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原聡彦

医療経営指導の専門家

原聡彦(はらとしひこ) / 医業経営コンサルタント

合同会社 MASパートナーズ

コラム

本院が好調な医療法人が分院展開をしなくてよかったあ!という実例

2021年5月4日

テーマ:院外事務長の視点

コラムカテゴリ:医療・病院

(相談内容)
今回は10年前にあった分院展開に関するご相談です。当時、開院7年目の医療法人立のクリニックの理事長兼院長から「開業をサポートしてくれたコンサルタント会社が事業拡大の提案として分院の展開を勧められました。人員管理(採用・労務管理)はすべてコンサルタント会社へ依頼できるという良い条件ですが分院展開する際のリスクなどを教えてほしい」という相談を頂きました。今回は12年前に回答した内容を踏まえて分院開設時のポイントをお伝えしたいと思います。

(回答)
1.分院に関する一般的な回答は?
コンサルタントや税理士、会計士に相談すると、次のような助言があると思います。分院を開設する目的を明確にすることが大切です。そして、次に、分院の事業計画を作り医療法人として事業が成り立つかどうかを数字で確認することをお勧め致します。
敷金、内装工事、医療機器などの設備投資やリース、人員体制などをできるだけ具体的に出し、資金が回るかどうかを確認し資金が不足するようであれば金融機関からの借り入れも検討が必要です。この回答で間違いはないと思いますが私どものほうでは下記のような提案をしました。

2.この相談に対する私の回答は?
今回の相談では具体的な事業計画書がありましたので数値的な分析と数値では現れない分析を実施しました。この時の回答のポイントを下記にまとめました。

(事業計画書など数値から掴める分析)
①分院開設から2年間 赤字累計 ▲4,240万円
(1年目 ▲3640万円 2年目 ▲600万円 3年目 500万円 4年目1500万円 5年目2200万円)

②損益分岐点 人数 
開業から2年程度で損益分岐点に達する計画であるが最悪を想定して運転資金を見積もる事がポイントです。

③シミュレーションの数値は厳し目に!
事業計画の内容を見ると駅前の立地するビルという事で家賃は割高でした。また、人件費については定期昇給や法定福利費の金額が少ないため再度、検討するようお伝えしました。事業計画書において、くれぐれも気をつけて頂きたい事は、売上計画、設備投資額、経費を甘めに考えないことです。事業が成り立たないのであれば、撤退することをお勧め致します。厳しめの数字でチェックをしていただくようお伝えしました。
(数値では掴めない分析)
①事務長等の人員管理をコンサルタント会社に一任できるという事になっているので人の採用や退職など管理面での軽減メリットもありますが、すべての人員管理をコンサルタント会社に任せることができません。とくに分院長を含めて医師のマネジメントは医師である理事長でしかできません。本院の評判をもさげられるリスクもあるので分院の院長管理はかなりの負荷がかかります。弊社のクライアント様にも分院クリニックを転売・閉院せざるえない状況になっている事例も増えています。
②経営状況が外部のコンサルタント会社にガラス張りになる等デメリット面もあるので十分、検討して頂くことを提案しました。
③総合的な分析(経営資源の視点)                                   
  人(ヒト)→医師の雇用面と管理負担増(医師にやる気になってもらうのは難しい)。
  物(モノ)→賃貸物件の家賃が割高(現在の倍はかかる)。
  金(カネ)→内部留保で賄える。本院のブランド力で黒字化はできる。
  情報   →外部のコンサルタント会社に経営状況を握られる。
  ※上記の経営資源の視点に加え、医師として経営者としてどのようにありたいか?を再度、ご検討頂くことをご提案しました。
上記の報告をした結果、理事長は「医療法人には十分な内部留保があり分院についても私自身が診療にも関われば継続的な利益は見込めましたが、分院長を含めた医師のマネジメントの負荷が倍増することで本院の診療がおろそかになり、本院でこれまで築いた患者さんとの信用をなくすリスクを受け入れることはできない。分院展開はせず今のクリニックをもっと患者さんに喜んでもらえることができるクリニックにしたい」ということで分院展開はしないという決断に至りました。

3.分院展開しなかった結果
10年後の経営会議で理事長は「10年前、分院展開をしたクリニックは、例外なく分院長のマネジメントに苦戦して、分院は思うような利益も上がっていない情報を聞いています。医師のマネジメントは考えた以上に難しいようです。10年前、規模を追求するより医療の質を上げることで患者さんに喜んでもらうことをやっていくことを決断したことは結果的によかったと思う。」と理事長からお話がありました。規模拡大は経営者としての一つの成功の証と思いますが広げた屏風は倒れることもあるので大きな決断の前には客観的なデータを分析するとともに自分自身が何のために規模を拡大して何を得たいのか。もう一度ご自身の理念やミッションを見直しご検討頂くことをお勧め致します。

この記事を書いたプロ

原聡彦

医療経営指導の専門家

原聡彦(合同会社 MASパートナーズ)

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