「計算は合っているのに否認」──相続税の土地評価で起きやすい“見落とし”とは?
相続したアパートや賃貸マンションに空室がある場合、その空室をどのように扱うかによって、土地の相続税評価額が変わることがあります。
貸家建付地の評価では「賃貸割合」を使用するためです。
では、相続開始時に空室だった部屋は、賃貸割合から除外しなければならないのでしょうか。
実は、「空室だった」という事実だけで判断するわけではありません。
国税不服審判所の裁決を見ても、長期間の空室が「一時的な空室」と認められなかった事例がある一方、1年以上空室だったにもかかわらず認められた事例があります。
今回は、この違いから貸家建付地の賃貸割合を考えてみます。
第1章 貸家建付地では「賃貸割合」が評価額に影響する
貸家建付地は、借家の敷地となっている宅地です。
財産評価基本通達26では、次の算式によって評価します。
自用地価額 ×(1-借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
この算式から分かるように、賃貸割合が100%なのか50%なのかによって、貸家建付地としての評価額は変わります。土地の価額が大きければ、その影響も小さくありません。
ただし、相続開始時に空室だからといって、必ず賃貸割合から除外されるわけではありません。
財産評価基本通達26では、課税時期において一時的に賃貸されていなかったと認められる部分については、賃貸されていたものとして取り扱うこととされています。
問題は、この「一時的」をどのように判断するかです。
第2章 長期間の空室が認められなかった事例
平成21年3月25日裁決では、被相続人が所有していた2棟の共同住宅、合計8室のうち、相続開始時に4室が空室となっていました。
納税者側は、すべての部屋を賃貸目的としていたとして賃貸割合100%を主張しましたが、審判所はこれを認めず、賃貸割合を50%と判断しました。
この事例では、空室が長期間続いていました。
さらに、相続開始前に賃料の引下げは行われていたものの、媒介契約や募集広告、内覧記録など、具体的な募集活動を裏付ける資料が提出されていませんでした。
単に空室期間が長かったというだけでなく、積極的に入居者を募集していたことを客観的に確認しにくかったこともポイントとなっています。
第3章 1年以上の空室でも認められた事例
これと対照的なのが、平成20年6月12日裁決です。
この事例では、1棟20室の賃貸マンションのうち4室が空室でした。
注目したいのは、その空室期間です。
最短は2か月でしたが、最長では1年11か月に及んでいました。それでも、空室部分は「一時的に賃貸されていなかった部分」として扱われ、賃貸割合100%が認められています。
この事例では、不動産業者との媒介契約書や募集広告、募集図面などが提出され、実際に入居者を募集していたことが確認できました。
さらに、相続開始時に空室だった4室は、その後すべて賃貸借契約が成立しています。
つまり、「貸すつもりだった」という説明だけではなく、募集活動とその後の成約という客観的な事実が存在していたわけです。
第4章 「何か月空室だったか」だけでは判断できない
2つの裁決を比べると、「一時的空室」の判断では、空室期間だけを見ればよいわけではないことが分かります。
参考資料では、国税庁の資産評価企画官情報第2号(平成11年7月29日)に示された判断要素として、課税時期前に継続的に賃貸されていたか、退去後すぐに募集を行ったか、空室期間中に他の用途に使用していなかったか、空室期間が一時的なものであったか、課税時期後の賃貸状況はどうだったか、といった点を挙げています。
したがって、
「○か月以内なら一時的空室」
「1年以上空いていれば一時的空室ではない」
といった期間だけによる判断には注意が必要です。
空室に至った経緯や募集活動、その後の成約状況などを含めて考える必要があります。
第5章 相続時には募集活動の記録も確認しておきたい
相続開始時に空室がある場合には、その時点の入居状況だけでなく、空室になる前後の状況を確認することが重要です。
たとえば、いつ退去したのか、退去後いつから募集を始めたのか、どのような方法で募集していたのか、その後いつ入居者が決まったのか、といった時系列を整理します。
媒介契約書、募集広告、ポータルサイトへの掲載記録、問い合わせ履歴、内見記録、入居申込書、賃貸借契約書なども、その実態を確認する資料となります。
貸家建付地の評価は計算式だけを見ると分かりやすく見えますが、その計算式に当てはめる「賃貸割合」をどう判断するかは、個別の事実関係によって変わる場合があります。
まとめ
相続開始時に賃貸物件に空室があっても、それだけで貸家建付地の賃貸割合から除外されるとは限りません。
一方、「もともと賃貸物件だから」という理由だけで、当然に賃貸割合100%になるわけでもありません。
今回取り上げた2つの裁決を見ると、空室期間だけでなく、賃貸意思が継続していたか、実際に募集活動を行っていたか、その後成約しているかといった事実関係を確認することの重要性が分かります。
相続税の土地評価では、こうした一つひとつの事実確認が評価の前提となります。
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今回は、貸家建付地に空室がある場合の「賃貸割合」について、ポイントを絞ってご紹介しました。
ホームページのブログでは、平成21年3月25日裁決と平成20年6月12日裁決の事実関係を比較し、なぜ一方は賃貸割合50%、もう一方は100%と判断されたのかを、実務上準備しておきたい資料も含めて詳しく解説しています。
貸家建付地評価と賃貸割合の落とし穴──「一時的空室」をめぐる2つの裁決を実務目線で解説
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