「辞めてから起業準備しよう」が危ない。退職後の社会保険コストを知らずに動くと資金が底をつく
不用品の売却が「小さな商売」に変わる瞬間
――新井さん、最初は家の不用品を売っていただけなのに、気づいたら仕入れも始めていた。こういう人は多いのでしょうか?
新井:多いですね。最初はクローゼットの整理から始まります。月1万円、2万円になると楽しい。そこから「これも売れそう」と仕入れを始める。ここで、趣味の片づけから小さな商売に変わっていきます。境目は売上金額だけではなく、売る目的で仕入れているかどうかです。
――月10万円くらい売れていても、本人は「まだ不用品販売の延長」と思ってしまいそうです。
新井:そうなのですよ。本人の感覚と、外から見た実態がズレやすい。たまたま家にあった物を売るのと、売るために仕入れて、継続的に出品するのは違います。ここを曖昧にすると、開業届、帳簿、表示、勤務先への説明が全部後回しになります。
見るべき順番は売上より仕入れ目的
――では、どこから確認すればいいですか?
新井:まず出品履歴を見ます。売上がいくらかより先に、「転売目的で仕入れた商品があるか」「同じ種類の商品を繰り返し出しているか」「利益を見込んで続けているか」を見ます。ここに当てはまるなら、不用品処分ではなく、継続販売の入口に立っていると考えた方がいいですね。
――売上だけで判断しないのですね。
新井:ええ。月1万円でも仕入れを続けているなら整理が必要ですし、逆に大きな家財を一度売っただけなら商売とは限りません。大切なのは、反復継続性です。「何回売れたか」より「売るために動き続けているか」を見る。これが最初の判断軸です。
届出より先に取引の線引きを作る
――開業届を出すかどうかで迷う人は、何を準備すれば安心ですか?
新井:いきなり手続きの名前で悩まなくて大丈夫です。先に1枚のメモを作ります。「どの商品を扱うか」「扱わない商品は何か」「仕入れに使う上限はいくらか」「返品が来た時にどうするか」「勤務先の備品や時間を使わないか」。この5つを書くだけで、かなり見通しがよくなります。
――売る商品だけでなく、売らない商品も決めるのですね。
新井:ここが大事です。小さく始める人ほど、売れそうな物を広げすぎてしまう。許認可が絡む物、説明責任が重い物、返品時に家計が崩れる物は避ける。最初に「やらない範囲」を決めると、怖さが減ります。
会社員のまま続けるなら口座と時間を分ける
――会社員の場合、勤務先に知られる不安もありますよね。
新井:あります。ただ、「ばれない方法」だけを探すと危ない方向へ行きます。勤務先の時間、パソコン、情報を使わない。生活用口座と仕入れ用口座を分ける。確定申告や住民税の扱いを確認する。こうした基本を先に整えた方が、説明できる活動になります。
――小さく始めるほど、基本を軽く見がちかもしれません。
新井:そうですね。月10万円は小さく見えても、1年続けば大きな動きです。帳簿をつけず、仕入れも生活費も混ざったままだと、あとで自分が困ります。起業準備は派手な商品づくりだけではありません。小さな売上を、他人に説明できる形に整えることも立派な準備です。
最初の目標は売上拡大ではなく安定運営
――最後に、不用品販売から起業準備へ進みそうな人へ、最初の目標を教えてください。
新井:最初の目標は、売上を2倍にすることではありません。3カ月だけ、同じルールで売って、記録を残すことです。仕入れ額、売上、手間、返品、問い合わせ。これを見れば、その販売が自分に合っているか分かります。
――続けるかどうかも、数字と手間を見て決めるのですね。
新井:はい。会社員のままなら、無理に大きくしない方がいい。続けられる範囲を確認して、必要なら開業届や表示を整える。小さな順番を間違えなければ、不用品販売は起業準備の良い入口になりますよ。
――最初から完璧に整える必要はないけれど、記録だけは早めに始めるということですね。
新井:そうです。売上が小さいうちの記録は、あとで自分を助けます。仕入れた理由、売れた理由、返品が起きた理由を残しておけば、次に何を増やし、何をやめるかが見えます。感覚ではなく記録で判断できる状態を作ることが、会社員のまま始める人にはとても大切です。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。
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