今の企業不祥事を見ていてもそうでしょう。求められる利益を上げるためにルールを逸脱してしまうのです。「今回だけ」が毎回になり、やがて組織ぐるみの不正になってしまうのです。少しの油断で企業は簡単に潰れる時代になりました。この点は重々考慮しておくべきことです。
「期待理論」を踏まえ、「功ある者には禄を与えよ、徳ある者には地位を与えよ」ということを満たそうとすると、まず「報酬を得る条件」と「高い地位につける条件」を分けておくことが必要になります。
そして、期待をかける人間は、早めに裁量を与え、人間性を見極められる状況を作ることを私はお勧めしています。
なぜなら、徳(人間性)を見極めるのは簡単ではありませんし、リーダーになる人は自分の弱さと向き合いながら、人間性を育んでいくことが大切だからです。
抜擢人事をした際には、「メンターをつける」「360度評価を行う」など、人の弱さがでないサポートも必要でしょう。チャレンジをした際に失敗しにくい環境があるほど、挑戦する人も増えてきますし、その際に、結果を出すだけでなく、求められる徳目がはっきりしていれば、実務の中で自己点検をしながら養っていくことができます。
人口が減り、若手の活躍がますます期待される時代、自分のキャリアに自分で期待し、仕事に熱中している若手を増やしていければと思います。
これで「動機づけ基礎理論を学ぶシリーズ」は終了です。
動機づけ理論のまとめ資料は以下のリンクからダウンロードできます。
動機づけの基礎理論
この中には、熱中する組織が活用している10個目の理論も含まれています。
是非、ダウンロードして参考にしていただければと思います。