強みがない会社員は頼まれごとの棚卸しから
売上額ではなく作業時間で考える
――新井さん、週末だけ受けている仕事で収入が出始めた会社員の方から、初めての確定申告を自分でやるべきか、税理士さんに頼むべきか迷っているという相談が増えています。
新井:増えていますね。会計ソフトを入れたところで安心したのに、レシート入力で休みが終わってしまう。これはよくある話です。最初に見てほしいのは売上額ではなく、帳簿まわりに1年で何時間使っているかです。年間50時間を超えているなら、外に出す選択肢を真剣に考えてよい段階ですよ。
――売上がまだ小さいと、「この程度で頼んでいいのかな」と感じそうです。
新井:気持ちは分かります。でも「売上1,000万円を超えたら税理士」という見方だけで決めるとズレます。消費税の課税事業者になる目安と、所得税の申告を自分で回せるかどうかは別の話です。給与を1か所から受け、給与収入が2,000万円以下で年末調整が済んでいる人は、給与以外の所得が20万円以下なら所得税の確定申告が不要な場合もあります。ただし住民税の申告は別です。まず「収入」ではなく「経費を引いた所得」を見る。そこから判断を始めます。
頼むか頼まないかの二択にしない
――税理士さんに頼むというと、毎月の顧問契約を想像してしまいます。
新井:そこが誤解されやすいところです。頼み方は大きく3つあります。レシートや通帳データから仕訳を作ってもらう記帳代行、年に1回だけ決算と申告書を見てもらうスポット依頼、毎月の相談まで含める顧問契約。この3つは横並びの選択肢です。
――入力だけ止まっている人なら、全部を任せなくてもいいわけですね。
新井:そうです。記帳は自分で続けられるけれど申告書で迷うならスポット依頼。入力の時点で毎月つらいなら記帳代行だけ。取引の種類が増えて、毎月判断が出るようなら顧問契約。いきなり一番重い契約から考えなくていいですよ。
年間50時間をひとつの線にする
――年間50時間という数字は、どう数えればいいですか?
新井:先月のレシート整理と入力に使った時間をまず数えます。それを12倍して、申告期に決算や申告書作成で使いそうな時間を足します。月3時間の入力と申告期15時間なら年51時間。月6時間なら年87時間です。週末だけの起業準備なら、50時間はかなり大きいですよ。
――確かに、7週分くらい消える人もいますね。
新井:僕の本でも、時間の使い方は何度も書いてきました。自分が動かなければ止まる作業ばかりに時間を使うと、売上を作る作業が残りません。帳簿は大事です。でも帳簿だけで小さな持ち時間を使い切ると、商品づくり、訪問、見積もり、発信が後回しになります。自分でやるかどうかは、根性ではなく時間配分の問題です。
相場より自分の時間単価で見る
――料金が読めないことも、相談をためらう理由になりそうです。
新井:税理士報酬は一律ではありません。だから相場表だけを眺めても決めにくい。仮に月5,000円で記帳代行を頼めるなら年6万円です。年30万円の売上なら大きく感じますよね。でも、その6万円で50時間が空くなら、1時間あたり1,200円で時間を買う計算になります。
――金額だけでなく、空いた時間を何に使うかまで見るのですね。
新井:そうです。空いた時間で単価を整える、説明資料を作る、紹介につながるフォローをする。そちらに使えるなら、費用は単なる出費ではありません。もちろん、費用をかけずに整えたい人は税務署の記帳説明会や記帳指導の対象になるかを確認してもいい。選択肢を持っておくことが大切です。
まず単発依頼を受けるか聞いてみる
――最初の一歩として、何をすればよいでしょうか?
新井:近くの税理士事務所か地元の税理士会に電話して、4点だけ聞いてください。記帳代行だけ受けてもらえるか。申告書作成だけのスポット依頼が可能か。料金が変わる条件は何か。申告期の何日前までに声をかければ間に合うか。この4つで十分です。
――断られたら落ち込みそうです。
新井:断られても情報が増えただけです。単発を受ける事務所と受けない事務所があると分かれば、探す範囲は狭まります。起業18フォーラムでも、全部を抱えていた方が記帳だけ外に出したら、月末の2日をお客様への説明時間づくりに回せるようになった例があります。確定申告は自分でやってもいいし、頼んでもいい。大事なのは、年間作業時間という同じ物差しで選ぶことですね。
――売上の大小だけでなく、自分の限られた時間をどこに使うかを見直す話なのですね。ありがとうございました。
新井:はい。最初の確定申告ほど不安になりますが、数字で分ければ落ち着いて決められますよ。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。
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