看護師が「起業できる人」に変わる、たったひとつの視点
異動した直後に、決めなくてよいこと
――異動に納得できず、これからの働き方に迷っている方がいます。そんなときに起業準備を考えるのは、早いでしょうか?
新井:考えていいですよ。ただ、異動への不満だけで退職日を決めるのは待ってください。まずは、これまで担当した仕事と、そこで身につけたやり方を分けてみましょう。担当が変わっても、人の要望を聞いて優先順位を決めたり、提案を形にしたりする力は消えません。次の部署で使えるものもありますし、会社の外で試せるものもあります。
――元の仕事に戻りたい気持ちが強いと、自分に何ができるのかまで見えなくなりそうです。
新井:そうですね。異動を聞いたばかりなら、すぐに前向きになれなくて当然です。たとえば商品開発なら、「商品を作った」という話より、使う人の意見が割れたときに何を優先したのかを思い出してみましょう。判断のしかたまで言葉にすると、担当名だけでは分からなかった自分の経験が見えてきます。
会社には、何を聞けばいいのか
――納得できない気持ちは、上司に伝えたほうがいいですか?
新井:まず、異動の理由、新しい部署で期待される仕事、役割を見直す機会があるかどうかを聞いてみましょう。「元の部署に戻してください」とだけ伝えても、会社の事情も、今後の見通しも分からないままです。説明を聞いたうえで、以前の経験を新しい仕事にどう使いたいのかを伝えれば、話す内容が具体的になります。
――異動が不当だと感じるほど、事情が重い場合もありますよね。
新井:治療や介護との両立に支障が出るなど、具体的な事情があるなら、それも会社に伝える必要があります。配置転換が適切かどうかは一律には決められませんから、事実を記録して、専門の相談窓口にも相談してください。ただ、本人の希望と違う異動だったというだけで、会社の決定を変えられると約束することはできません。ですから、会社に確認することと、自分の次の仕事を考えることを、同時に進めたいのです。
経験を、別の仕事で使えるか
――「これまでの経験を生かす」は、どう確かめればよいでしょうか?
新井:できる仕事の名前を先に決めるより、誰の何に役立つのかを考えます。たとえば、お客様の声を聞いて、商品の改善案をまとめてきた人なら、同じような判断に困っている小さな店の人に、話を聞くことはできます。ただし、その人がお金を払って頼みたい仕事かどうかは、別の話です。取引のない知人や相手に困りごとを聞いて、頼まれる作業の範囲を確かめてみましょう。
――新しい部署の仕事を続けながら、試すのですか?
新井:はい。そのうえで、今の仕事で使える経験も見てください。以前の部署で使う人の意見を聞いていたなら、新しい部署でも、関係者が困っている点を聞けるかもしれません。会社の外で試すなら、勤務先の情報を持ち出さず、自分が提供できる作業だけで考えます。いきなり売上の目標を立てる前に、「誰の何を手伝うのか」を一人に説明できるところまで、具体的にしてください。
退職の判断は、急がない
――やる気が戻らないと、会社を辞めたくなる方もいると思います。
新井:気持ちは分かります。ただ、異動した直後のつらさと、独立して仕事を受けられるかどうかは、別々に確かめる必要があります。外で頼まれる作業、払ってもらえる金額、継続して働ける時間。この三つを知らないうちは、退職後の生活費を見積もれません。辞めるかどうかを決める前に、その三つを小さく試すことができます。
――最初に、何をするのがよさそうですか?
新井:前の部署で自分が下した判断を一つ選んで、「誰から何を聞いて、どう決めたのか」を書いてみましょう。その経験が新しい部署でも使えるのか、会社の外では誰が必要とするのか。話す相手を変えながら、確かめられます。辞令で変わったのは、担当する仕事です。積み上げた経験をどう使うかまで、辞令で決まるわけではありません。
――会社に異動の理由を聞くことと、起業準備を考えることは、どちらを先にしたほうがいいですか?
新井:上司との面談を待つ間にも、経験を振り返ることはできます。面談で新しい役割が分かれば、その役割で試せることを考えられます。会社の説明を聞いても、今後の仕事に納得できないかもしれません。それでも、外でどんな仕事を頼まれるのかを確かめていれば、辞めるか残るかを、気持ちだけで決めずに済みます。二つの確認は、同じ日に結論を出さなくていいのです。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。
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