やりたい仕事に取り組ませる(1/2)
経営者であるあなたはきっと自社の組織のことをだれよりも大切に思っていて、そこに属する社員の幸せを願っているだろう。
だから、あなたは組織を良くしたいと考える。
だが、自分の組織作り、組織運営の方法に少なからず自信を失っているはずだ。
むしろ自分の組織運営方法に自信満々な経営者は、ごくわずかしか存在しないと思う。
なぜなら、せっかく組織をより良くしようと努力しても、日々、組織の人間関係や営業成績の低迷など、さまざまな問題が起こり、それの対処に忙殺されているからだ。
私は日本全国で講演させていただく機会が増えていて、先日もある地方企業の経営者から、
「腕利きの営業部の社員が来月辞めてしまう。もう、どうしたらいいか……。せっかくいよいよ当社も波に乗ってきたと思っていたところなのに、どうしてうまくいかないのか」
という悩み相談を受けたばかりだ。
ほとんどの経営者が組織作りについて1から学んだこともなければ、組織運営が正しいかどうかということを評価する機会もなかったはずだ。これでは、客観的に何が正しいかどうか、ということを知りようがない。
そのために、ぜひとも1から新しい組織を作り上げるような気持ちで、楽しくチャレンジしていくような気持ちで、今の組織を変革していってほしいと思うし、その第一歩として組織変革診断を受けてほしいと思う。客観的な現状把握と今後の指針を得るヒントを手にしてほしい。
身体の健康診断と同じだ。医師というプロフェッショナルから、あなたの身体の現状と今後注意するべきことなどについてアドバイスをもらえれば、安心できるし、前向きに健康への取り組みをしていけるはずだ。
現状を知らずして、当てずっぽうで組織を振り回してはいけない。それでは組織変革ではなくて、単なる破壊になってしまうだろう。
診断もせずに、あてずっぽうに薬を飲んだらどうなるか、だれにでもわかることである。
ところで、自分の会社を良くしたいと心の底から思っているあなたの組織変革を邪魔しているのはだれだろうか。
きっとその犯人がいるはずだ。ここでは敢えて犯人捜しをしてみたいと思う。
まず、疑わしいのは役員だ。
給与(役員報酬)もそこそこ支給しているが、新しいことを吸収して自分を成長させていこうという意欲に乏しく、まず勉強などはしない。しかも、過去に会社の業績に貢献してきたことからプライドが高い分、なかなか素直に経営者の言うことを聞かない。生意気にも派閥らしきものを作っていて、中間管理職にも同調するものたちがいる。仮に組織変革に協力的だったとしても、年齢的にも染みついた慣習は一朝一夕では変えがたい。
そんな彼らは組織変革を邪魔する犯人の容疑者と言えるかもしれない。
次に課長クラス以下、中間管理職だ。
働き盛りが多く、頭がいい者も多いがとにかく忙しい。上からの無茶な指示と下からのクレームに板挟みになりながら胃を痛くして頑張るのが中間管理職の仕事だと信じている者もいる。現実に十分に痛めつけられていて傷つき、そのため組織を変えられることなど素直に信じられず、絵に描いた餅であると片付けようとする。
最後に、プレイヤークラスの一般社員だ。
会社の最前線で戦っているという自負を少なからず持っている彼らには顧客が付いている。何かあれば「それでは顧客が離れます」「そんなことではお客様のためにならないのではないですか?」とお客様の存在や要望を盾に変化を避けようとする。また「経営者は現場を分かっていない!」というような批判をする者もいる。しかも、それらの主張は不健全な愚痴となって、経営者から見えないところで組織の中に蔓延していく。
もちろん、すべての組織人がこのような現状にあると言うつもりはない。だが、似たり寄ったりで、あるあると頷いている経営者も多いだろう。
そんな組織の中に今年も来年も新入社員を迎え入れていくことになる。そして、真っ白な頭脳と心を染めていくことになる。
「これが大人の社会だってわかっていたよ」などと、彼らにうそぶかせていいのだろうか。ちょっと考えてみてもいいはずだ。
さて、役員、中間管理職、一般社員と、だれもが容疑者の可能性がある。
彼らの中から組織変革の邪魔をしている犯人は見つかるだろうか。
うすうすお気づきだろうが、犯人は彼らの中にはいない。
組織は経営者の鏡である。
だとしたら、組織作りや組織運営がうまくいくのも、組織変革が成功するのも、経営者次第だ。経営者の実力以上に繁栄し続けることなどありえない。
あえて言うなら、組織変革を邪魔しているのは、経営者本人だと言えるかもしれない。
そもそも、抵抗勢力のいない組織変革などありえない。しかし、抵抗勢力への正しい対応方法は確実に存在する。
物事を変えるときに、変化への抵抗がないということを期待する方が無理というものである。性格が素直な人物が100人いたとしても、それぞれに先入観や染みついた癖がある。人間だから、なかなか変わることはできない。もし簡単に変われるとしたら、それはそれで不都合も多い。
人は、今居るところに居続けたいという欲求を持っている。なんだかんだ言って、今いるところが居心地がいい。その場所を「コンフォートゾーン」という。居心地がいいため、そこから抜け出すということは難しい。
そのため、どの人も、なりたくなくても抵抗勢力にならざるを得ない宿命を背負っているとも言える。
では、どうすれば、個人が個人のコンフォートゾーンから抜けだして組織変革がよりスムーズに実現でき、組織としてのパフォーマンスが向上するのだろうか。
逆転の発想をすればいい。
人を居心地のいいコンフォートゾーンから抜け出して厳しいところに連れて行こうとするのではなく、一人一人にもっと居心地のいいところを作ってあげるのである。
厳密に言うと、現在、ほとんどの組織では人は「偽りのコンフォートゾーン」に居る。
給料がもらえるから、家族が生活をしていけるから、両親も安心してくれているから、失業した友人よりましだから、というような理由で、愚痴をこぼしながらでも、とりあえず今のところに居続けている人があまりにも多い。
それそろあなたのかわいい社員たちを「偽りのコンフォートゾーン」から抜け出させてあげてほしい。
偽りのコンフォートゾーンから抜けだして「本物のコンフォートゾーン」への大移動。それが本当の組織変革なのだ。
本当の組織変革はだれかが犠牲になるようなものではないし、辛さや苦痛を伴うものではない。組織変革が進めば進むほど、組織が楽しさや活力に満ちてくる。そして、業績向上という果実を得ることができる。
精神論を持ち出して「なんで変われないんだ!根性だ!根性が足りん!」「変われないのは意識が低いからだ!」というように部下を怒鳴りつけるようでは逆効果だ。そのようなことをすれば、人はますます「偽りのコンフォートゾーン」に閉じこもるか、組織そのものに愛想を尽かして、優秀な人から出ていってしまう。それでも組織に残るのは自己評価が低い人だけだ。
では、どこへ移動すればいいか。新しい「本物のコンフォートゾーン」はいったいどこにあるのか。
それを知ることができるのが組織変革診断だ。
組織変革診断では、現状を知るための診断プログラムによって、組織のステージにふさわしいあるべき姿と現状のギャップを知ることができる。
また、主要な人材の特徴とふさわしいポジションや役割も浮き彫りになる。新しい組織のあるべき姿やそれを作っていくステップがつまびらかになる。
だからといって、組織変革診断はだれかを攻撃する材料になったり、だれかの出世を妨げるようなものにはならない。むしろ、組織に属する全メンバーが恩恵を受けることになる。
だから、どの組織でも受け容れやすいと言える。そもそも受け容れやすくないものは使い物にならないただの理想論であることが多い。
定期健康診断がほとんどの企業に導入されているのに、定期的な組織変革診断がほとんどの企業に導入されていないのは、私たちの努力不足だと受け止めている。
定期健康診断も、もし法律で義務づけられなければどれだけ普及していたかわからない。しかし、その結果、国の社会保障予算を大幅に抑えることに貢献していると言える。
企業の健康状態と打ち手を知るための組織変革診断も法律で義務づけられれば、絶対に日本経済は上向くはずだ。組織の生産性、営業効率は確実に上がる。
組織変革診断を定期的に受診していることを自慢できる仕組みを作るなど、普及のための努力をしていきたいと考えている。
私は、組織変革のプロだ。
だが、世の中から、私のような組織変革のプロが不必要になればいいと思ってもいる。すべての組織とそこで働く人々が幸せになってくれるなら、それに越したことはないからだ。医師が病気の人がいなくなることを願うようなものだ。
すべての組織が一晩にして変革できるような魔法があればと思ったことも何度もある。
すべての組織で働く人々が幸せになった暁には、私は人々が気軽に立ち寄れるバーのカウンターの内側でカクテルでも作ってバカ話でもしていたいと思う。
だが、現実には、もう少し私のようなコンサルタントが必要とされるだろう。
組織変革の魔法はしばらく見つかりそうにないが、組織変革診断は、あなたの組織に魔法のような結果をもたらすはずである。