60歳定年再雇用制度のお得な使い方
同一労働同一賃金とは
いわゆる同一労働・同一賃金という言葉を最近よく聞きます。
【仕事の内容が同じならば、給料も同じでなければならない】ということです。
わかりやすい例として、長澤運輸事件という判決があります。皆さんも聞いたことがあるかもしれません。
60歳になったトラックドライバーが、以前とまったく同じ運転業務をしていたにも関わらず、60歳定年再雇用によって給料ダウンされてしまいました。
60歳以前も、60歳以後も明らかに同じ内容の仕事をしているのに、定年再雇用という理由だけで給料ダウンをする。これは違法であるという大変わかりやすい判決です。
★長澤運輸事件の判例とは
https://suplab.jp/workhanrei819091/
定年再雇用で給料を大幅ダウンできる制度
同一労働、同一賃金であれば、どうして60歳で定年再雇用されると、給料が半減したり、ひどいときには1/3にまで下がってしまったりするのでしょうか。
それができるのは、こういうロジックを使っているからです。
60歳定年再雇用制度とは
60歳の定年になる前は、年収900万円の部長(役員でなく従業員)がいたとします。
この部長が60歳になると、定年と同時に今度は嘱託として年収300万円で再雇用されます。
嘱託としての仕事の内容と責任は、部長としての仕事の内容と責任と比べると内容も責任も軽くなります。こうした場合は【同一労働・同一賃金】にはなりません。
したがって60歳の再雇用を機会に大幅な賃金ダウンが許されることになります。
65歳定年延長とは
60歳定年再雇用とよく似た言葉に【65歳定年延長】があります。
60歳で再雇用して、65歳まで働くのと、60歳の定年を65歳まで延長するのと何が違うのでしょうか。
結論からいうと、60歳で再雇用した場合は、給料の大幅ダウンは認められます。
しかし、65歳定年延長の制度の会社であれば、60歳になっていきなり部長を嘱託にして給料を大幅ダウンしたら、会社が社員から訴えられることになりかねません。万一訴えられたら、まず会社は負けるでしょう。
どうしてそんなことになるのでしょうか。
それは次回のコラムでご説明します。
➤ご質問はこちらの問い合わせページから
60歳定年再雇用と65歳定年制の大きな違い
60歳で再雇用の場合は、給料の大幅ダウンが認められる。65歳定年制の会社の場合は、給料ダウンも認められない。
どうしてそんなことになるのでしょうか。
法律では、会社は「定年制の廃止」「定年の引き上げ」「継続雇用制度(再雇用制度)などの導入」のいずれかを導入しなければなりません。
そして、定年を60歳未満とすることは認められていません。
あなたの会社の就業規則にも定年は60歳とする、または定年は65歳(70歳)とする、と記載されているはずです。
実は、60歳で賃金ダウンが認められるのは「定年を60歳」とした会社のほうなのです。
ですから、定年を65歳とした会社が、60歳になった部長をいきなり嘱託にして給料1/3にカットすることは違法になる可能性が大きいのです。
60歳定年再雇用では賃金ダウンは認められる
会社は、希望者する従業員全員に65歳までの雇用の機会を与える必要があります。
しかし、法律では、定年前とまったく同じ労働条件で、定年後に従業員を再雇用することを義務付けているわけではありません。
再雇用の際は、今までの労働契約とは全く違う新しい雇用契約を結びます。
新たな契約をどうするかは、会社と本人との話し合いになるので今までの待遇に拘束されることはありません。
だから1/3に給料カットを行っても違法にはならない可能性が高いということになるのです。
こうして、この従業員は60歳以降もまったく同じ会社で継続して働き続けていきます。
肩書は部長から嘱託に変わります。形のうえでは60歳で企業をいったん退職し、その日からから新たな雇用契約を結んで会社に雇い直しということになるのです。
だから、59歳までは年収900万円だった部長を60歳の誕生日から、嘱託やパートアルバイト、契約社員など雇用形態を変更したうえで年収300万円に変更して働いてもらうことができるのです。
65歳定年制の会社では賃金ダウンは認められない
65歳までの定年制を導入する会社は、59歳までは年収900万円の部長を60歳の誕生日から嘱託にして、年収300万円に変更して働いてもらうことは原則的にはできません。
それは、法で認められない【賃金体系を不利益に変更】したからです。
例外的に従業員である部長本人が同意したり、労働協約を締結したり、就業規則を変更したりすれば賃金ダウンはできます。
しかし、労働条件が悪くなるのだから普通に考えれば従業員は簡単に同意することはないでしょう。
また、労働協約を締結したり就業規則を変更したりということになると【賃金体系を不利益に変更】することに合理性が認められるか、必要性はあるのかなどと、大変ややこしい話になってきます。
それでも無理やり給料ダウンを行ったら、どうなるでしょうか。下手をすると会社は従業員から訴えられます。このケースであれば従業員から裁判を起こされたら、おそらく会社は負けるでしょう。
就業規則の書き方ひとつでこんなに違う
法律で「定年制の廃止」「定年の引き上げ」「継続雇用制度(再雇用制度)などの導入」のいずれかを導入しなければなりません。と書かれると、素直に65歳まで雇えばいいんでしょう。では就業規則に65歳まで雇うと書き加えればいいんですね。
【同一労働・同一賃金】が認められつつある今日では、そんな簡単な話にはならなくなってきたのです。
厚労省のガイドブックには3通りの就業規則の例が紹介されています。
①65歳定年延長
②60歳定年、65歳まで継続雇用
③60歳定年、経過措置をとって継続雇用
➤厚労省の高年齢者雇用安定法ガイドブックはこちらから
あなたの会社の就業規則に【定年を65歳まで引き上げる】と書いてあるか【定年は60歳とし再雇用制度により65歳まで継続雇用する】と書いてあるか、一見どちらでもよさそうな話です。しかし、【同一労働・同一賃金】になると、就業規則の書き方の違いで天と地ほどの差ができてしまうのです。
たとえば、あなたの会社で40歳の従業員をいきなり役職変更して給料ダウンしたらどうなるでしょうか。
定年65歳を定めた会社では、40歳であろうと60歳であろうと【ある年齢に達した】という理由だけで給料ダウンするということは違法だということはお分かりいただけたと思います。
ぜひ、お手元の就業規則をご覧になって確認してみてください。
➤同一労働・同一賃金の最近の裁判例はこちらから
➤65歳定年と書いた就業規則に関する問い合わせはこちらから
次回は65歳定年再雇用制度のお得な使い方について解説いたします。
給付金のあらまし
60歳定年再雇用制度を採用している会社には、最大で対象の従業員一人当たり月収の15%約37,500円が国から支給されます。
ここでは、59歳で年収900万円(月収75万円、賞与なし)の部長だった従業員が60歳から年収300万円の嘱託(月収25万円、賞与なし)として再雇用されたケースをもとに考えてみます。
この給付金をもらうためにはいくつかの条件があります。
細かく分けるとわかりにくいので、一番単純なケースで説明します。
1.毎月の月収が25%以上ダウンしていること
25万円÷75万円=33%の月収 ⇒ 67%の月収ダウンというもらえる条件を満たしています。
2.本人が毎月もらえる給付金額
毎月の月収の15%
25万円 × 15% = 3万7500円/月
毎月3万7500円が60歳から65歳までの5年間に本人に支給されることになりますから、総額で225万円が本人に支払われることになります。
会社は本人が65歳まで毎月25万円しか支払わなくても、本人は毎月28万5千円貰えることになります。これは本人にとってありがたいことですね。
支給額には上限があります。
年収1200万円の部長が60歳で給料が1/3の年収400万円(33万円/月)になったら、33万円の15%=4万9500円を貰えるかというと、支給額に上限があるためそれはできません。
支給額の上限は年によって増減しますが、おおむね【月収+給付金月額】が34万円/月と考えてください。
なるべく多くの金額を本人に受け取ってほしい場合
すると65歳まで本人に毎月34万円の収入を得てもらおうとすると、会社は毎月本人にこれだけ支払えばいいことになります。
会社⇒本人 295,000円
国(給付金)⇒本人 44,250円 (295,000円×15%)
合計 339,250円
これが国から貰える最大額になります。
給付金の存在を知らなかったら29万5千円しか貰えなかった給料が、国に申請するだけで約34万円貰えることになりますね。
会社の負担をできるだけ少なくして、毎月25万円受け取る
本人には何とか月25万円は貰ってほしいのだが、会社もそこまで余裕がないというときは、このようになります。
会社⇒本人 218,000円
国(給付金)⇒本人 32,700円 (218,000円×15%)
合計 250,700円
従業員の方にはこのように説明できます。
【会社としては、65歳まであなたが毎月25万円受け取れるようにしました。】
でも会社の負担は218,000円です。
この方法を知らない会社は結構多いです。会社が損をすることはありませんのでぜひご利用ください。
➤このコラムへのご質問はこちらから