知っておきたい 【歯科治療】を行った海外駐在員への対応のポイント
海外出張中でも海外赴任中に病気や怪我になったとき、海外旅行保険を使うのが一般的です。ただし海外旅行保険ではカバーできない場合もあります。
このようなときは日本の健康保険を使って医療費の一部を払い戻してもらうことを海外療養費制度といいます。
海外療養費制度は、人事担当者でもよくわかっておらず誤解も多いので、事例を交えて解説していきます。
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協会けんぽHPより
海外療養費とは
海外療養費制度は、海外旅行中や海外赴任中に急な病気やけがなどによりやむを得ず現地の医療機関で診療等を受けた場合、申請により一部医療費の払い戻しを受けられる制度です。
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■海外旅行保険でカバーされない治療
海外出張者や海外赴任者に掛けられる海外旅行保険では歯科治療、慢性病、180日を越える治療がカバーされません。出産もカバーされない代表例ですが、出産は国内の健康保険制度でも特殊な部類入りますので、稿を改めて説明します。
海外の歯科治療はバカ高く海外旅行保険でカバーされないのは、一般的に知られていますね。
慢性病は、海外旅行保険の約款に「海外滞在前から治療中の病気は対象外」との記載があるはずで特約でもない限りカバーされません。
海外滞在中にはじめて高血圧や糖尿病になっても、180日までしか治療費は支払ってもらえません。もともと「海外を旅行する短期滞在者」をメインに作られた保険であることからこれも仕方ありません。
すると、せいぜい3日から1週間程度海外にいるような海外出張者については、急に歯が痛くなるような場合を除けば、海外旅行保険でほぼカバーされます。
ですから、健康保険を使う場面が出てくるのは長期間海外に滞在する「海外赴任者とその家族」が「歯科治療や慢性病」にかかった場合がほとんどになります。
■健康保険でもカバーされない治療
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協会けんぽHPより
給付の範囲
•海外療養費の支給対象となるのは、日本国内で保険診療として認められている医療行為に限られます。そのため、美容整形やインプラントなど、日本国内で保険適用となっていない医療行為や薬が使用された場合は、給付の対象になりません。
•療養(治療)を目的で海外へ渡航し診療を受けた場合は、支給対象となりません。日本で実施できない診療(治療)を行った場合でも、保険給付の対象とはなりません。
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海外で歯科治療を受けても健康保険でカバーされますが、対象となるのは、日本国内で保険診療として認められている治療に限られます。
インプラントや歯列矯正など、日本国内で健康保険が適用されない治療は、健康保険ではカバーされません。
同様に、美容整形や日本の健保で未承認の高度医療などもカバーされません。つまり、日本で健康保険が適用されない治療は海外でもカバーされないということです。
■健保組合(協会けんぽ)からいくら払ってもらえるのか。
人事、海外赴任者にとってここが最も誤解の多いところです。
普通に考えると、健保は3割負担なので支払った金額の7割が戻ってくると思うのですが、それがそうともいきません。
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協会けんぽHPより
日本国内の医療機関等で同じ傷病を治療した場合にかかる治療費を基準に計算した額(実際に海外で支払った額の方が低いときはその額)から、自己負担相当額(患者負担分)を差し引いた額を支給します。
日本と海外での医療体制や治療方法等が異なるため、海外で支払った総額から自己負担相当額を差し引いた額よりも、支給金額が大幅に少なくなることがあります。
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下表をご覧ください。
ベトナムで受けた歯科治療を例にとります。
海外駐在員のAさんは、ベトナムで日本人の歯科医が開業している歯科医院で虫歯の治療を行いました。30,000円払ったのに3,000円しか戻ってこない。間違いじゃないの?
海外駐在員と人事(健保組合)とのよくあるトラブルです。
虫歯の治療に日本円で30,000円支払いました。3割自己負担であれば、健保組合に30,000円請求したら、21,000円(30,000円×7割)はAさんに戻ってくるはずです。
しかし、健保組合からAさんに支払われた額は7,000円でした。当然のようにAさんは人事(健保組合)に「21,000円戻ってきていいはずなのに7,000円しか戻ってこない。計算間違いじゃないの」と問い合わせます。
実はその歯科医は現地に駐在する日本人に評判がいいだけあって、いたれりつくせりのサービスなのですが、その分治療費も高めです。
自由診療(治療費は自由に設定できる)の歯科医だからこうしたことになるのです。
健保組合は請求された書類に基づいて、同じ治療であれば、日本の健保制度では何点(いくら)の診療になるかを算定します。
「日本でこの治療内容であれば10,000円、したがい、本人負担3,000円、健保組合負担7,000円とする。だから本人に戻す金額は21,000円でなく3,000円。」ということになのです。
こうしたトラブルが起きたら、下表を利用して丁寧に説明するといいでしょう。
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協会けんぽHPより
•外貨で支払われた医療費については、支給決定日の外国為替換算率(売レート)を用いて円に換算して支給金額を算出します。
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細かい点ですが、為替レートも結構変動しますので、「いつのレートを使っているのか」問い合わせがあります。治療日でなく支給決定日の売レート(いわゆるTTSレート)になります。余談ですが、社労士の試験問題でここが問われました。
■申請の方法
医科の場合と歯科の場合に分かれます。健保組合であれば書式集がありますので、それにしたがって本人に申請してもらいます。
2度目からはスムーズにできますが、最初は人事(健保組合)も海外赴任者も大変ですが、粘り強く必要書類をそろえるしか方法はありません。
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けんぽ協会HPより
申請書類
医科
1.海外療養費支給申請書・・・ア
2.診療内容明細書(様式A)・・・イ
3.領収明細書(様式B)・・・ウ
4.現地で支払った領収書の原本
歯科
1.海外療養費支給申請書・・・ア
2.領収明細書(様式B)・・・ウ
3.歯科診療内容明細書(様式C)・・・エ
4.現地で支払った領収書の原本
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日本人が治療を受けるような医者であればたいていは英語ができるので、英語をもとに申請者である海外赴任者に記入してもらいます。
専門の翻訳者に頼むこともできますが、そんなことをしたら戻ってくる金額を上回る費用がかかる場合もあり、よほどの場合でないかぎり現実的ではありません。
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5.各添付書類の翻訳文
※翻訳文には、翻訳者が署名し、住所および電話番号を明記してください。
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かつては日本で働く外国人が、この制度を悪用して協会けんぽを狙って自国のニセの領収書を発行して不正受給が横行したことへの対策です。
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6.受診者の海外渡航期間がわかる書類
(パスポート・ビザ・航空チケットなど当該渡航期間がわかる部分のコピー等)
※パスポートの場合は、①氏名・顔写真と②出入国スタンプのページの両方のコピーを添付して下さい。(診療を受けた期間に渡航先に滞在していたことが分かるよう目印をつけて下さい。)
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海外で治療を受けたならパスポートに渡航記録が残っているはずだ、ということです。
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7.同意書(様式D)…オ
具体的な診療内容等について、診療等を受けた医療機関に照会するため、療養を受けた方の同意書を添付して下さい。
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領収書がホンモノかどうか、電話で問い合わせますよ、という意味です。
■まとめ
保険会社が、キャッシュレスサービス等を使って治療から支払いまで人事の手間をかけずにやってくれる海外旅行保険は大変使い勝手がよく便利です。
しかしながら海外旅行保険は使えば使うほど、翌年の支払保険料に跳ね返ってきます。そうなると会社の負担もバカになりません。
健康保険をなるべく多く使って海外旅行保険の支払保険料をなるべく減らしていこうというのが最近の各社の傾向です。
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