2016年8月9日に
大きな問題、そして大きな局面に、いま私たち自身、私たちの国そのものが、直面しています。今年の6月から続けているYouTubeでの「詩の朗読」には、第一義として、音読(朗読)の効用を示すとともに、すばらしい文学作品を幅広く知っていただく目的がありますが、一方で、文学作品が時代の姿を描き出していることを思う時、こんにちの状況下で、70年前に敗戦をむかえた戦争の実相を伝える作品をふたたび知らしめることにも、大きな意味があると考えます。
公開順にお伝えしますと、「麦」を書いた詩人石原吉郎氏は、終戦後シベリア抑留を経験し、極限の状況にあって生きる人間存在を追究されました。「いっぽんのその麦を/すべて過酷な日のための/その証としなさい」からはじまる「麦」の一字一句が伝える、「生」のきびしさを、こんにちのわれわれは受けとめ直す必要があると思います。
石原吉郎『麦』
茨木のり子氏は、がっしりとした骨太い詩作品で知られ、強い存在感をお持ちの方でした。19歳で敗戦を迎え、「わたしが一番きれいだったとき」には、戦中戦後の日本の様子と、その中で屹然と生きた詩人の精神が、見事に凝縮しています。「私が一番きれいだったとき/わたしの国は戦争で負けた/そんな馬鹿なことってあるものか/ブラウスの腕をまくり/卑屈な町をのし歩いた」という第五連に、この希有なる詩人の強い精神をみることができます。
茨木のり子『わたしが一番きれいだったとき』
一人でも多くの方に、新しくこれらの詩作品を知っていただき、ご存じであった方々には、さらに多くの方に伝えていただくきっかけのひとつになれば幸いです。