本を30冊読んでも動けない理由・起業準備に「まず行動」が必要なわけ
失敗しても大丈夫なのは、度胸がある人ではない
――新井さん、今日は「起業に失敗しても大丈夫な人は何が違うのか」という相談です。起業に興味はあるけれど、うまくいかなかったときのことを考えると手が止まる。周りから大丈夫と言われても、貯金に余裕がある人の話に聞こえてしまうそうです。
新井:気持ちはよく分かります。起業の失敗を、人生が壊れるようなものとして想像している方は多いです。でも、失敗しても暮らしが動かない人は、特別に度胸があるわけではありません。始める前に、投じる額、収入の柱、やめる条件を決めているのです。
――3つを先に決めるのですね。
新井:はい。いくらまでなら使っても生活が変わらないか。給与や年金など、事業とは別に入るお金を残せるか。いつまでにどの数字が出なければ事業をやめるか。この3つです。ここが決まっていれば、うまくいかなかったときに残るのは、損失だけではなく次に使える情報になります。
起業費用は思っているより小さい場合もある
――起業というと、何百万円も必要なイメージがあります。
新井:業種によります。飲食店や小売店のように、店舗や設備や仕入れ費用が先に必要な仕事はあります。一方で、知識や経験をサービスにする仕事なら、最初の費用をかなり小さくできます。
――数字では、どのくらいなのでしょうか?
新井:日本政策金融公庫総合研究所の2025年度「起業と起業意識に関する調査」では、週35時間以上を事業に充てる起業家でも、「費用はかからなかった」が32.2%、「50万円未満」が29.4%でした。この二つを合わせると6割を超えます。週35時間未満のパートタイム起業家では、「費用はかからなかった」が53.2%です。
――思っていたより小さく始めている人も多いのですね。
新井:そうです。ただし、平均だけを見て安心するのも危ない。自分の業種で何にお金がかかるかを見ないといけません。店舗、備品、広告、外注、資格、在庫。先に必要なものを書き出すと、「これは後でいい」「これは無料で試せる」と分かることが多いですよ。
収入の柱を残すと、選べる形は狭くなる
――会社を辞めずに始めると、時間が足りないという悩みも出そうです。
新井:出ます。収入の柱を残すと、選べる事業の形は狭くなります。平日の昼に動く必要がある仕事、人を雇わないと回らない仕事、在庫を先に積む仕事は入りにくい。そこは現実です。
――それは不利ではありませんか?
新井:不利な面もあります。でも、最初から狭い範囲で考えるから、生活費まで突っ込まずに済むのです。給与を残す、年金を残す、貯蓄のうち事業に回す額だけを別にする。柱の形は人によって違いますが、暮らしを支えるお金と事業に試すお金を混ぜないことが大事です。
――事業用の上限を決めるのですね。
新井:はい。「ここまで」と決めた箱の外へ手を伸ばさない。これだけで、失敗の重さはかなり変わります。
やめる条件は、始めてからでは決めにくい
――やめる条件を先に決めるのは、少し冷たい感じもします。
新井:むしろ、続けるために必要です。始めてから決めようとすると、使ったお金を取り返したい気持ちが出ます。もう少し、もう少しと伸ばしているうちに、暮らしのお金まで入れてしまう。これが危ないのですね。
――どんな条件を置けばいいでしょうか?
新井:たとえば、3カ月で問い合わせが何件なければ案内文を変える。半年で有料申込が何件なければサービス内容を変える。1年で赤字がいくらを超えたら、その形の事業はやめる。売上だけではなく、問い合わせ、面談数、リピート、紹介の有無でもいいです。大事なのは、後から自分に甘くしないよう、日付と数字を先に書くことです。
――「やめる」は失敗ではなく、区切りなのですね。
新井:そうです。区切りがあるから、試せます。小さく始めるとは、気持ちを小さくすることではありません。失ってはいけないものを決めたうえで、確かめる順番を小さくすることです。
リスクは7つに分けて見る
――お金以外にも、怖いことはあります。家族、勤め先、健康などです。
新井:そこも見ておきたいですね。拙著『会社員が働きながら月30万円を稼ぐ起業法』では、リスクを7つに分けて並べるワークを入れています。財務損失、賠償責任、人的損失、健康、情報まわり、事業環境、家族です。
――全部を防ぐのは難しそうです。
新井:防げるものと、起きる前提で備えるものに分けます。天候で移動できない、使っていたシステムが止まる、取引先の都合で話が消える。このあたりは完全には防げません。だから、起きたときに誰へ連絡するかを決めておく。保険の窓口、税理士、社会保険労務士、勤め先の就業規則を確認できる部署。名前が一つあるだけで、焦り方が変わります。
撤退しても残るものを先に考える
――最後に、失敗が怖くて止まっている人は、今日何をすればいいでしょうか?
新井:いま考えている事業について、紙に3行だけ書いてください。使ってよい上限額、残す収入の柱、やめる条件。この3行です。余力があれば、リスク7つのうち、いちばん怖いものを一つ選び、起きたときに相談する相手の名前も書いておく。
――それだけでも、失敗の見え方が変わりそうです。
新井:変わります。撤退しても暮らしの形が残る。誰に向けて、いくらで出して、どこで止まったかの記録が残る。相談できる相手も残る。ここまで残れば、起業の失敗は人生の終わりではありません。一つの試し方が合わなかった、という事実になります。
――怖さを消すのではなく、暮らしを壊さない形にするのですね。ありがとうございました。
新井:こちらこそ、ありがとうございました。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。
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