社長の力量が足りないと社員は育たないのか? (3/3)
社員に感謝される組織とはどんな組織だろうか。経営者にとって、社員に感謝される組織を築き上げられたら、それはたいへん経営者冥利に尽きることだと思う。
社員に感謝されることは簡単である。ただし、少々無理をしてでも、その場しのぎの方法で社員に感謝されたいのであれば、という条件付きだが。
経営状態が芳しくなくなり、自社の雰囲気の悪さに耐えきれなくなったある経営者は、なんとしてでも、自社の雰囲気をよくしたいと考えるであろう。しかし、無理をして銀行に借り入れをしてまで社員に年末のボーナスを支給したところ、社員は涙を流して喜んでくれたが、1年後には会社がなくなっていた、というような自体に陥るようであれば本末転倒である。
また、仕事でミスをした社員を飲みに誘い出し、ここぞとばかりに夢を語って、酒に酔った赤ら顔の社員から「ミスをした自分を叱るどころかこんなにも僕のことを……。これからも社長についていきます!」と言わせて悦に入るという人情技も、昨今の冷めた世代には通じない。下手をすればパワハラ、時間外労働と言われてしまう。
私は「感謝の質」を問題にしたい。経営者には感謝の質の違いを知っていただきたいと思う。
どちらがより重要だということではないが、感謝には短期的感謝と長期的感謝がある。
短期的感謝は、エナジードリンクのようなものだ。
「良いことをしてもらった」という感謝の念を人間はすぐに忘れる。
「お返しをしたい」と頑張る気持ちにはなるが、与え続けなければ枯渇するし、より大きな刺激を与えなければ効果も薄れていく。
一方、長期的感謝は、例えるならフィットネスだ。
体そのものが強くなれば、その効果は蓄積され、安定し、すぐに失われることはない。
「自分が幸せな境遇にいる」「自分は立派に育ててもらった」という
人生を良い方向に向けてもらえたという感謝の念は、ことあるごとに思い出され、人の人生を支える土台となる。
社員に長期的に感謝される組織はいったいどんな組織なのだろうか。
経営資源のシナジーを検討するのに役立つフレームワーク7Sはご存じだろうか。
7Sは社員の長期的感謝と密接に繋がり、従業員エンゲージメントを高める切り口になる。
「Shared Value(価値観)」は、企業が何のために存在するのか? 我々は何者か?という存在価値を定義するものになる。
その企業で働くことの意味や意義を感じている社員は、その企業に所属することに満足感を覚える。
社員を引きつけるValueであれば、少々キツイ仕事であっても「我々の使命のため・貢献をするため」というモチベーションで乗り越えられる。
次に「Strategy(戦略)」だ。いくら崇高な理念を掲げても、同じような理念を掲げている競合企業は5万とあるであろう。
その中でも他の企業よりも価値あるサービスを提供できているという自負が社員満足・感謝につながる。
そのために重要なのが、戦い方を規定する戦略になる。
価値観が共有され、秀逸な戦略のもとで戦う集団に必要になるのが、「Structure(組織体制)」だ。
「組織は戦略に従う」と言われるが、戦略を遂行する際に最適な配置、人の特性に合わせて社員が最も能力の発揮できる配置にしておくことが必要となる。
例えば、新しいアイデアを生み出すことが得意な人に、数値管理業務を担わせても宝の持ち腐れだ。(画期的な管理方法を編み出すかもしれないが)
人は自分の能力が活かされていると感じる時に自分の価値を感じる。
そして、そういう環境が得られていることに感謝をするものである。
人に能力を発揮させる上で「Skill(技術)」開発も鍵を握る。
社員の技術開発を支援し、生きていくための能力を磨かせることを怠ってはならない。
本来は自ら研鑽すべきものかもしれないが、企業として誰もが成長できるよう支援をすることは重要だ。
最近の若手が企業を選ぶ際に、「教育をしてくれる」という条件が上位に入っている。
育ててもらった恩義は長期的感謝として社員の定着にも一役を買うであろう。
7Sの5つ目は「Staff(人財)」になる。
困った時に助けてくれる仲間、相談できる仲間など、良き仲間と仕事ができることに人は感謝をする。
職場での良き仲間とは生涯の付き合いとなるであろう。
人間は弱い生き物であるが、傷を舐め合うのではなく、一緒に可能性に目を向けてくれる存在は貴重だ。
そんな相互補完関係を組織内に構築することが「Style(行動様式)」である。
この目に見えない組織文化や人の強さは財務諸表には現れない企業価値であり、
一度構築をしてしまえば、他社の追随を許さない強みとなる。
7Sの最後は「System(仕組み)」だ。
これも人間の弱さを克服するための手段として必須だ。
集団で仕事をする際には、決まった方法・手順・道具が用意されていることで効率化が図れる。
効率的に良い仕事がしたいという欲求は誰もが持ち合わせているものだが、
職場環境への満足度においても、「無駄がない」ことは大きなファクターになる。
このように長期的な感謝の醸成には、いくつかの明確なポイントがあることを知っていただきたい。ここに上げたポイントすべてを完璧にしなければならないと主張するつもりはない。しかし、目安となることは理解していただきたい。
私は組織変革コンサルタントとして、特に企業を営業成果が出せる強い体質の組織に変えることを使命としている。
たとえば、社員に感謝されないで、とりあえず売上を上げることを目指すのであれば、マーケティング面を強化して、広告費を効率的に投下するようなことに取り組むべきなのかもしれない。
ただし、それでは比較的短期的な成果しか見込めないことがわかっている。効果的な広告手法は、たちまちライバルに知れ渡りまねをされるからである。世の中にほとんど同じような広告があふれるのはそのためである。
一方、組織の変革はまねされることはまずない。
組織を変革させるだけではなく、将来的に成長を見込めるように安定させていくためにも、長期的な成果を追求していくことが重要である。
そのための要諦が、せっかく育った優秀な社員にとって居心地がいい場所を作ることである。人材やノウハウが社外に簡単に流出していかないようにしなければならない。
人材の流出やそれに伴うノウハウの流出は経営者にとって恐怖であり、組織にとって脅威である。
本当の意味で社員にとって居心地がいい組織を作らなければ、せっかく成果を上げられるようになった人材が、この先も長期的に御社で活躍し続けようと思えなくなることは目に見えている。
優秀な人材が抜けていく可能性を0にすることはできないが、0に近づけることはできる。
後輩社員にとって優秀な先輩が組織から抜けていくことは、取り残された感覚をもたらし、いずれ自分もと考えるようになる。
取引先からすれば、取引をする意義を見失う場合も起きるであろう。
「優秀な担当者の転職」は組織の状態を計るバロメーターであり、長期的なお付き合いをする関係であればリスク情報となる。
その人材の転職先の企業からすれば、二匹目のドジョウを狙うかもしれない。
売り手市場の現在の人材市場において採用コストは馬鹿にならないもので、活用しない手はない。
短期的に感謝され、しかも長期的にも社員に感謝され続けられる組織にするのか、そういう組織にすることをあきらめてしまうのか。判断を下せる立場にあるのが経営者だ。その立場を生かし権利を行使すべきときは、いつだろうか。まさに、今でしょ!である。
こんなことを言うと、
「では、何から始めたらいいの?」
という声が聞こえてきそうである。
お答えしよう。まずは、己を知ることが重要である。現在地を把握するのである。
残念ながら、社員に長期的に感謝され続ける組織を作るための第一歩を間違う経営者は多い。
間違った行動とは、とにかく闇雲に行動してしまうことである。それは、組織の現状をひとまず肯定して、いびつなまま固定化してしまうことにつながる。本来あるべきではない状態を一度肯定してしまうとリカバリーは難しくなる。たとえば、一般的な組織であれば一度課長に昇格させた人を降格させることを安易にできるはずもない。
間違った組織作りの方向へと進んでいくことの怖さを想像してほしい。
あなたには第一歩を間違えてほしくない。現在地もろくに把握しないで、いったいどこに向かうというのだろうか。地図も持たせずに、あなたのかわいい会社をいったいどこへ向かわせるのか。多くの人材が付いてこられずに迷子になることは目に見えている。
現在地と行き先を示せない心許ないリーダーに、御社の社員は付いていきたいと思うだろうか。
現在地とこれから進むべき方向を自明のものとするためにぜひ活用していただきたいツールがある。それが組織変革診断だ。
組織変革診断は、企業の組織の現状、問題点を明らかにし、やるべきことを教えてくれる。やるべきことがはっきりと見えたら、社員はむしろほったらかしでも動いてくれる。
迷走期間が長いほど組織の変革は困難になっていく。できるだけ早く組織がより健全な理想的な状態に戻すべきだ。
社員に感謝される組織にできるかどうかは、とにかく経営者の考え方と行動にかかっている。経営者の人柄でごまかせるようなものではない。
どうか、自社の組織の現状を客観的に科学的に把握できていない経営者には、冷静になるだけではなく、現状を知る勇気を出していただきたいと切に願う。そんな勇気を出した経営者の第一歩を力強いものとするために、私はサポートを惜しまないつもりだ。
この場では公にできない情報もあるため、まずは組織変革診断の資料請求をしていただければありがたい。