取引先に「独立したら仕事を頼むよ」と言われたら、何を確認する?

新井一

新井一

テーマ:起業

「独立したら仕事を頼むよ」と言われたとき

――取引先から「独立したら仕事を頼みたい」と言われた方がいます。その言葉を当てにして、退職を考えてもよいのでしょうか?

新井:声をかけてもらえるのは、うれしいですよね。ただ、相手が好意を持ってくれていることと、実際に発注できることは分けて考えてください。打ち合わせの帰り際の一言なら、仕事の内容も、金額も、始める時期も決まっていません。私なら、誘ってもらったお礼を伝えたうえで、「どんな仕事を、いつ頃から考えていますか?」と聞きます。退職日は、その答えを聞く前には決めません。

――担当者が前向きでも、社内で発注が決まらないことはありますか?

新井:あります。担当者に外注の予算がなくて、別の部署の承認が必要になることもあります。これまでその仕事を外に頼んだことがないなら、社内で何を決める必要があるのかも、確かめておきたいですね。「どなたが発注を決めますか?」と尋ねるのは、相手を疑うためではありません。仕事が始まるまでに必要な手順を知るためです。

仕事の話を、数字にする

――相手には、どこまで具体的に聞けばよいでしょうか?

新井:始める時期、月に頼みたい量、予算の目安を聞いてください。「そのうちお願いします」だけでは、翌月の売上には入れられません。何を納める仕事なのかも大切です。同じ保守の仕事でも、月に一度の点検と、故障したときにいつでも駆けつける仕事とでは、必要な時間も責任も違います。自分にできることを正確に伝えるには、相手が求めている作業を聞かなければなりません。

――金額まで聞くと、商談を急がせているように思われませんか?

新井:「準備を考えたいので、想定している作業量と予算を教えていただけますか」と聞けば十分です。まだ決まっていなければ、それも大事な答えです。数字が出ない段階で、自分の生活費をこの取引先の売上でまかなえると考えてしまうほうが、危ういでしょう。相手にも計画が必要ですから、今すぐ数字を約束できないこと自体を、責める必要はありません。

勤め先との関係も、確認しておく

――今の勤務先の取引先から声をかけられた場合、気をつけることはありますか?

新井:勤務先の資料や顧客情報を、自分の独立準備に使わないことです。取引先の話が具体的になる前に、勤務先の規程で、副業、競業、秘密保持がどうなっているかを確認してください。会社ごとに、規程も担当業務も違います。今の担当者という立場のまま、独立後の受注を約束してしまう前に、迷う点は勤務先や専門家に確認したいですね。自分の経験を使うことと、会社の情報を使うことは、混同しないでください。

――相手の話が進まなかったら、準備は無駄になりますか?

新井:受けられる作業の範囲をまとめたり、見積書の書式を作ったりしておけば、ほかのお客様と話すときにも役立ちます。一社だけに合わせて設備を買うのは、発注が決まってからでも遅くありません。同じ仕事を必要とする相手がほかにもいるかを聞いてみれば、誘いがなくなった場合でも、準備を続けるかどうかを判断できます。

退職は、発注の見通しが立ってから

――最初の取引先が決まれば、そこで退職を決めてもよいでしょうか?

新井:発注の内容、金額、時期が具体的になっても、生活費まで足りるかどうかを見てください。その一社の仕事が終わったときに、次の仕事をどう取るのかも考えておきます。誘われたその日に辞表を出す必要はありません。誘いに感謝して、仕事の内容と、社内で決める人を聞く。相手の返答が具体的になるにつれて、自分も見積りを出せるように準備しておきましょう。

――今日返事をするなら、どう言えばよさそうですか?

新井:「お声がけありがとうございます。もし具体的に進めるなら、どんな作業を、いつ頃からお考えですか?」と聞いてみてください。まだ決まっていないという返事なら、「決まったときに、また相談してください」で十分です。取引先との会話を続けながら、自分は別の相手にも必要とされる仕事を作れるかどうかを、確かめていきましょう。

――取引先から「あなたにお願いしたい」と言われたときも、ほかのお客様を探すのですか?

新井:その言葉は励みになります。でも、なぜ頼みたいのかを聞いてみると、あなたの技術が必要なのか、今たまたま人手が足りないのかで、話が変わってきます。後者なら、相手が採用できたときに、外注の話がなくなることもあります。ほかのお客様の困りごとを聞くのは、最初の取引先を軽く見るためではありません。自分の仕事が、一社の一時的な都合だけに支えられていないかを、確かめるためです。

起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)

新井一氏プロフィール

起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。

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専門家

新井一(起業コンサルタント)

起業18フォーラム

会社を辞めずに始める起業だけを26年支援してきた起業18フォーラム代表。延べ6万人の相談に応じ、著書13冊は台湾・韓国でも翻訳出版。会社員のまま小さく始める実践手順を伝えています。

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