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2020年4月以降に身元保証書を取るうえでの注意点

桐生英美

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テーマ:労務管理

2020年4月より、民法の「保証」に関する改正が行われるため、身元保証に関しては限度額の定めが求められることとなりました。そのため、社労士は、定期訪問の際に説明することとした。
以下、会話形式でお伝えします。

【桐生(社労士)】
本年もよろしくお願いします。いつもはご相談を伺っていますが、今日は身元保証の取扱いの変更について私のほうから説明したいと思います。

【黒田部長(お客様)】
よろしくお願いいたします。

【桐生(社労士)】
確か、御社では入社時に身元保証書を提出してもらっていましたよね。

【黒田部長(お客様)】
はい。正社員のみですが、採用が決定すると本人に書面を送り、入社日までに提出してもらうようにしています。多くの従業員が、両親や親戚を身元保証人として提出しています。

【桐生(社労士)】
今回、民法の「保証」に関する規定が改正され、2020年4月より施行されます。具体的には、個人の根保証(一定の範囲に属する不特定の債務について保証すること)に関する規定が変更となり、身元保証書に限度額(極度額)の定めが必要になります。

【黒田部長(お客様)】
現在は身元保証書に、「会社に損害を与えた場合には、本人と連帯して損害を賠償します」としていますが、今後は、この文章に限度額を記載しなければならないということですね。

【桐生(社労士)】
そのとおりです。今までは、身元保証人(以下、「保証人」という)となる時点でどれだけの債務(限度額)が発生するかが明確になっていませんでした。そのため、保証人は実際に保証すべき損害が発生したときに、想定外の債務を負うことになりかねない状況となっていました。そのため「○○円」と明瞭に保証する金額の限度額を記載することが必要になります。

【黒田部長(お客様)】
それでは限度額にどのくらいの金額を記載しておけばよいのでしょうか?

【桐生(社労士)】
限度額については、どの会社もいくらにすべきか悩まれています。あまりに高額だと保証人となることを拒まれ、あまりに低額だといざ、会社が損害をうけたときに、十分な保証が受けられないということが考えられます。

【黒田部長(お客様)】
 なるほど。金額についてはこれから検討しなければなりませんね。ところで、2020年4月1日施行という話でしたが、2020年4月1日より前に入社する従業員や、すでに身元保証書を提出している従業員について、2020年4月1日より前に提出した身元保証書は無効になるのでしょうか?

【桐生(社労士)】
 いいえ。今回の内容は、改正民法の施行日である2020年4月1日以降に締結する身元保証書から適用されます。そのため、2020年3月31日までに締結された身元保証書は、改正前の民法が適用されます。

【黒田部長(お客様)】
 承知しました。取り直す必要まではないということですね。そうなると、やはり限度額の設定に悩みますね。

【桐生(社労士)】
 そうですね。ただ、ここで改めて身元保証書の提出を求めるのかという点から、検討してもよいと思っています。限度額の記載により、身元保証書を提出できない従業員が発生することも想定されますし、最近は身元保証人を引き受けてくれる人がいないという相談を受けることもあります。

【黒田部長(お客様)】
 当社でも、両親が亡くなり、結婚はしていない、兄弟もいないという従業員がいました。その従業員は、親戚と親しくしているとのことで身元保証書を提出してもらえましたが、今後、身寄りがない従業員も増えてくるかもしれませんね。

【桐生(社労士)】
 そうですね。ですので、身元保証書ではなく、金銭面の損害賠償を省いた上で、身元保証人に代わる引受人をお願いするということが考えられます。例えば、体調不良などのため勤怠不良となり、本来の労務提供が行われないといった問題がないように、従業員の生活や健康面に注意を払ってもらうこと、会社と従業員との間で連絡がとれず、会社が対応に困った際に、その連絡調整役を担ってもらうことなどが考えられます。

【黒田部長(お客様)】
 なるほど。今まで身元保証人に損害賠償を求めたことはありませんし、従業員の健康面などの管理をお願いするというのもひとつの案ですね。これであれば、家族や親戚のみではなく、親友が引受人になってくれることもあるかも知れませんね。

【桐生(社労士)】
 そうですね。限度額も含め、御社にとっての身元保証書の目的を考えていただければと思います。よろしくお願いいたします。

>>次回に続く


【ワンポイントアドバイス】
 身元保証書の提出を求めるときには、入社時に提出するのみでなく、その後の運用を検討する必要があります。まず、身元保証書には有効期限があり、期間を定めない場合は3年まで、期間を定めたとしても5年までと決められています。また、自動更新の条項を入れることもできません。そのため、有効期限が終了した後に、引続き身元保証を有効としたい場合、再度、提出を求める必要があります。
 また、会社には身元保証人に対する通知義務が課されています。身元保証書を提出したときから、職務内容が変更になったときには、会社はその変更について身元保証人に通知しなければならないとされています。例えば、営業担当者が昇進し、課長になるケースを想定してみましょう。課長となることによって責任範囲が大きくなり、身元保証人への負担も重くなることから、この場合、通知が必要となります。更新手続きと併せて、このような通知手続きも漏れのないようにしておくことが求められています。

■参考リンク
法務省「民法の一部を改正する法律(債権法改正)について」
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_001070000.html

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桐生英美
専門家

桐生英美(社会保険労務士)

日本経営サポート株式会社

民間企業での人事と採用経験25年、社労士登録20年。採用面接は2000人。中小企業が悩む採用問題、人事問題を、自らの実務経験と社労士の資格を活かして円満に解決するサポートをいたします。

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