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安澤武郎

組織変革コンサルタント・マネジメントコーチ

安澤武郎(やすざわたけろう) / 経営コンサルタント

ペネトラ・コンサルティング株式会社

コラム

今年一年を素晴らしい年にするための「目標設定」と「目標の活かし方」の話

2018年1月5日 公開 / 2020年4月30日更新

テーマ:マネジメント

コラムカテゴリ:ビジネス

新年あけましておめでとうございます。やる気に満ちた一年のスタート、皆様今年の目標を描いておられるかと思います。「目標設定」はマネジメントの基本中の基本ですが、なかなかに奥が深いものですので、今回は目標設定について考えを深めて見たいと思います。


 組織変革では「高い目標」に挑戦をすることが基本となっていますし、多くのビジネス書でも「高い目標を掲げて挑戦をすること」が奨励されています。しかしながら、「高い目標」は諸刃の剣で、使い方を誤ると良い結果が得られないどころか、悪い結果を招く場合もあります。いかがでしょう?「高い目標を立てて良かった」という経験をしたことはあるでしょうか? 逆に「高い目標」によって苦い経験になったことはあるでしょうか? 


 高い目標を立てる意味合いやコツを見出すためには、以下のような問いについて考えてみると良いでしょう。どんな答えを持たれているでしょうか?

 「どのような場合に、「高い目標」を活用すると良いのか?」
 「目標はどれほどの高さに設定をすると良いのか?」
 「高い目標を活かすためには何が必要か?」


■ 「できる」と「できそう」の関係
 ここで少し別の角度(営業の事例)から考えてみましょう。売れる営業マンは、「自信を持って営業をしている」という特徴があることは体感的に分かるかと思います。では、どうすれば営業マンは自信を持って販売をできるようになるのでしょうか? 

 若い営業マンの場合、「成功体験によって自信につながる」ということは間違いなくあると思います。ラッキーパンチであったとしても「この商品は売れるんだ」「このトークで売れるんだ」という学びが自信につながります。しかし、このパターンで自信をつけているだけだと(成功体験がなければ自信が持てずに売れないようだと)、新しい商品になった際、難易度の高い顧客に対する営業の際、壁に阻まれやすくなります。

 本当に売る力のある営業マンは、「まだ売れたことのない商品やサービス」であっても、「売れそうだ」というイメージを構築して営業をします。その結果、売ることに成功しています。売る前に、売れるイメージを作ること、「売れそうだ」と自分に信じさせる力があります。組織の場合は、そういう「売る力のある営業マン」が売れるイメージを作って販売に成功し、他の人もその姿を見て「売れそうだ」というイメージを持てるようになり、売れていきます。

 本質は、「成功体験があるから売れる(「できた」から「できそう」に思える)」のではなく、「売れるイメージが持てるから売れる(「できそう」だから「できる」)」のです。この因果関係を間違えてはいけません。


 これは脳科学、認知科学の研究でも言われていることで、人間の脳は「現状維持」が大好きです。例えば、スポーツの世界でも、「強豪の対戦相手に対して上回っているイメージ」が持てていない状態では、無意識は「負ける」方向に作用します。負けるイメージが頭をよぎり、過度に緊張もするし、自然体ではいられません。心配性の人が、「こうなったらどうしよう」とトラブルや失敗をイメージすると、現実的に失敗しやすいということもあるようです。

 一流の世界で活躍をしている人は、「活躍できて当たり前」という意識を持っています。例えば、孫正義さんなどもそうですが、「世界をリードする企業を経営できて当たり前」
になっていると思います。最初からそういう意識だったのか、後からそうなったのかは私には分かりませんが、後者ではないかと思います。しかし、「できそうにないことをしたいと思う」→「どうすればそうなれるかを思い描いてクリアする」という思考パターンに関しては、昔から持っていたのだと思います。その結果、一段一段ステージを上げ、今の段階にまで昇ってこられたのではないでしょうか?

 この「どうすればそうなれるかを思い描いてクリアする」がなかなかに難しいのですが、先ほどの営業マンの話のように、「現在の世界(できていない世界)」よりも「できるようになった世界」の方が現実的に感じられるようになった時、意識も行動も自然にその世界に見合ったものになっていくようです(脳科学では)。これは、自分の心の中の世界なので誤魔化しは効きません。いくら「そうなりたい」と願ったところで、根拠のない自信を持っていても、具体的なイメージを持てていないことは実現しない、「できて当たり前」と感じられるまで細部を描いていくことがポイントになります。

 これが成功している人に共通する思考パターンで、「高い目標」を活用する際のエッセンスです。冒頭の質問に対する私の答えを書くと、

 「どのような場合に、「高い目標」を活用すると良いのか?」
  → 現状より、自分やチームの未来(業績)を良くしたい時
 「目標はどれほどの高さに設定をすると良いのか?」
  → 少なくとも、現時点では達成できるイメージが湧かない高さ
 「高い目標を活かすためには何が必要か?」
  → 達成できるイメージを現実的に感じられるまで具体的に描くこと
 となります。

 「現時点では達成できるイメージが湧かない高さ」に目標を設定するのは怖いものです。それは、「失敗が怖い」のかもしれませんが、無意識の世界では、現在の快適な状態が変わってしまうので怖く感じるようです。「自分の未来をよくしたい」とはみなさん願っているでしょう。しかし、「そうなって当たり前」と描けている人は多くありません。今いる世界と別の世界のことはイメージが湧きにくく、しっくりこないからです。そこで、「達成できるイメージを現実的に感じられるまで具体的に描く」方法論が必要になります。


■ 「できそう」を作る方法
 「できそう」を作るために、「高い目標」を立てた後に「WHATツリー」や「HOWツリー」を作成することを推奨しています。WHATツリーは「目標を達成するために必要な要素は何か?」という要素分解をする道具で、HOWツリーは「どうすれば目標を達成できるか?」という問題解決策の整理に使う道具です。何れにしても、最初は道筋が見えていなかった目標に対し、「できそうだ」と思えるようになることがツリー作成のゴールです。そこまでいかなくとも、「できるかも」と作成前より達成イメージを具体化することに価値があります。「できそう」を作るためには、「WHATツリー」「HOWツリー」でなくとも、営業ストーリーや切り返しトークを具体的に描ければ、他の方法でも大丈夫です。本質を大事にしていただきたいと思います。

 私や同業の組織コンサルの経験の中では、「WHYツリーを作成すると、目標を達成できない。目標達成にはHOWツリーが有効だ」という定説があります。
 (WHYツリーは「なぜ?なぜ?」とできない理由や問題の原因を掘り下げる手法)
*詳しくは拙著「ひとつ上の思考力」をご参照ください。


これは、WHYツリーができないイメージを増幅するからです。それに対し、HOWツリーは「できる方法」を徹底的に考える道具であり、そのことによって成功イメージができ、目標達成に近づくのです。
(機械装置の分析にはWHYツリーも有効ですが、特に営業ではHOWツリーに限ります)



 もちろん、ロールプレーや実践で可能性を発見することも「できるイメージ」を作るためには有効かつ必要な手段ですし、イメージを描くためには前提となる情報や知識を備えておくことが必要になります。

そういうことをただ闇雲に行うのではなく、事前にアイデアの幅を広げ、全体像を捉えた上で重要な活動にフォーカスしていった方が良い結果が生まれます。

 チームで知恵を出し合って施策立案(イシューツリーの構築)をすることが大切な理由は、「一人の知恵だけよりも衆知を集めた方が良い作戦になるから」という理由もありますが、「チームメンバー全員ができそうなイメージを持つ(高める)ことによって、成功に近づける」という点がとても重要だと感じます。

 ここまで書かせていただいたことがマネジメントの基本です。「高い目標」を立てても、施策立案を行わなければ、おそらく失敗するでしょうし、逆効果(目標アレルギー)になることもあるでしょう。逆に、「高い目標」を目指していなければ、「施策立案」などせずとも達成できたりします。「高い目標」と「施策立案」はセットで活用すべきものです。今年の目標はイメージが湧かないくらい高い水準に設定し、チームで施策立案を行って挑戦をしてみてはいかがでしょうか?
 
 最後に、これまで「高い目標」を立てずに過ごしてきた人にとってみれば、「高い目標を活用する世界」に踏み出すこと自体が現実的にイメージの湧かない大きなチャレンジかもしれません。最初は、「高い目標を活用する世界」の住人と一緒に取り組むと良いでしょう。

本年が皆様の素晴らしい飛躍の一年となることを祈っております。

この記事を書いたプロ

安澤武郎

組織変革コンサルタント・マネジメントコーチ

安澤武郎(ペネトラ・コンサルティング株式会社)

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