定年までこのままでいい?40代夫婦が起業準備を始める順番

新井一

新井一

テーマ:起業

困っていない40代夫婦ほど、締め切りがない

――新井さん、今日は「子どもがいない40代夫婦の起業準備」について伺います。二人とも会社員で、生活も回っている。けれど、定年までこのままでいいのかという気持ちが残る。こういう相談はありますか?

新井:ありますよ。しかも、かなり切実です。お金に困っているわけではない。会社で大きな問題が起きているわけでもない。だから周りから見ると「何を悩むの?」となりやすい。でも本人たちは、静かに引っかかっているわけです。困っていない状態には、締め切りがないのですよ。

――締め切りがないから、いつまでも後回しになるのですね。

新井:そうです。生活が回っていると、動かない理由はいくらでも作れます。「今は忙しい」「もう少し落ち着いたら」「定年が近づいたら考えよう」と。でも10年たつと、気力も体力も、人に会える範囲も変わります。いまの二人だから試せることは、いましか試せません。

起業するかどうかより、まず時間の使い方を決める

――とはいえ、いきなり「起業する」と夫婦で決めるのは重い気がします。

新井:そこを急がなくていいです。最初の議題は「起業するか」ではありません。これから10年、二人の時間をどう配分するかです。起業の是非を話すと、まだ何も始まっていない段階では賛成も反対も出しにくい。「まあ、そのうちね」で終わりやすいのです。

――では、夫婦で何を話せばいいのでしょう?

新井:最初は3つだけで十分です。1つ目は、最初の3か月でそれぞれが自分のことに使う週あたりの時間。2つ目は、その時間をどの曜日に置くか。3つ目は、いつ見直すか。中身を決める前に、枠と見直し日を決める。これなら夫婦の話し合いが、夢の話ではなく予定表の話になります。

お金の配分から入ると、話が止まりやすい

――夫婦で起業準備を話すと、家計の話になりがちです。

新井:もちろん家計は大事です。ただ、困っていない夫婦が最初から「いくら出すか」を話すと、たいてい止まります。いま困っていないから、減らす理由も増やす理由も見えにくい。だから最初は、お金より時間です。平日の夜に1時間、休日の午前に2時間。こういう現実の枠を先に置くと、準備は一気に具体化します。

――お金を動かす前に、時間を動かすのですね。

新井:そうです。たとえば通信講座を2つ取って、名刺まで作ったのに止まる人がいます。勉強が足りないのではなく、誰に会うか、いつ試すか、夫婦でいつ振り返るかが決まっていない。資格や肩書きを増やすより、勤め先の外に小さく出す予定を1つ入れるほうが、起業準備としては前に進みます。

夫婦の合意は、説得ではなく日程の相談から始める

――相手にどう切り出せばいいか悩む方も多そうです。「起業したい」と言うと、身構えられそうで。

新井:そこで説得しようとしないことです。「会社を辞めたい」「事業を始めたい」と大きく言う前に、「次の3か月だけ、週に何時間か外の人に会う時間を取りたい」と話す。見直し日も一緒に決める。これなら、相手も賛成か反対かではなく、生活に合うかどうかで考えられます。

――夫婦の話し合いを、決断の場ではなく実験の設計にするわけですね。

新井:その通りです。子どもがいるかいないか、周りの夫婦がどうしているかは、物差しになりません。二人の体力、仕事の忙しさ、親のこと、住んでいる地域、人に会える時間。それぞれ違いますから。物差しは、二人の側に置くしかありません。

何を仕事にするかは、動きながら見つけていい

――「何を売るか」が決まっていないと、起業準備を始めてはいけない気もします。

新井:逆ですね。何を仕事にするかは、動きながら見つけていい。むしろ、机の上だけで決めようとすると、自分の頭の中にある選択肢しか出てきません。会社員として毎日やっていることの中に、外の小さな会社や個人が助かる知恵はたくさんあります。購買、段取り、資料作成、調整、説明、聞き取り。本人には当たり前でも、外では値段がつくことがあります。

――最初から大きく起業する必要はないのですね。

新井:ありません。勤め先の収入があるうちに、小さく試すから意味があります。外れても生活が揺れにくい。やり直しがきく。これは弱点ではなく、40代会社員夫婦の強みですよ。

今度の休みに、二人で予定表を開く

――最後に、同じように感じている40代夫婦へ、最初の一歩をお願いします。

新井:今度の休みに、二人で予定表を開いてください。そして、次の3か月で「いまの二人にしかできないこと」を1つだけ選ぶ。平日の夜に外の勉強会へ行く。知人に困りごとを聞く。自分の仕事で人に教えられることを10個書く。どれでもいいです。

――起業するかどうかを今日決めるのではなく、3か月の使い方を決める。

新井:そうです。定年までこのままでいいのかという問いは、頭の中で考え続けても答えが出ません。答えは、予定表に小さな枠を置いたあとに見えてきます。起業は急がなくていい。でも、起業準備の最初の日付だけは、先に押さえてほしいですね。

起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)

新井一氏プロフィール

起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。

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