クレーマー患者に対する診療拒否・退院要請の注意点
「待ち時間が長い」「先生の対応が冷たい」「説明が不十分だった」——。
最近、こうした患者さんからの強いクレームに頭を悩ませているという相談が、私たちのもとに数多く寄せられています。
ひとたび対応を誤れば、インターネットの口コミに低評価が投稿され、スタッフが精神的ダメージを受けて退職につながるなど、クリニック経営に深刻な影響を及ぼします。
今やクレーム対応は「偶発的な出来事」ではなく、「院内マネジメントの一部」と捉える時代です。今回は、患者さんを不快にさせないための**初期対応の型(3ステップ)**と、スタッフ全員で信頼を守るためのマネジメントの視点をお伝えします。
Step1:まずは“心情”に対して詫びる
怒りをあらわにする患者さんに対し、最初に求められるのは「非を認めること」ではなく、「気持ちを受け止めること」です。
事実確認を行う前に「こちらの落ち度でした」と言ってしまうと、後に誤解を招くリスクがあります。
大切なのは、患者の感情に対して謝るという姿勢です。
たとえば次のように伝えましょう。
•「ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません。」
•「それはお困りでしたね。ご気分を害してしまい、申し訳ございません。」
お詫びの表現は、スタッフごとにばらつきが出やすい部分です。
誤解を防ぐため、クリニックとして統一したフレーズを共有しておくと安心です。
Step2:話を聴く“姿勢”が信頼をつくる
相手の話をただ聞くだけでなく、「事実確認」と「要求の妥当性」を同時に整理していくことが、クレーム対応の核となります。
【傾聴のポイント】
•話を遮らず、否定も肯定もせずに聴く
•相手と正面から向き合い、目線の高さを合わせる
•無意味に笑わない
•うなずき・相づち(「はい」「そうですね」など)で共感を示す
•キーワードを繰り返して確認する(「…と思われたということですね」)
逆に、「そんなことはありません」「それは誤解です」などの否定的な言葉は、不満を増幅させてしまいます。
院内では、NGワード集を作り、クレーム対応が得意なスタッフが講師役となってミニ勉強会を開くのも有効です。
講師役のスタッフ自身にも新たな気づきが生まれ、チーム全体のコミュニケーションレベルが上がります。
Step3:気分を害さずに“切り上げる”
特に高齢の患者さんの場合、同じ話を何度も繰り返すことがあります。
誠実に傾聴しつつも、際限なく続く場合はいったん話を整理して締める勇気も必要です。
「(ご指摘の内容は)〇〇ということですね」と要約し、今後の対応を約束したうえで、次のように切り上げます。
•「誠に申し訳ございませんが、結論は今週中にご連絡いたします。本日はこれで失礼いたします。」
•「本日のお話は確かに承りました。事実関係を確認し、改めてご報告いたしますので、今日はこのあたりでご容赦ください。」
クリニックの場合はお詫びから傾聴までの時間はおおむね15分~30分以内が目安です。この“切り上げトーク”も、院内で共有しておくと現場が迷いません。
まとめ:スタッフ全員で「患者を支える」文化を目指す
医師の臨床能力と同じくらい、コミュニケーション能力は重要です。
しかし、患者にとって医師はどうしても「敷居の高い存在」です。
診察室に入る前の受付や看護師の一言が、患者の印象を左右します。
重要なのは「誰が正しいか」ではなく、「患者の感情をどう受け止めるか」。
スタッフは医師の代弁者ではなく、患者と医師をつなぐ架け橋であるという意識を持つことが大切です。
例えば、待ち時間への不満は診察室の外でこぼされることが多いもの。
「長くお待たせして申し訳ございません。お時間は大丈夫ですか?」
この一言を受付スタッフがかけるだけで、クレームが“安心”に変わることがあります。
医療職から受付事務まで、全員で患者を見守る体制をつくり、情報を共有すること。
それが、クレーム対応力を「組織の力」に変える第一歩です。



