航空機内で電子機器の使用が大幅緩和
最近のPCパーツ市場では、大きな変動が起きています。SSDやメモリ(DRAM・NAND)などのパーツ価格が軒並み高騰し、中には、これまでの2倍どころか3倍以上に達した例もあり、その上がり方は急激で留まることを知りません。複数の要因が重なっていると考えられるため、情報を整理しつつ、二十数年間業界にいる経験も踏まえて、今後起きる可能性のある変化について整理してみました。
加速するAIシフトとAIデータセンターによる爆発的な需要増
AI向けの需要が急増し、DRAMやNANDといったメモリ全般の価格を強力に押し上げています。これが、現在の値上がり要因の中心です。
現在、AI分野への莫大な投資が世界的規模で行われています。AIを掌握した企業が今後の主導権を握ると見られているためです。これまではGoogleやMicrosoft、Appleといったプラットフォーム企業が中心になりITをけん引してきましたが、AIの登場により既存サービスの存続さえ揺らぎかねない変革が進みつつあります。この流れによって各社がAIへのシフトを加速させ、必要な設備を整える競争が全地球規模で展開。その激しさを増しています。
AIモデルを扱うデータセンターは年々巨大化し、膨大な量のメモリ(DRAM)、特に高帯域幅メモリ(HBM)やフラッシュメモリ(NAND)を必要としています。そのため、AI企業向けの供給確保が優先され、一般市場向けの供給が細り始めています。メーカー側も収益性の高いHBMやDDR5の生産に重点を置くため、旧世代であるDDR4の生産縮小や停止が進んでいます。しかし、DDR4は依然として広く使用されているため、需給バランスが崩れ、急激な価格上昇を招いています。
さらに、過去の値崩れを警戒して増産を抑えているメーカーが多く、需給が意図的にタイトになっている面もあります。加えて、AIデータセンターではHDD需要も増加しており、その影響が一般向けHDDの価格や納期にも及び始めています。
ユーザーを直撃する4つの影響
ここからは、一般ユーザーにどのような影響が出るのかを見ていきます。
1.自作コスト・グレードアップ・修理費の大幅増
メモリ(DRAM)とストレージ(SSD)は、PCの中核を担う重要な部品です。この部分の価格上昇はユーザーに直接影響します。とりわけDDR5メモリは短期間で2~3倍に跳ね上がった例もあり、これまで容量単価が下がり続けていたSSDもV字的な上昇を見せていて、心理的負担も大きくなっています。当然、高容量化するグラフィックスボードも影響を受けていて、価格高騰だけでなく需要に追い付かず、購入すら難しい状況になっているものもあります。
一部メーカーはDDR5やHBMに注力するために、DDR4メモリの生産を終了。規格としても世代的に終焉を迎えてはいますが一般向けPCでまだ広く使われていて、需要は旺盛のため予想以上の値上がりを招いています。SSDの価格上昇も並行して進んでいるため、自作PCでは予算内に抑えるために仕様を落とさざるを得なかったり、グレードアップを予定していたユーザーはその機会が失われようとしています。また、故障時の部品交換コストが上昇することで、修理ではなく買い替えを選ばざるを得ないケースも増えるでしょう。価格変動の影響は、PC買い替えの判断そのものにまで及び始めています。
2.完成品PC(BTO・メーカー製)、中古PCの値上げ
大手メーカーやBTOメーカーも、メモリ、SSD(DRAM・NAND)の調達コスト増を吸収しきれなくなっています。通常であれば大量調達で価格上昇を抑えられますが、現在の市場はその効果を上回る勢いで値上がりが進んでいます。
そのため、ノートPCからデスクトップPCに至るまで幅広いモデルで価格引き上げが行われています。現在の価格が安定して影響がないように見えていても、安価な時期に仕入れた在庫が尽きれば、そこから急な値上げに転じる可能性もあります。今後はCPUやGPUの世代交代よりも、メモリやSSDの価格変動がPC価格を左右する傾向が強まりそうです。「型落ちを待って安く買う」という従来の選択肢にも影響が出るかもしれません。
影響は新品のPCだけでなく中古PCにも及ぶでしょう。特にDDR4メモリやSSD容量を多く搭載した中古PCは、メモリとSSDの価値だけでこれまでの倍額になる場合も出てくるでしょう。今時の高性能なミニPCの新品を選ぶのと、どちらがいい選択なのかという身もだえする状況になるのです。そうなるとこれまでの「中古PCでいい」という選択肢自体がなくなるかもしれません。
3.その他IT製品・周辺機器への波及
DRAMやNANDはPC以外にも幅広い製品で利用されているため、周辺機器や家電にも価格上昇が波及します。
●ネットワーク機器(ルーター、NAS、プリンターなど)
高速処理が求められるハイエンドルーターやNASはDRAMを多く使用するため、価格上昇が起きやすくなります。SSD搭載NASは特に影響が大きいでしょう。プリンターや複合機もPC並みのメモリやストレージを積むモデルが多く、コスト増が見込まれます。
●外部記憶装置
SDカード、USBメモリ、外付けSSDなどの製品もNAND価格の影響を受け、値上がりが進む可能性があります。実際、2025年11月時点で市場価格はじわじわと上昇しています。
●組み込み機器
産業用コンピューターや監視装置などの各種IoTデバイスもメモリ価格の影響を受け、製造コストの増加が見込まれます。
4.クラウドサービス、Webサービスなどのコスト転嫁
データセンターのインフラコスト増は、最終的にGoogleやMicrosoftなどのクラウド事業者の負担となります。その結果、クラウドストレージやSaaSの利用料金に転嫁され、間接的に一般ユーザーにも影響が及ぶ可能性があります。またWebサービスの会員価格や利用料の値上げ、各サブスクリプションの値上げにも波及するでしょう。
今後の備えとして
メモリやSSDの高騰は一時的な現象ではなく、AI競争が続く限り長期化する可能性が高いとみられています。AIの予測では、2026~2027年頃まではこの傾向が続くとの見方が強く、一般ユーザーにも無視できない影響が出るでしょう。これまでIT製品は技術革新や関税優遇で価格が安定していましたが、いまやその“安定領域”も揺らぎ始めています。今後は他の製品と同様に価格上昇の波を避けられない状況が想定されます。
PCや周辺機器の買い替えを検討している、また寿命が迫っているものを所有しているユーザーは、状況がさらに深刻化する前に早めに決断したほうがよいかもしれません。すぐの買い替えが難しい場合は、ピークをやり過ごせる数年程度の経過に耐えられるような既存PCの延命策や最適化などが必要です。今後は限られたリソースを有効に活用する工夫が求められるでしょう。
※今後、世界的なAIバブル崩壊が訪れた場合は真逆のことが起きるかもしれません。
筆者実績:http://www.kumin.ne.jp/kiw/#ss



