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菊池浩史

「住まい×消費者×教育」のハイブリッドを目指す専門家

菊池浩史(きくちひろし)

住まいの消費者教育研究所

コラム

賃貸住宅で発生しやすいトラブル防止について ~生活音を巡るトラブル~

2022年4月17日

テーマ:住まい教育・消費者教育

コラムカテゴリ:住宅・建物

コラムキーワード: まちづくり不動産管理消費者問題

【はじめに】
前回は、賃貸住宅で発生しやすいトラブル事例を列挙しました。今回は、そのうち共同生活のマナー違反に伴うトラブルの防止策を考えてみます。このトラブルは、被害者になるだけではなく、知らず知らずのうちに誰もが加害者にもなり得ます。それだけ微妙な問題でもあり、「すっきり」した対策があることは少なく、むしろグレーゾーンの多い世界と言えます。

今回は、生活音を巡るトラブルをについて、次の視点からアプローチします。
①生活音のトラブルって何?
②どのような打ち手があるの?
③法的手段は可能か?
④何ができる?


【生活音のトラブルって何?】
共同住宅で発生する生活音は多岐に及びます。故意に騒音を出しているか、そうでないかによって、大きく二分できます。

一つは、普通に生活すれば普通に発生する音です。例えば、上階の足音、子どもが走り回る音、洗濯機などから伝わる振動音、トイレなどの排水音、テレビや楽器の音、大勢で騒ぐ声、ペットの鳴き声などです。床や壁の厚みや仕様によって遮音性に違いはあるものの、建物の構造上、生活音の伝播はある程度避けようがありません。

それから悪質性が高い生活音です。わざと壁を強く叩いたり、床を踏みつけたり、大声で叫ぶといった、その原因は様々ですが故意に騒音を発生させているようなケースです。

【どのような打ち手があるの?】
「生活音のトラブルは当事者間での解決が原則」という考え方があります。もちろん、それができ解決に至れば問題ありませんが、そのようなケースばかりではありません。寧ろ、コミュニティが希薄なこのご時勢、当事者間の解決に委ねるだけでは少々荷が重すぎます。

そのため、生活音の苦情があれば、多くは管理会社やオーナーへ相談に行きます。管理会社等の対応は様々ですが、「生活音に注意」といった貼り紙で間接的に注意喚起し、それで改善が図れない場合は原因者に個別対応する、といった方法がよく採られます。

ただ生活音は受忍限度を超えるかどうかの判断が悩ましいケースが少なくありません。多くの人には気にならないような生活音であっても、音に過敏な入居者の場合、それがトラブルへ発展することはあり得ます。

【法的手段は可能か】
例えば、故意に騒音を発生させている入居者がいる場合、その原因者を退去させることは可能でしょうか。そこには「信頼関係破綻の法理」という高いハードルが存在します。つまり、貸主と借主の間の信頼関係を破壊しないような些細な義務違反では、賃貸借契約の解除を認めないという法理です。このため、毎晩楽器を大音量で鳴らしている場合のように他の入居者の生活妨害をしている事実があっても、それだけで直ちに契約を解除できるとは限らない、ということになります。

妨害行為の程度や期間、家賃滞納など他の契約違反の有無、オーナーの改善への取組み状況などを総合的に勘案して判断されます。その結果、オーナーとの信頼関係が破綻したと判断されなければ、契約解除はできません。そのため、被害者が泣き寝入りし、退去を余儀なくされることも起こります。

【では、どうしたらいいのか?】
生活音トラブルに対し特効薬はありませんが、次の点には留意することをお勧めします。
〇共同住宅の特性をあらかじめ理解しておく
共同住宅は、程度の差こそあれ、話し声や生活音が伝わりやすい構造になっています。また、音への受忍度は入によって様々です。生活の時間帯も異なります。そのため、自分自身の生活音が他の入居者の迷惑になっていないかという想像力と同時に、他の入居者の生活音には一定程度受忍する必要があることを知っておくことは肝要です。

〇簡単に解決できないことを理解しておく
管理会社等は、事実確認をして双方の話を聞きながら解決策を模索します。そのため時間は掛かります。当然、法的手段での解決となれば時間は一層掛かります。信頼関係破綻の法理で、原因者であっても賃借権は一定程度、保護されています。

〇記録はしっかりと取っておく
生活音や騒音が発生した日時やその状況、関係者とのやりとりはしっかりと記録しておくことです。将来、解決に役立つことがあるかもしれません。


賃貸住宅の掲示板などに、「生活マナーを守りましょう。」というビラを時々目にします。自分は普通に暮らしているつもりでも、他の迷惑になる場合があります。また、明らかにマナー違反の入居者がいる賃貸住宅も存在します。それが現実でもあります。

予備知識があってもトラブルを解決できるとは限りませんが、何かしら役立つことがあるかもしれません。だから、必要な知識を身につけている方が良いでしょう。

この記事を書いたプロ

菊池浩史

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菊池浩史(住まいの消費者教育研究所)

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