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安澤武郎

組織変革コンサルタント・マネジメントコーチ

安澤武郎(やすざわたけろう) / 経営コンサルタント

ペネトラ・コンサルティング株式会社

コラム

どうして期待した幹部候補生が失速をするのか?(2/2)

2020年2月16日

テーマ:経営者向け

コラムカテゴリ:ビジネス

コラムキーワード: 組織マネジメント組織開発リーダーシップ スキル

昨日の続きです。

【アクティブ・ノンアクション】
 チャレンジが足りていなかった方の中には、立場に安住をして、挑戦をやめてしまっていた人もいますが、全員が安住をしていたわけではありません。目の前の仕事に一生懸命取り組んでいたが、うまく成長できなかったというケースも多いです。

「アクティブ・ノンアクション」という言葉をご存知でしょうか?どこかで紹介をしたような気もしますが、改めて紹介をします。この言葉は「忙しいけど価値を生んでいない仕事をしている」状態のことを表しています。ローマ帝国の哲学者セネカも「ビジー・アイドルネス(busy idleness)」という同じ意味合いのことを表現しています。2000年前から存在する概念だとすると、人間の性質として、誰もが気をつけないと陥ってしまう状態なのだと思います。

 私は「アクティブ・ノンアクション」には2種類あると考えています。業績につながらない仕事に忙殺され、忙しくしていることで仕事をした気になってしまう「アクティブ・ノンアクション」と、自分の役割を果たせていないのに、業績が上がってしまうので仕事をした気になってしまう「アクティブ・ノンアクション」です。前者は短期的な業績の低下に現れ、後者は中長期的な活躍の場を失うという結果に現れます。

 大切な社員を後者のような状態に陥らないためにも、「チームスキルを磨く」「リーダースキルを磨く」、という観点を社員に教育していくことが必要になります。仕事人生でのステージが上がるたびに、「自分の役割は何か?」と、自分の「ありたい姿」を描かせ行動を起こさせるのです。描かせた姿の中に「自分はこんな力をつけたい」と自分をレベルアップさせるテーマが入っていない人は要注意です。「アクティブ・ノンアクション」に陥りかけています。

例えば、主任になれば、後輩のお手本になることが求められます。「周りの後輩が一人前になるために自分が見本になれているか?」を考えさせると良いでしょう。係長であれば、「課長の代わりができるか?」という観点が必要です。(課長の代わりに)「大局観を持ってチームの方向性を語れるか?」「部分最適に陥らずに、周りの部署と連携して課題解決を進めることができるか?」などがチェックポイントになります。課長とは経営者の代わりに一つのチームを任された責任者です。「自分は経営者として通用するか?」という水準で考えさせることも一つです。経営とは環境の変化との戦いです。社外に目を向けさせ、未来を考えさせる働きかけも必要です。人を動かすための技術も磨かないといけないでしょうし、経営理論などビジネスの知識を深め、大きな課題解決を成功させる力を高めることを求めていくべき段階です。部門長になれば、まさに経営者と一緒に会社を運営している感覚になるでしょうか?経営者の考えに迫り、専門分野においては経営者の考えを超える観点での提言をして会社を動かすことが求められます。経営者と同等の使命感を持って組織メンバーの心を挑戦すべきことに向けさせるのも役割です。

 そういうテーマを持って自分をストレッチさせていけば、5年後、10年後にも周りから必要な人として頼られ、通用し続けるでしょうが、過去の蓄積だけで仕事をしてしまうと、忙しいけど、業績は上がるけど、不本意な人生になるかもしれません。時間を無駄に過ごしてしまうと取り返しがつきません。そのことを気づかせることがリーダーを育てることにつながります。


【燃えることのできるテーマ】
 冒頭の話に戻ります。あなたの社員は「燃えることのできるテーマ」を仕事の中で持てていますか?どんなことでも良いと思います。会社の業績につながるテーマ、その中で自分の成長につながるテーマ、ちゃんと定めることができていますか?
 
この挑戦は「自分のために」真剣に考えて取り組むべきことです。経営状態が悪くなった企業であれば強制的に自分を変化させなければいけない環境にもなりますが、安定している企業では違います。社員自らテーマ設定をしなければ、業績に隠れて安住をすることもできてしまいます。その安住する人が多くなると、社会に必要のない会社になってしまいます。強制されての挑戦で成長をすることは難しいし、面白くありません。「課長なんだからこれくらいやってよ」と義務感で求めても自律的な挑戦になりません。社員が自分のために自分で設定をする風土・環境を作ることが大切になります。

先日、トヨタ自動車の豊田章男社長の今年の年頭挨拶を拝見しました(豊田社長年頭挨拶 ~一歩踏み出した人たちへ~)。映像から豊田社長の危機感が伝わってきました。自動車メーカーから、モビリティカンパニーへと企業が変化をしようと挑戦をしているのに、「自分には関係ない」という感覚を持って変化できない社員の存在を危惧されています。成功体験が強く、変われない社員、安住する社員が多いのでしょう。トヨタは人事制度も変化させ「過去の知識や経験が通用しない畑違いの企業への社外出向を増やす」ようです。強制的に環境を変えないとなかなか変化をできないのが人間であり、成功企業の宿命なのです。

 否定的なことを書きましたが、安定した企業・成功企業で働くということは、多くの挑戦機会があることも意味します。とてもポジティブな環境であることは間違いありません。そういった企業には、新しい商品やサービスを生み出し、世の中にインパクトを与えていける可能性があるはずです。それだけの商品を創り、造り、普及し、届けるチームを活かすも殺すも本人次第のはずです。「チームスキルを磨く」「リーダースキルを磨く」ことによって大きなチームの力を活かして様々なことに挑戦をすることが仕事の醍醐味であり、人生を通じてその実力をつけていくことが幸せなことのはずです。

今すぐに大きな仕事はできなくとも、目の前の仕事の中で挑戦できるテーマをセットし、一生懸命燃えて仕事をすることが大切です。それがあなたの社員の未来を拓き、会社の未来、国家の未来を拓いていくことに繋がります。「あなたの会社の社員は燃えているか?」点検をしてみて欲しいと思います。

この記事を書いたプロ

安澤武郎

組織変革コンサルタント・マネジメントコーチ

安澤武郎(ペネトラ・コンサルティング株式会社)

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