社宅に住んでいて独立したら即退去?

新井一

新井一

テーマ:起業

社宅の不安は、退職前に数字へ変えておく

――新井さん、今日は社宅に住んでいる会社員が独立を考えるときの話です。家賃が安い分、「退職したら住む場所はどうなるのか」と不安になる方は多そうですね。

新井:多いですよ。借り上げ社宅に長く住んでいる方ほど、毎月の住居費が生活設計の前提になっています。だから独立の話になると、売上や顧客より先に、住まいの不安で止まってしまう。でも、ここは感情で考えるより、退去期限と家賃差額を先に数字にするほうがずっと落ち着きます。

――「退職したら必ず出ないといけないのか」から確認するわけですね。

新井:原則として、退職すれば社宅は退去が必要になるケースが多いです。ただ、退職日当日なのか、翌月末までなのか、数カ月猶予があるのかは会社の社宅規程で変わります。ここを見ないまま「たぶん大丈夫」と思うのが一番怖いですね。

最初に見るのは退去までの猶予期間

――社宅規程は、具体的にどこを見ればいいのでしょうか?

新井:まずは「退職時の取り扱い」と「明け渡し期限」です。借り上げ社宅でも、会社が契約者になっている場合は、本人がそのまま住み続けられるとは限りません。賃貸借に近い扱いなのか、福利厚生として貸与されている使用貸借に近い扱いなのかでも変わります。

――社宅が安いほど、退去後の家賃差が大きくなりそうです。

新井:そうです。たとえば今の自己負担が2万円で、同じ沿線・同じ間取りの賃貸が8万円なら、差額は月6万円です。これが毎月増える固定費になります。独立後の売上目標を考える前に、この6万円をどう埋めるのかを考えないといけません。

――売上目標というより、生活を維持するための最低ラインですね。

新井:まさにそこです。独立してから「思ったより家賃が重い」と気づくと、焦って単価を下げたり、合わない仕事を受けたりしやすくなります。住居費は一度契約すると簡単には下げられませんから、退職前に実額で見る必要があります。

家賃差額は、いまの天引き額と相場を並べる

――家賃差額は、どう計算すればよいですか?

新井:難しく考えなくて大丈夫です。給与明細にある社宅の自己負担額を見ます。次に、退去後に住む可能性があるエリアで、同じくらいの広さの賃貸相場を調べます。その差が、毎月新しく増える住居費です。

――不動産サイトで見るだけでもよいのでしょうか。

新井:最初はそれで十分です。ただ、本気で独立を考えているなら、一度不動産会社にも聞いてみてください。家賃だけでなく、入居審査にかかる期間、独立直後に契約しやすい条件、保証会社の審査なども見えてきます。退職後は会社員の信用が使えなくなる場面もありますからね。

――退職してから探せばいい、では遅いこともあると。

新井:はい。社宅の猶予期間が2カ月なら、退職後にゆっくり探す余裕はあまりありません。物件探し、内見、審査、契約、引っ越しを入れると、実際に自由に動ける日数はかなり短い。社宅規程で期限が分かったら、カレンダーに落としてみることです。

差額に猶予期間をかけると、準備目標になる

――差額が月6万円、猶予期間が2カ月なら、まず12万円という考え方ですね。

新井:そうです。この12万円は、家賃差額を埋める最低限の備えです。もちろん敷金、礼金、引っ越し費用、家具家電の買い替えがあれば別に必要です。でも、まず毎月増える固定費を数字にするだけで、独立準備の目標がぼんやりした夢ではなくなります。

――「月6万円を作れるか」という具体的な問いに変わりますね。

新井:その問いは強いですよ。会社員のまま副業や小さな仕事をしているなら、最初の収益目標を「家賃差額を埋めること」にしてもいい。いきなり生活費全部を事業でまかなうのではなく、まず増える固定費だけを見ます。会社を辞めずに小さく試す意味は、こういうところにあります。

――家計全体を一気に変えるより、増える部分だけを見る。

新井:そうです。独立は勢いも大事ですが、住居費は勢いで払えません(笑) 自己負担額、想定家賃、猶予期間。この3つを書き出せば、今の生活から何が変わるのかが見えます。

住まいを決める前に、仕事場の使い方も考える

――退去後の住まいで仕事をする場合、家賃の一部を必要経費にできることもありますか?

新井:あります。ただし、家事と仕事が混ざる費用は、仕事で使っている部分を面積や時間で合理的に分けられることが前提です。部屋の一角を仕事専用にするのか、どのくらいの時間使うのか。ここを曖昧にしたまま「家賃の何割かを経費にしよう」と考えるのは危ないですね。

――住まい探しと仕事場づくりはつながっているのですね。

新井:つながっています。家賃が安いだけで選んだら、仕事の資料を広げる場所がない。逆に広すぎる部屋を選ぶと固定費が重い。独立後の暮らしは、生活費と仕事場が重なりますから、間取りも経費も最初から分けて考えておくといいですよ。

退職前に、社宅規程と家賃差額を確認する

――最後に、社宅に住みながら独立を考えている方へ、最初の行動を挙げるなら何でしょう?

新井:まず総務や人事で社宅規程を確認してください。退去期限、猶予期間、会社名義の契約かどうか。次に、給与明細の自己負担額と、退去後に住む部屋の家賃相場を並べる。この2つです。

――それだけでも、不安の形が変わりそうです。

新井:変わります。「社宅を出たらどうしよう」ではなく、「退職日の翌月末までに、月6万円増える住居費をどう埋めるか」という問いになります。問いが具体的になれば、貯蓄で備えるのか、起業準備の収益目標に組み込むのか、判断できます。独立は、怖さを消してから始めるものではありません。怖さを数字に直して、扱える大きさにするところから始めればいいのです。

――住まいの不安を先に見ておくことが、独立判断を落ち着かせるのですね。ありがとうございました。

新井:こちらこそ、ありがとうございました。

起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)

新井一氏プロフィール

起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。

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