高齢者住宅の情報探索を阻害する要因って何?
今回、ご紹介する書籍は、川口雅裕氏が書かれた「年寄りは集まって住め~幸福長寿の新・方程式~」㈱幻冬舎(2021年)です。川口氏は1964年生まれ。㈱リクルートコスモス、組織人事コンサルタントを経て、2010年から高齢社会に関する研究活動を開始されています。
太平洋戦争前後の困難な環境を耐え抜き、その後も懸命にこの国の発展に尽くしながら生き抜いてきた世代。また、三十年に及ぶ高齢期をどう生きるべきかという歴史上なかったテーマに向き合っている世代の方々に敬意を込めてエールを送ることが、本書のテーマです。
若い頃と同じように高齢期にも光と影の両面があります。大切なことは、この両面を正確に捉えたうえで、高齢期の変化への備えやつきあい方、自分らしい暮らし方を冷静に考え、実行に移していくことだと川口氏は唱えています。高齢者へのポジティブなメッセージ集です。
本書は5章から構成されています。
第一章高齢者たちの姿や声に学ぶ
第二章現代の高齢者は、どのような人たちか
第三章高齢期の幸福についてー健康、お金、親子関係―
第四章高齢者が集まって暮らすことによる価値
終 章 幸福な高齢期に向かって
以下、各章のポイントです。
第一章
「老いの工学研究所」には、約1万5千名の調査協力会員がいます。この会員に対し人生の終盤の生き方についてインタビューを行い、大いに示唆を与えてくれた五つの実例が紹介されています。そこには「高齢期の楽しみ」「死」「医療や諸制度」「人生最後の居場所」という四つの想いが多く寄せられています。
第二章
日本社会特有の共同体という視点から、高齢者は人生をどう振り返っているかについて、高齢者の声などを参考に以下のような整理がされています。
①女性が感じる結婚や子育てへの後悔
②意思を抑えて生きてきた
③時代に翻弄された実感を持っている
④勉強不足を痛感している
第三章
筆者は、自身の幸福な高齢期に向けた具体的な行動を早く起こして欲しいという思いを持っていますが、そこにはハードルが存在するとしています。それは子や孫に対する遠慮、自分だけ好き勝手にするのは申し訳ない、みっともない、年寄りは控えめにすべきという考え方です。そのハードルを飛び越えて幸福長寿を実現して欲しいと願っており、そのために「高齢者が集まって住む」ことを提案しています。
第四章
幸福長寿の実現には、「どこに住むか」が大切だとしています。
一つ目のポイントは「安全な家」に住むこと。若い身体には問題がなかった家も、高齢期にはリスクの高い家に変わってしまうからです。
二つ目のポイントは、「周りに人がいる環境」に住むこと。どんな家に住んでいても転ぶこともあれば体調が悪くなることはあります。そのとき誰か気づいて助けてくれる人がいるかどうかが大切になります。
三つ目のポイントは、「幸せそうな人たちが暮らしている環境に身を置く」こと。幸せそうな人たちと触れ合うことは、自身の健康習慣を強化します。
終章
人生のターニングポイントとして「老後の初心」を定め、30年以上の長きにわたるかもしれない心身の健康な期間を、自分らしさにこだわって生きて欲しいと筆者は訴えています。更に周りの誰もがその生き様を「有終の美」だと感じる人生の終盤を生きてほしいと応援しています。
また、高齢期において受けるあるいは感じる「期待感」とは、「緩やかな(互いに拘束しない)つながりを持つ仲間から、肯定的(存在が承認され、前向きな関心を持つ)な視線が向けられている状態だと筆者は考えています。
(読後感)
筆者が経営する老いの工学研究所には一万人を超える会員組織があり、アンケートやインタビューで収集した情報の蓄積は貴重な資産だと言えます。それを裏づけとした筆者の主張は、事実の基づいた強い説得力があります。
「集まって住む」スタイルは、人間本来の住まい方であり暮らし方でもあります。特に心身が衰え他人の助けが必要となる高齢期こそ、そのような住まい方が求められています。高齢者の特性をしっかり把握した上で論を展開されています。久々に充実した説得力がある高齢者に纏わる書籍に出会いました。