社長の力量が足りないと社員は育たないのか? (2/3)
今回は未来予測について書いてみたいと思います。
(1)求められる未来予測
コロナウィルスやロシアのウクライナ侵攻など、想像もしなかったことが起きる世の中ですが、それでも未来予測には意味があります。さまざまな事象が発生する中で、その先を予測する人とそうでない人では生存できる確率は変わってきます。
未来予測法というとデルファイ法をはじめ世界中でさまざまな方法が存在するし、今日も熱心に研究されています。また、毎年さまざまな分野で未来予測が発表されていますし、それだけ「未来はどうなるか」というテーマは人々の関心が高いと言えるでしょう。だから、未来予測はコンテンツとして高く売れています。
経営においては、世界規模の大企業のほとんどは未来予測学者の助けを借りながら、市場の変化や需要の予測など、経営に関するリスクを減らそうとしています。多くの人が勘違いしているので念のため指摘をしておくと、リスクとは「危険性」ではなく「不確定要素の」ことです。危険であると100%わかっていたとしたら、それはリスクではなく、避ければいいだけの話です。たとえば、人が煮えたぎる溶岩の中に飛び込んだときのリスク(不確定要素)は0です。100%死ぬとわかりきっているからリスクはないのです。
経営において不確定要素は出来るだけ少なくしたいですが、経営は人間の営みであるし、さまざまな外部環境の影響も受ける以上、不確定要素を無くして確実に未来を予測することはできません。
それでも優秀な経営者ほど、できるだけ未来のことを知ろうとするし、そのことに時間やコストをかけて取り組んでいます。そりゃそうでしょう。未来がわかれば先手を打てるし、その恩恵はかなりのものです。神様が未来を教えてくれたらどれだけ楽だろう。AI(人工知能)が未来を完璧に予測してくれたらなぁ……。そんな妄想をしたことがある人も多いでしょう。
現実には未来を完璧に予測する方法はありませんが、限りなく未来のリスク(不確定要素)を減らし、有効な先手を打っていく。営業面ではライバルに先んじて何かを行うことはできます。
(2)意味のある2つの未来予測
さて、もう少し未来予測について考えてみます。一口に未来予測と言っても、総務省が発表している人口統計などのように、ほぼ確実に起こるようなものもあれば、「今年は阪神タイガースが優勝する」というようなほとんど願望と言うべきものもあります。人々の感情やお金の動きなどが複雑に絡み合った経済の分野でも未来予測を発表している人は多いですし、毎年年末には多くのビジネス誌でも「20XX年大予測」といった特集が組まれます。しかし、これがあまり当たらない。
じつは、未来予測が当たることには、さほど意味はありません。おそらくほとんどの人は、未来予測の目的を「未来をピタリと当たること」だととらえているのですが、未来予測の目的は未来を当てることにあるのではなく、当てようとすることとそのプロセスに意味があります。
もしめでたく未来予測の結果が当たったからといって、その原因となった根拠がずれていたとしたら、単に結果だけが偶然一致しただけということです。結果が当たることを追求した未来予測はギャンブルと変わりありません。未来予測は、発生する事象に影響を与える関連要素を分解し、それらの中から不確定要素をできるだけ確定要素に変えていく論理的で科学的なプロセスです。
未来予測のありがたさは、「起こりうる可能性があること、不確定だけど起こってもおかしくないことをあらかじめいくつか想定しておき、対策が講じられること」にあります。そのためには、まず、ほぼ確実に起こりうる未来を把握しておくべきです。
ほぼ確実に起こりうる未来とは、たとえば「2025年に大阪万博が開催される」というようなことです(東京オリンピックが延期になったりする時代で、そこまで確実ではないかもしれないが)。このような決定事項、つまりほぼ確実に起こることになっている未来は、未来に向けての意思決定に必要な材料の1つとなります。ほかには「イワシが不漁になれば値上がりする」というのも、因果関係が明確でほぼ既定の事実と言えるが、大阪万博のケースほど確定的ではないでしょう。
仮にイワシの漁場が汚染されていたというニュースが流れたらイワシの価格は暴落するかもしれないし、海外で豊漁になり冷凍物が安く出回るかもしれない。しかし、そういう要素の影響を受けることをわかっていながらも過去の事例、いわゆる「過去にある未来」からおよその需要の予測はできるので、だいたいの価格は予想できます。
「過去にある未来」とは、過去の事例から法則のようなものを導きだし、それによって繰り返すことなどが予測できる未来のことです。
まとめると、未来予測は「確実に起こりうる未来」と「過去にある未来」を参考にしながら、冷静に事実を分析し、論理的に予測していくことが大切であるということです。特に「過去にある未来」は、私たちが未来予測をするときに大いなる指針を与えてくれますし、「確実に起こりうる未来」に比べて活用している人が少ないので、競合との差を生み出すポイントになります。
繰り返すと、大阪万博2025のように「確実に起こりうる未来」と、イワシの価格のように「過去にある未来」が未来予測に欠かせない2つの指標となります。
(3)組織の未来予測
では、経営において、特に組織作りにおいて、どのように未来予測をして組織を変革し、来たるべき未来に備えると良いでしょうか?
組織作りや組織運営の分野で確実に起こりうる未来とは、あらかじめ決まっている社員の定年退職の時期や期間労働者の退任時期などであり、意外に少ないものです。ですので、もう1つの未来予測のための指針として過去の事例、つまり「過去にある未来」が重要になってきます。
古今東西、無数の企業がそれぞれに多種多様な組織を作り上げ、そして、栄枯盛衰を繰り返してきました。過去の無数の組織の変化から導き出された法則(過去にある未来)をヒントにはできまいか、と考えて調べると、そのような研究はたくさんあります。組織が今後どのような状況になり、変化を強いられるか、もしくは成長のために変革をすべきか、ということが自ずと明らかになっていきます。
ここで重要になるのが、「組織のライフサイクル」の見極めです。組織の現状、中核メンバーである経営者やマネジャー層の気質などを把握し、企業が今どの成長ステージまで登ってきているのか、次のステージに登れていない原因は何かを明らかにすると、未来に向かって組織を変革していく上で経営が参考にすべき指針が見えてきます。
ここで、多くの経営者がはまってしまう罠が3つあります。
まず、社員の気質や基本的な考え方から変えていこうとすることがあります。三つ子の魂百まで、というが、人が生まれながらに持ち合わせている気質は変わりません。人を置く器である組織を変えるために、経営のインフラを見直したり、経営者から行動を変えていくことが先決です。経営の分析から着手すべきです。
次に、現状を把握しないで、いきなり変えようとするケースもあります。これでは、現在地もわからないのにとりあえず冒険に出るようなもので、表層的な解決策が効果を発揮しないということも生じます。地図があって現在地がわかっていてはじめて、自信を持って果敢に冒険へと出発していくことができます。
最後に、独力で組織を変革しようとすること。これが3つ目の罠であり組織変革の失敗の原因となります。組織の中にはそれぞれ固有の常識が存在し、それによって生じている問題が多々あります。そんな状況で、指針とすべき過去の膨大な組織の変化から導き出された法則を知らずして、己の知識や常識の範囲から生まれた方法で組織を変革しようとすることは危険です。優秀な経営者ほど、第三者の専門家の力をうまく頼ろうとします。第三者の視点は賢者の視点と言われますが、それを活用しない手はありません。
逆に、第三者の専門家の手を借りて、組織の現状とマネージャー層の現状を把握し、組織を変えていこうとすれば、組織の未来は明るいものにできます。組織の未来がわかれば、明るい方だけを取捨選択すればいいのですから。
あなたの組織に3年後何が起こるか、あなたは予測できているだろうか。その指針を持っているだろうか。
「必要な人材が足りないため売上の機会ロスが生じている」という現状がある場合、3年前にさかのぼると「3年後このままでは必要な人が足りなくなり売上の機会ロスが生じる」ということがわかっていたに違いないのです。その予兆に3年前、気づいて手を打たなかっただけなのです。その愚を繰り返してはいけません。
「未来を見ないで、何が経営か」と思うこともあります。いくつもの組織を変えてきた私は断言できます。組織はいくらでも変えられる。強い組織を築き上げ、ビジョンの達成に向けて力強く前進していくことができる。そして、組織の未来作りの指針とすべき法則はすでに複数存在していることを多くの経営者に知ってほしいと思います。
それらをどんな企業でも活用できるようにした組織診断があります。古今東西の多くの企業組織の変化に基づく知恵を結集して作り出された診断システムを活用すると、組織の現状と未来を予測するだけでなく、打つべき手を具体的に見つけることができます。まずは、情報を集めることから始めてはどうでしょう。