家の造りようは夏を主(むね)とすべし?それとも冬を主とすべし?

菊池浩史

菊池浩史

テーマ:住まい教育・消費者教育

【はじめに】
本年4月22日、建築物省エネ改正法が閣議決定されました。2025年に全建築物に省エネ基準の適合義務化、2030年度には省エネ基準をZEH及びZEBが備える省エネ性能まで引き上げ、その適合義務化になる予定です。

住宅の省エネや断熱性能の向上は、SDGSの13番目の目標「気候変動に具体的対策を」に則っています。地球環境問題への対応以外にも、健康増進や光熱費の節減といった個人や家計へのメリットも期待されます。

ところで、徒然草には、「家の造りようは夏を主(むね)とすべし・・・」という有名な下りがあります。日本の家づくりの特徴は夏の暑さ対策にありました。その特徴には、風を最大限に確保できる広い間口、開放が自在な間仕切り、夏の日射や地面の照り返しを室内から遠ざける深い軒と縁側、断熱性と通気性に富んだ大きな屋根、風が通る床下などがあります。

ところが、最近は冬の寒さ対策が強調されています。それはなぜでしょうか。

【冬リスク社会の到来】
近畿大学の岩前篤教授によると、日本は「夏に多くの人が亡くなる夏リスク社会」から、「冬に多くの人がなくなる冬リスク社会」になっています。その理由の一つが、月別死亡率(各月の死亡者数/年間の総死亡者数)の推移です。それを見ると、1930年代頃までは夏が高いのに対し、1950年代以降は冬の死亡率の方が夏を上回っています。

冬の寒さが引き起こす疾患の一つがヒートショックです。温度差によって血圧が急に上下に変動することで心臓や血管に異常が生じる症状を言います。そのためめまいや失神が起き、死に至ることがあります。冬の入浴中、温かい居間から寒い浴室へ移動したため血圧が急激に上昇し、心臓の負担が増し心筋梗塞や脳卒中を発症するといったケースです。

全国で年間2万人弱の方が入浴中に亡くなられており、そのうちヒートショックで亡くなられた数は約5千人余りとも言われ、交通事故の死亡者数を大きく上回っています。

ヒートショックの防止には、家全体の高断熱化と全体暖房が有効です。そして、高断熱の住宅であれば、夏場もしっかり冷房ができ熱中症対策にも繋がります。

【省エネ・断熱住宅への消費者の選好性】
ところで、住宅選びにおいて、消費者は省エネや断熱性能をどのくらい重要視しているのでしょうか。令和3年度住宅市場動向調査(国土交通省)のなかに、新築住宅選びで設備等の選択理由に関する項目があります。

それによると、注文住宅では、一位「高気密・高断熱住宅だから(63.1%)」、二位「住宅のデザイン(58.6%)」と続いています。一方、分譲住宅では、一位「間取り、部屋数が適当だから(73.6%)」で、「「高気密・高断熱住宅だから」は7位(20.9%)に留まっています。現状ではコスト負担力が高気密・高断熱住宅の購入に少なからず影響していると推察されます。

2025年度に全建築物の省エネ基準が適合義務化されることを見据えれば、高気密・高断熱住宅の普及には、環境や健康へのメリットに加え経済合理性への正しい理解が必要だと考えます。それには家計に及ぼす省エネ効果の見える化が必要です。更には、高気密・高断熱住宅の快適性を体感できれば、一層納得感が高まるでしょう。

【まとめ】
高気密・高断熱住宅が注目される時代になりました。省エネ基準の義務化は決まり、脱炭素社会に向け国も本腰を入れ始めました。この動きを加速するには、作る側(事業者)と使う側(消費者)の意識と行動の変容が欠かせません。そのためには消費者教育が大切になってきます。

以上

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菊池浩史
専門家

菊池浩史

住まいの消費者教育研究所

住まいにまつわるビジネス経験や、不動産鑑定士としての専門的知見を活かし、顧客ファーストで「住まい教育」を普及・実践。住まい選びやメンテナンス、そして家仕舞いまで、ワンストップでトータルサポートします。

菊池浩史プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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