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肩書きは強さより名乗り続けやすさで選ぶ
――新井さん、起業の準備を進める中で、名刺やプロフィールに入れる肩書きが決まらないという相談があります。周りが「専門家」「コンサルタント」と強い言葉を使っていると、自分もそうしなければいけない気がするようです。
新井:分かります。肩書きは、人に見られる言葉ですからね。ただ、立派にすればするほど有利になるとは限りません。むしろ、強い言葉を置いた瞬間に「その看板に見合う自分でいなければならない」という負荷が増えることがあります。私は、肩書きは聞こえの強さではなく、1年後も同じ表情で名乗れるかで選んでください、とお伝えしています。
――立派さより、続けられるかを見るのですね。
新井:そうです。肩書きが決まらないのは、能力が足りないからではなく、名乗る言葉と自分の実感の距離に気づいているからです。その違和感を無視して強い肩書きを置くと、名乗るたびに疲れます。
強い肩書きが最初に増やすのは仕事ではない
――強い肩書きを使うと、仕事が増えそうにも見えます。
新井:もちろん、言葉の強さで目を引く場面はあります。ただ、最初に増えるのは問い合わせではなく、準備の負荷であることが多いです。「専門家」と名乗ると、相手が求めていない場面でも、専門家らしい返答を用意しようとします。頼まれていない資料や想定問答を作り込み、名刺を渡す前から消耗してしまう。
――名乗る前に、自分でハードルを上げてしまうのですね。
新井:はい。しかも、その準備には報酬がつきません。肩書きを言い終える前に「いえ、専門家というほどではないのですが」と自分で打ち消してしまう人もいます。これは、その肩書きが今の自分にとって重すぎるサインです。肩書きは、人に説明するための言葉である前に、自分が何度も口にする言葉です。
弱くするのではなく実感に近づける
――では、肩書きを弱くすればよいのでしょうか。
新井:単に弱くすればいいという話ではありません。大事なのは、自分の実感に近づけることです。たとえば「ビジネス英語の専門家」と名乗ると苦しくなる人でも、「大人の英語をやり直す方の練習相手」なら自然に言えるかもしれません。聞こえは少し柔らかくなりますが、誰を助けるのかはむしろ分かりやすくなります。
――強そうな言葉より、相手が自分ごとにしやすい言葉になるわけですね。
新井:その通りです。肩書きは、自分を大きく見せる看板ではなく、相手が「私のことかもしれない」と感じる目印です。無理に強い言葉を使って名乗る回数が減るくらいなら、少し柔らかくても何度も自然に言える言葉のほうが仕事につながります。
名乗ったあとに補足したくなるかを見る
――自分に合う肩書きかどうかは、どう判断すればいいでしょうか。
新井:3つの問いで見てください。1つ目は、声に出して名乗ったあと、自分で補足や打ち消しを足したくなるか。2つ目は、初対面の相手に意味が伝わるまで、説明の往復が何回必要か。3つ目は、仕事の場だけでなく、家族や友人の前でも同じ言葉で言えるかです。
――どれも、売れるかどうかではなく、自分が続けられるかを見る問いですね。
新井:はい。肩書きは一度決めたら一生変えられないものではありません。起業準備中なら、なおさら試してよいのです。商品の中身を毎月変えるのは大変ですが、同じ仕事を何と呼ぶかは、相手の反応を見ながら直せます。半年単位で見直すくらいで十分です。
肩書きは半年で直していい
――途中で変えると、軸がぶれているように見えないでしょうか。
新井:中身まで変わっているなら注意が必要ですが、呼び方の調整はぶれではありません。むしろ、相手に伝わる言葉へ近づける作業です。最初から完璧な肩書きを作ろうとすると、いつまでも名刺もプロフィールも出せません。まず今の実感で言える言葉を置き、反応を見て直す。これで十分です。
――肩書きで止まっている時間が長い人も多そうです。
新井:多いですね。でも、肩書きは仕事そのものではありません。肩書きに悩み続けて、人に会う回数が減るほうがもったいない。名乗り続けられる言葉を選べば、紹介の場、勉強会、知人との会話で自然に口にできます。名乗る回数が落ちなければ、覚えてもらう機会も落ちません。
今日はいまの肩書きを声に出して読む
――最後に、今日できる確認を教えてください。
新井:いま使っている肩書き、または使おうとしている肩書きを、一度だけ声に出して読んでください。そのあとに「まだそこまでではないのですが」「一応」「これからですが」と足したくなるなら、言葉が少し重いのかもしれません。補足が要らなくなるところまで表現を下ろしてみてください。
――強くする前に、自然に言えるかを確認するのですね。
新井:そうです。肩書きが決まらないときは、立派な言葉を探すより、無理なく名乗れる言葉を探してください。起業は続ける仕事です。名乗るたびに気を張る言葉では、続ける力を削ってしまいます。気を張らずに言えて、相手にも何を頼めるかが伝わる。その言葉が、今のあなたにとっていちばん実用的な肩書きです。
――肩書きは背伸びの言葉ではなく、続けるための言葉。ありがとうございました。
新井:こちらこそ、ありがとうございました。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。
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