社長の力量が足りないと社員は育たないのか? (2/3)
組織マネジメントにおいて、「動機づけ」が必要な場面は多々あります。意欲の高い社員はすぐに行動に移しますし、困難な課題にぶつかっても諦めずに知恵を絞ります。言われたことだけではなく、新しい工夫を試し、プラスアルファの挑戦をします。そんな社員で溢れる企業にしたいと誰もが思いますが、経験に頼っていては実現もままならないでしょう。
「動機づけの基礎理論」を学ぶことで、「人が行動をとる理由を理解する助けとなり、個人や集団の行動パターンを予測することや、必要な行動を促すこと」ができるようになります。また、「自分自身の動機を理解し、自己管理能力を高めること」のマネジメントを担う人にとっては必須のスキルです。
本シリーズでは、9つの動機づけ理論を紹介します。ご自身の仕事において、うまくできていること、できていないことを点検し、改善に結びつけて頂ければ幸いです。
前回は「マズローの欲求5段階理論」でしたが、今回は「X理論 Y理論」です。ダグラス・マクレガーが1950年代後半に提唱した理論ですので、半世紀以上の歴史があります。それでも時折見かけるのは、それだけ人間の本質をついていて、この理論を使って考えることに価値があるからなのでしょう。それもそのはず、紀元前の中国で孟子が唱えた「性善説・性悪説」に通じる理論なのですから。概要は以下になります。
多くの人はY理論(性善説)でマネジメントをしたいと考えながらも、現実的にはX理論(性悪説)でないとマネジメントできないと、X理論的アプローチを取ることがあるのではないでしょうか?
この問題が難しいのは、X理論でマネジメントされている組織で育った人は、「自分は信頼されていない」と考え、期待に応えようという気持ちにならないことです。ですので、一部のマネジャーがY理論のマネジメントに変えようとしても(信頼して自主性に任せようとしても)、組織全体として染み付いた価値観によって、「言われたことしかやらない」「手を抜けるところで手を抜く」といった行動が起きてしまいます。そうなると、そのマネジャーのチームの業績は振るわず、評価が下がるので、「やっぱり人間は目を離すとサボる生き物だ」とX理論に戻ってしまうのです。ですので、X理論で構築してしまった組織は簡単にはY理論の世界には移行できないのです。
本来、人には「貢献したい」「楽しみたい」という内的動機がありますが、外的動機で動機づけられると、内的動機が失われるということが起きます。例えば、幼稚園児がお絵かきをしているとします。その園児たちに以下の3パターンで接します。
(1)「うまく描いた人にはご褒美がもらえますよ」と教える。書き終わったら全員にご褒美を与える
(2)何も言わずに絵を描かせて、終わった時にご褒美を与える
(3)何も言わず、何も与えず、自由に絵を描かせる
では、二回目のお絵描きの機会に(1)(2)(3)のどの経験をした園児が最も積極的に絵を描くでしょうか?(二回目にはご褒美がもらえるという情報は与えられません)
結果、(1)の園児は、(2)(3)の園児に比べ、自ら絵を描こうとする園児の数が半分になってしまったということです。これは、絵を描く楽しみが「ご褒美をもらう」という外的な動機によって減少してしまったということなのです。(外的動機でどう気付けられると内的動機が減退する事例は他にもたくさんあります)
組織の中で成果や報酬によって動機づける部分、内的動機で仕事そのものの面白さを感じさせる部分、両方の設計をして組織運営をすることが大切です。ここは、事業の種類によって変わってきます。コンサルティングファームなど元々達成意欲や上昇志向の強い集団では、少々厳しい環境であろうと自分のために挑戦をやめないでしょうが、単純労働を担うワーカーはそうではないでしょう。相互協力によって大きな成果を生み出せるビジネスと、個々の専門家が独立して成果を上げるビジネスでも違ってきます。経営思想が問われる部分です。
明日から紹介する動機づけ理論を学ぶと、この難しい問題の解決のヒントが得られます。
楽しみにしていてくださいね。
また、動機づけ理論をまとめた資料はこちらからダウンロードできます。
動機づけの基礎理論