就業規則に兼業禁止がある会社員は起業準備できない?

新井一

新井一

テーマ:起業

兼業禁止は「何もできない」という意味ではない

――新井さん、就業規則に「兼業禁止」と書いてある会社員は、起業準備もしてはいけないのでしょうか?

新井:まず分けて考えたいですね。本を読む、公開情報を調べる、自分の経験を棚卸しする。こうした私生活上の学習や整理は、一般に他社で働くことと同じではありません。だから「兼業禁止と書いてあるから、起業準備は一切できない」と決めつける必要はないです。ただし、会社ごとに規則の書き方が違います。開業準備、競業、社外発信、会社設備の利用まで細かく書いてある場合もあるので、条文を実際に読むことが出発点です。

――「無報酬なら大丈夫」と考えてよいわけでもないのですね。

新井:そこは注意です。お金をもらっていなくても、外部に募集を出す、見積りを出す、試作品を公開する、会社と近い分野で活動するとなると、届出や確認が必要になることがあります。逆に、頭の中で考えているだけの段階まで怖がりすぎると、準備が何も進みません。怖いから止まるのではなく、どこから確認が必要かを分ける。この見方が大事です。

準備、届出、避ける行為を3つに分ける

――具体的には、どのように分ければよいでしょう?

新井:まず、比較的リスクの低い準備があります。私物のパソコンで学ぶ、公開されている情報を読む、会社の情報を使わずに自分の強みを書き出す。次に、事前確認したい段階です。外に向けて募集する、見積りを出す、試作品を公開する、収益化する、開業届を出す。最後に、避けるべき行為があります。会社の時間、端末、メール、顧客名簿、非公開資料を使うこと。本業に支障が出るほど夜中まで活動すること。これは危ないですよ。

――同じ「準備」でも、かなり性質が違いますね。

新井:そうです。混乱する人は、この3つを全部「起業準備」と呼んでしまう。すると、何をしてよくて何が危ないのか分からなくなるのですよ。会社名や役職を宣伝に使うのも避けたいですね。「大手メーカー勤務の私が教えます」と言いたくなる気持ちは分かりますが、会社の信用を自分の集客に使う形になると揉めやすい。会社の看板を外しても説明できる価値にしていくことが、会社員のまま始める起業の基本です。

自社の就業規則と誓約書を優先して読む

――ネットで調べると、副業や兼業は認められる流れだという情報も出てきます。そこは頼りにしてよいのでしょうか?

新井:社会全体としては、勤務時間外の活動を一律に禁止しない方向に進んでいます。ただ、あなたを直接縛るのは、勤務先の就業規則、雇用契約、誓約書です。モデル就業規則や一般論だけを読んで「たぶん大丈夫」と決めるのは危ないですね。特に競業避止、秘密保持、会社設備の利用、外部活動の届出。このあたりは必ず確認してください。

――読むだけで不安になりそうです……。

新井:分かります(笑) でも、条文を読まない不安のほうが長引きます。たとえば「会社の許可なく他の業務に従事してはならない」と書いてあるなら、「業務」とは何を指すのか。収入が発生する前の試作や発信も届出対象なのか。ここを確認すれば、次の行動が見えてきます。起業準備は、会社と戦うことではありません。会社員としての義務を守ったうえで、小さく確かめることです。

聞きづらいときは1問だけ確認する

――とはいえ、人事や上司に「起業準備をしています」と言うのは怖い人も多いと思います。

新井:いきなり全部話す必要はありません。まずは1問に絞るといいです。「収入を伴わない学習や市場調査の段階でも、届出は必要ですか」。あるいは「公開情報だけを使った試作品の作成は、外部活動に当たりますか」。活動内容をぼかしすぎると相手も判断できませんが、必要以上に夢や将来像まで語る必要もない。事実ベースで確認するのがコツです。

――社内で聞きにくい場合は、どうすればよいですか?

新井:相談窓口、コンプライアンス窓口、労働組合があれば使えます。社内でどうしても難しければ、地域のよろず支援拠点など、起業前の会社員でも相談できる場所があります。ただし、外部相談で会社の規則を勝手に無視してよいという話にはなりません。最後は自社の規則に戻って確認する。そのために、まず条文の該当部分をコピーではなく自分の言葉で要約しておくと、相談もしやすくなります。

会社員のまま進めるからこそ線引きが武器になる

――兼業禁止の規則があると、起業に向いていない会社にいるように感じてしまう人もいそうです。

新井:その気持ちは分かります。でも、規則があるから終わりではありません。むしろ線引きを覚える機会です。会社の情報を使わない、勤務時間を守る、競合しない領域から試す、収益化の前に届出を確認する。この4つを守るだけでも、準備の仕方はかなり整理されます。起業に向いているかどうかは、規則の有無だけで決まりません。決まりを読んで、現実的な範囲で動けるかで変わります。

――最後に、就業規則で止まっている読者にメッセージをお願いします。

新井:「怖いから何もしない」は、一番もったいないです。今日できるのは、会社を辞めることでも、無断で売り始めることでもありません。就業規則の該当箇所を読み、準備、届出、避ける行為を3つに分けることです。そこまでできれば、次の一歩はかなり軽くなります。会社員のまま起業準備を進める強みは、収入を守りながら試せること。その強みを失わないためにも、ルールを敵にせず、地図として使ってください。

起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)

新井一氏プロフィール

起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。

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