クレーム対応の経験がない人が起業前に決めておきたい対応の型

新井一

新井一

テーマ:起業

経験より先に「型」を持てば落ち着ける

――新井さん、クレーム対応やトラブル対応の経験がないまま起業して大丈夫なのか、不安に感じる人は多いと思います。

新井:多いですね。特にハンドメイド販売やネットショップのように、お客様と直接やり取りする仕事を考えている方は、「理不尽な要求をされたらどうしよう」と止まりやすいです。でも、経験がないこと自体は起業の妨げではありません。大事なのは、何が起きたら、どの順番で確認し、どこまで対応するかを先に決めておくことです。

――場数よりも、事前の決めごとが大切なのですね。

新井:そうです。会社員のときは、相談室、上司、規定、会社名という守りがあります。独立すると、対応、判断、お金の3つが自分に集まる。怖いのはクレームそのものというより、その役割が一人に重なる構造です。だからこそ、ひとりで抱え込まないための型が必要になります。

クレームの不安は3つに分けて考える

――漠然と怖いままだと、準備しようにも何から手をつければいいか分かりません。

新井:まず3つに分けます。1つ目は、説明不足や誤解です。サイズ、色、納期、使い方の案内が足りず、お客様の想像と実物がずれるケース。2つ目は、正当な指摘です。破損や仕上がりの粗さなど、事実として改善すべきもの。3つ目が、理不尽な要求です。使用後の返品や過度な値引きなど、事実確認だけでは収まらないものですね。

――全部を同じ「怖いクレーム」として見ないほうがいいのですね。

新井:その通りです。説明不足と正当な指摘は、起業準備の段階でかなり減らせます。商品説明を丁寧にする、写真を増やす、納期や返品条件を先に書く。ここは経験より作業です。本当に線引きが必要なのは、3つ目の理不尽な要求だけですよ。

最初に決めるのは、お詫びの一言と確認順

――具体的には、どんな型を作っておくとよいでしょうか?

新井:まず初期対応の一言を決めます。「ご不便をおかけしました。状況を確認します」といった言葉で十分です。次に確認する順番です。注文日、商品名、届いた状態、写真の有無。記憶で受け止めるのではなく、記録に残す形にする。最後に、どこから先は応じないかを決めます。

――「その場でうまく言えるか」ではなく、言う言葉を準備しておくのですね。

新井:はい。起業18フォーラムの勉強会でも、ハンドメイド販売を考えていた会員さんが同じ不安を話していました。その方は、初期対応の一言、確認する順番、対応を終える基準をメモにしておいた。実際に問い合わせが来たとき、感情で返さずにメモを見ながら返せたそうです。小さな準備ですが、効きますよ。

応じる範囲を決めることは冷たさではない

――対応を打ち切る基準を決めるとなると、冷たい印象にならないか心配です。

新井:そこは誤解しないでほしいですね。線引きは、お客様を雑に扱うためではありません。誠実に対応する範囲をはっきりさせるためです。返品特約、プラットフォームの規約、契約不適合責任、表示した納期や条件。こうした基準を見ながら判断するから、相手にも説明できます。

――感情の押し引きではなく、決めた条件に沿って対応するわけですね。

新井:そうです。理不尽な要求に耐え続けることが、よい商売ではありません。2026年10月からは、労働者を雇う事業主にカスタマーハラスメント対策も求められます。ひとりで始める小さな起業でも、過度な要求に飲み込まれない考え方は持っておいたほうがいいですよ。

すべてを想定しなくても起業準備は進められる

――最後に、クレーム対応が怖くて起業準備が止まっている人へ、何を伝えたいですか?

新井:すべてのトラブルを事前に想定しようとしなくて大丈夫です。最初に決めるのは、初期対応の一言、確認する順番、応じる範囲。この3つだけでいい。動きながら、実際の問い合わせに合わせて型を増やしていけば十分です。

――起業に向いているかどうかではなく、先に心配ごとを言葉にできることが大切なのですね。

新井:まさにそうです。不安を言葉にできる人は、準備ができます。クレーム対応の経験がないから起業できないのではありません。経験がないなら、経験の代わりに型を用意する。その発想で進めれば、ひとりでお客様と向き合う怖さはかなり小さくなりますよ。
――型を作るとき、最初のメモはどこまで具体的に書けばいいですか?

新井:商品説明、発送予定日、返品・交換の条件、写真を送ってもらう場面、返金を判断する基準まで、箇条書きで十分です。たとえば「破損は到着後3日以内に写真で確認」「使用後の返品は受けない」など、先に線を引く。販売サイトの規約に合わせておけば、自分の感情だけで判断しなくて済みます。対応の型は、お客様にも自分にも同じ説明をするための土台ですよ。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)

新井一氏プロフィール

起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。

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