「気づき方の違い」を自覚していますか?
昨日の続きです。指摘に対して嫌な気持ちになるのは、我々が長年培ってきた文化によることで、「健全に揉めましょう!」と言っても、簡単に変えることはできません。文化を変えるという難題に向き合うよりは、その文化の中に生きていることを自覚し、うまく議論をするための方法を編み出していくことの方が有効かもしれません。そこで、二つの処方箋を紹介したいと思います。
あえて反対の意見を出し合ってみる
一つ目は、意思決定をして実行に移す前に「あえて実行すべきでない理由を出し合ってみよう」と、あえて反対意見を挙げる時間を設けることです。合意できたかに見えて、「結論には概ね賛成だけど、モヤモヤしたものが残っていて何かすっきりしない」「意見を言いたいけどうまく言葉にならない」という人が残っている場合もあります(日本ではその可能性は高い)。そのような場合に、マイナス面を出し合う時間を設けると、今まで議論されていなかった盲点に気がつくこともありますし、多角的な視点で吟味し直すことができます。そして、どういう場合にマイナス面に陥ってしまうのか、取り組む上で気をつけないことを参加者全員で認識することができると、成功する確率は高まります。何より反対意見を出し合うことで、「何についてもやもやしていたのかが分かってスッキリした」と迷いが晴れると、前向きに実行できます。どのような意思決定においてもリスクに備えることは大切なことですし、ぜひ試してみていただきたいと思います。
ヨイ出し+ヨリヨイ出し
二つ目は、「ヨイ出し+ヨリヨイ出し」というフィードバック方法を使うことです。
「ヨイ出し+ヨリヨイ出し」とは、人のプレゼンや仕事ぶりに対して「ダメ出し」をするのではなく、まず相手の良い点・認めるべき点を言葉にし、「貴方の良さを分かっていますよ」ということを表明する。その上で、「ここを変えるとより良くなるかも」と、未来の可能性として改善点を伝えるという方法です。「ヨイ出し」は進歩・前進を認めることですし、「ヨリヨイ出し」も未来に向かった前向きな方向での意見になりますので、受け手にとっても素直に受け止めて考えやすいという効果があります。
この「ヨイ出し+ヨリヨイ出し」をしようとして会議に参加をすると、ビジネス力が鍛えられます。どのような仕事のアウトプットも100点ということはないでしょうし、0点ということもありません。必ず良い部分と改善できる部分があります。それを言葉にして相手に伝えようとすると、まず良い部分と改善できる部分を見つけることが必要になります。誰かの報告を聞くたびに、良い部分と改善できる部分を見つけ、それをどのように相手に伝えると良いかを考えるのは、訓練になります。
レストランで食事をして「おいしい」と「まずい」を分けるものは、自分の中にある味覚基準であるように、仕事のアウトプットの中に「良い部分」と「改善する部分」を見つけるには、自分の中に評価基準が必要になります。その上で、「なぜおいしいと感じるのかを表現する」となると、言葉にならないことはないでしょうか? 同様に、「なぜ良いと感じるのか」ということを言葉にするには訓練が必要です。
中には、「ヨイ出しが苦手」=「良い部分を見つけるのが苦手(褒めるのが苦手)」という方もいます。よくあるのは「良いと思えていないので誉められない」という声です。「良いと思えない」のは、「評価基準が高い」とか「自分の感覚に合う狭い範囲しか良いと思えない」のが理由ですので、自分の評価基準をコントロールすることが必要になります。自分の基準には満たなくとも、「仕事ぶりが過去から進歩して良くなっている」「集団の平均を上回っている」ということがあれば、それはプラス評価できます。過去に私が所属したスポーツチームでは、最優秀選手だけでなく、最成長選手も表彰していましたし、ハードワーク賞というものもありました。評価すべきポイントを探せばたくさんあります。確かに、良いと思えていないことを褒めても相手には伝わりませんので、「本当に良いと思える部分を探す=多様な評価基準で捉え直してみる」はスキルだと思います。
一方で、「ヨリヨイ出しが苦手」という方もいます。「評価基準が低くて全て良いと思える」という理由もあれば、「改善点を伝えて相手にマイナス感情が生じるのが嫌」という心理的な理由でできない方もいます。改善点を伝えることを避けてきた人は、改善点を伝えるスキルが磨かれていないことが多いですが、「言葉の選び方、伝える際の口調」で前向きに伝えることはできます。断定的に「これでは通用しないのではないか」とはっきり伝えた方が相手の成功を願う気持ちが伝わる場合もあれば、「これでは通用しないかもしれない。もう一段スケジュールを具体的にすると良いかも」と、可能性として示す方が良い場合もあります。また、「あなたの改善点」として伝えた方が良い場合と、「我々の改善点」として話した方が良い場合もあります。相手との関係性、相手の人間としての成熟度などを見極めながら言葉を選ぶということもビジネススキルとして磨きたいところです。
補足をしておくと、「ダメ出し・指摘」が有効な場合もあります。大事なことは相手の進歩・成功を願う気持ちで行い、相手が前向きに受け止めて行動をより良くできることです。受け手にどう伝わっているかという点がポイントで、「ダメ出し」「ヨイ出し」「ヨリヨイ出し」「褒める」などは使い分けです。実際、仕事をしている中で、「ダメ出し」「ヨイ出し」「ヨリヨイ出し」はどれくらいの比率で行っているでしょうか?
高い志を持ち、チャレンジングな仕事をすれば、その道には多くの障壁があるでしょう。「問題」にしっかりと向き合い、それを乗り越えるためには、多様な人間の知恵が必要ですし、少数意見も大切です。相手に配慮しつつも、意見をしあえる関係を作り、有効な話し合いを増やして頂きたいと思います。