相続の不動産評価は「通達どおり」なら安心?最高裁判決から考える評価の注意点
「タワーマンションを購入すると、相続税評価額を大きく下げられる」
かつて、こうしたいわゆる「タワマン節税」が相続対策として注目された時期がありました。
背景にあったのは、マンションの市場価格と相続税評価額との間に大きな差が生じることです。特に高層階・高価格帯のマンションでは、実際の取引価格に比べて相続税評価額がかなり低くなるケースがあり、さらに借入金による債務控除を組み合わせることで、相続財産全体の課税価格を圧縮できる場合がありました。
しかし、財産評価基本通達どおりに計算していれば、どのようなケースでもその評価が認められるとは限りません。
そのことを考えるうえで参考になるのが、平成23年7月1日裁決(東裁(諸)平23-1)です。
第1章 平成23年裁決で何が問題になったのか
1-1.2億9,300万円で購入、通達評価額は約5,801万円
この事案では、相続開始の約1か月前にマンションが2億9,300万円で購入されていました。
ところが、相続税申告における財産評価基本通達による評価額は5,801万8,224円でした。
さらに相続開始後1年足らずで、このマンションは2億8,500万円で売却されています。購入価額と売却価額は近い水準である一方、通達評価額とは2億円を超える差がありました。
1-2.財産評価基本通達6項が適用された
この大きな乖離などを背景として、課税庁は財産評価基本通達総則6項を適用し、通達による評価額ではなく、取得価額を基礎とする評価が合理的であると主張しました。審判所も課税庁側の評価を認めています。
ただし、ここで注意したいのは、「市場価格と通達評価額に差があれば総則6項が適用される」という単純な話ではないことです。
実際の判断では、評価額の乖離だけでなく、取引時期や取引の経緯、資金の流れなど、その事案固有の事情も重要になります。
第2章 令和6年からマンション評価はどう変わった?
2-1.一定の居住用区分所有財産に新しい評価方法
令和6年1月1日以後の相続・贈与から、一定の居住用区分所有財産について新しい評価方法が導入されました。
対象はいわゆる「タワーマンション」だけではありません。
築年数、建物の総階数、住戸の所在階、敷地持分狭小度などをもとに評価乖離率を算出し、そこから求められる評価水準に応じて補正の有無や区分所有補正率が決まります。
2-2.すべてのマンションの評価額が上がるわけではない
新しい評価方法は、マンションの相続税評価額を一律に引き上げる制度ではありません。
物件ごとに評価乖離率や評価水準を確認し、補正が必要かどうかを判断します。評価水準によっては補正が行われず、従来の通達による評価額がそのまま用いられる場合もあります。
したがって、「タワマンだから評価額が上がる」と一律に判断するのではなく、個々の物件について確認する必要があります。
第3章 新制度になっても通達6項は残る
3-1.新しい評価方法と通達6項は別の問題
新しいマンション評価制度が導入されたからといって、財産評価基本通達6項が不要になったわけではありません。
新しい評価方法の対象外となる場合や、評価水準によって補正が行われない場合でも、その評価額が著しく不適当と認められる特別な事情があれば、通達6項が問題となる可能性があります。
3-2.形式的な計算だけで判断しない
相続税評価では、まず財産評価基本通達に定められた方法を正しく適用することが基本です。
一方、通達評価額と市場価格との間に大きな乖離がある場合には、その不動産の個別事情まで確認した方がよいケースがあります。
大切なのは、「評価額をどこまで下げられるか」ではなく、なぜその評価になるのかを合理的に説明できるかという視点です。
第4章 税理士と不動産鑑定士の役割
4-1.通常の相続税評価は税理士が中心
新しいマンション評価方法を含む通常の相続税評価は、基本的には税理士が中心となって対応できます。
一方で、通達評価額と市場価格との間に大きな乖離がある場合や、特殊な個別事情があり、通達評価だけでは適正な時価を捉えにくい場合には、不動産鑑定士による価格分析が有効となることがあります。
4-2.必要な場面で専門分野を組み合わせる
税理士が税務上の評価や申告上の判断を担い、不動産鑑定士が必要に応じて市場価値や価格形成要因を分析する。
すべての案件で不動産鑑定が必要なわけではありませんが、個別性の強い不動産では、それぞれの専門性を組み合わせることが合理的な場合があります。
第5章 相続不動産評価で確認しておきたいこと
5-1.「通達どおり」だけで終わらせないケース
通常は通達による評価が基本です。
ただし、市場価格との乖離が非常に大きい場合や、相続直前の取得など特殊な事情がある場合には、評価額だけを見るのではなく、その背景まで整理しておくことが重要です。
5-2.判断に迷う案件では早めに整理する
申告直前になって初めて問題点を検討するよりも、評価上気になる事情がある不動産については、早い段階で論点を整理しておく方が対応しやすくなります。
税務上の問題なのか、不動産そのものの市場価値を検討すべき問題なのかを切り分けることが、専門家を選ぶ際の一つの判断基準になります。
まとめ
平成23年裁決は、マンションの購入価額・売却価額と通達評価額との大きな乖離に加え、一連の取引経緯が問題となった事例です。
そして令和6年からは、一定の居住用区分所有財産について新しい評価方法が導入されました。
それでも、相続不動産評価において重要なのは、単に計算式を当てはめることだけではありません。通達による評価を基本としながら、個別事情によっては市場価値との関係まで検討する。 この切り分けが重要です。
平成23年裁決と令和6年改正を詳しく解説しています
当事務所のホームページでは、今回取り上げた平成23年東京裁決について、マンション購入から相続、売却に至る具体的な経緯を時系列で整理するとともに、財産評価基本通達6項が問題となった背景、令和6年からの区分所有マンションの新しい評価方法について、より詳しく解説しています。
→ 詳細は当事務所ホームページの記事をご覧ください。
タワマン節税の終焉|通達6項の発動から令和6年の通達改正まで──評価方法はどう変わったか?


