中国政府向けの文書の認証
「難民調査官」(下村敦史さんの小説)を読んで
-難民認定申請-
書評を一つ。
下村敦史さんの「難民調査官」という小説を読みました。
刑事を主人公にしたり、警察小説は多くありますが、
難民調査官が主人公で、東京入国管理局を舞台した小説は、
あまりないのではないのかな、と思います。
テーマは、難民ですね。
(下村さんには、江戸川乱歩賞を受賞した、
中国残留孤児をテーマにしている、
「闇に香る嘘」という小説があるので、
ミステリーファンなら知っていると思います)
・小説の中、主人公のセリフで
「本物の難民は、独裁政権や当局などから弾圧、迫害され、
自国政府や警察に助けを求められない状況にあるからこそ、
保護を求めて他国に逃げなければ生きられない人・・・・・・」
と言わせていました。
・そして、
反政府的な思想をもっても、テロ行為はせず、
迫害の恐れがあれば・・・みたいな解釈
・母国の紛争から逃れてきた人
特定の集団から迫害されていても自国の警察が機能して助けを求められる人
は、条約上の難民ではない、
・実習先から逃げだした技能実習生からの偽造難民申請が多い
・たとえ、難民認定がされなくても、
人道的な配慮で在留を認めていること
などもキチンと触れていました。
マスコミでは、このあたりを触れていないこともあるせいか、
一般の人達は条約上の難民を理解していないこともあるので、
知識的に役に立つ小説です。
又、小説の内容そのものも面白かった。
後発難民性(日本で難民認定申請してからも、活動している)とか、
ドイツは難民の認定数以上に不認定も出している、
など、(私の不勉強ですが)初めて知ることもありました。
難民をおさらいしておきますと、
「難民」とは,
難民条約第1条又は議定書第1条の規定により定義される難民を意味し,
それは,人種,宗教,国籍,特定の社会的集団の構成員であること
又は政治的意見を理由として迫害を受けるおそれがあるという
十分に理由のある恐怖を有するために国籍国の外にいる者であって,
その国籍国の保護を受けることができないか又はそれを望まない者
とされています。
重複しますが、小説では、
自国の政治が不満で国外にでた者
経済的な困窮で国外にでた者
内戦や災害で国外にでた者
は、条約上の難民ではないこと、
審査を進めるにあたって、重要視されているのが
・自国脱出後から来日までの経緯
母国を非合法で脱出するしか方法がない
--正規の手段で堂々と母国を出国できるなら
自国の政府から弾圧されていない根拠になりうる
・陳述書(義務ではないが、審査では重要視される)
家族、出生時の状況、現在の国の情勢、受けた迫害の内容、帰国した場合の危険性
・後発難民性の活動
など。
又、政治的な意見を主張していないのだから、迫害される恐れはない
ことも触れていました。
実は、
日本に滞在していて、母国で騒乱があったことを聞き及び唐突に難民認定申請をした感じの人達から、
難民認定の目途について、相談を受けたことがあるのですが
(就労の在留資格を得るめどがついたら、
在留資格「特定活動」[適法滞在の人が、難民認定申請すれば得られることがある]
から「技術・人文知識・国際業務」に変更申請をする。
結果として変更許可を得られることもあるので、
それまでのつなぎみたいに考えている人もいる)
サポートするにしても、
「迫害の理由になるほどの政治的主張をするものの、テロ行為をしていない運動とは?」
は、現在の日本で生活しているとなかなか思いが至らないし、
あったとしても、帰国させられた場合に迫害される恐れがあるのか、ないのか、
も想像がつかないので、
当事者ではない国の人間が、
条約上の難民か、どうか、の判断はしずらく
宗教や民族、歴史的な経緯も、詳しく把握する必要もあるので、
「どう申告したら良いのだろうか?」と思ってしまいます。
続いて、
「サイレント・マイノリティ-難民調査官-」
-難民認定申請-
も、読みました。
「サイレント・マイノリティ-難民調査官-」は、
下村敦史さんの「難民調査官」の第2弾。
前作と同様に、東京入国管理局が舞台で難民調査官が主人公。
前作は、クルド人がテーマでしたが、今回はシリア人です。
おさらいです。
難民条約法における難民の定義は
「人種、宗教、国籍、特定の社会集的集団の構成員、政治的意見
のいずれかが理由で迫害を受けるだろうという恐怖が充分にあり、
その国籍国の保護が受けられず、他国へ逃げてきた者」
の再確認。
シリア人の難民認定申請の現状として
シリア人の初認定については、2015年3月。
それまで、60人は不認定であるが、45人が人道的配慮で在留が認められている
(EU諸国と違って、日本はシリアから遠いので、申請者が少ない)
母国の政府に迫害されているのならば、難民に当てはまるが、
紛争や災害、飢餓が理由で国外に脱出した「避難民」は当てはまらないものの、
生命に危険があるなどの人道的保護が必要という理由で滞在が認められるのは、
EU諸国と同じ。シリア人に関して、EU諸国では、実は、それが大半
など難民認定申請の現状と説明を折り込みながら
物語は、
日本に住むシリア人の殺害
収容されたシリア人の父娘の難民認定申請
殺害されたシリア人の配偶者の誘拐・・・
と進んでいきます。
又、この小説では、
世論を誘導しようとするジャーナリストの行き過ぎる行動
アサド政権だけではなく、反政府組織も問題があるのではないか
を、主人公や登場人物に言わせていて、
様々な角度から難民問題について描いています。
難民調査官が難民認定申請者へのインタビューで
政治的意見で迫害されていると言っても、政治に無知だったり
弾圧されている集団に所属している形跡が無かったり
で判断の一つにしたり、
最近、顕著になってきている、
偽造難民認定申請問題では、
入国管理局の代弁だと思いますが、
「入国管理局が認定した難民は、条約に基づいた難民である。
でも、不認定者は、全員が偽装難民申請者ではない。」
と主人公に言わせています。
伏線は張ってあるのですが、ラストに、どんでん返しがあり、
読みこだえのある小説でした。