住まいの終活と認知症
本日紹介するのは、1996年兵庫県生まれ、大阪大学修士課程修了・東京大学博士課程修了(工学博士)、ゼネコン勤務を経て、現在は明治大学政治経済学部教授となられ、都市計画やまちづくりの分野で幅広く活躍する、野澤千絵さんが書いたことこちらの書籍です。
「老いた家 衰えぬ街―住まいを終活するー」講談社現代新書
すでに空き家になっている住宅ばかりに目を向けるのではなく、今後の大量相続時代が来る前に、一人ひとりが「住まいの終活」へと具体的に動き出すきっかけになればと思いで書かれた書籍です。
本書は以下の5章から構成されています。
第1章国民病としての「問題先送り」症候群
第2章他人事では済まされない相続放棄
第3章世界でも見られる人口減少という病
第4章空き家を救う支援の現場から
第5章さあ、「住まいの終活」を始めよう
第1章では、特に、高度経済成長期に計画的に整備してきた郊外のニュータウンの中で、都心へのアクセスが悪い場合、住宅をシェアオフィスに用途変更して職住近接のまちへ再編していくなど、住む機能だけに特化したベッドタウンからの脱却を図る重要性を指摘しています。そして、地方よりも大都市こそ「住まいの終活」に力を入れるべきだとの主張です。
債2章では、筆者は相続放棄を“サイレントキラー”と呼び、その問題点を挙げています。相続放棄された空き家は、相続財産管理人の専任申し立てが行われないケースが殆どで、塩づけ状態で放置され、荒廃の一途を辿って極めて危険な状態になると税金を投入して解体せざるをえなくなると指摘しています。将来の公共投資を増やし続けている=一人ひとりの税負担を増やし続けているという意味で、「サイレントキラー」に他ならないと警鐘を鳴らしています。
第3章では、アメリカ・ドイツ・韓国の人口減少都市の事例を紹介しています。そのなかでデトロイトのランドバンクを紹介しています。ランドバンクとは、地域の荒廃を減少させ、放置された空き家・空き地や税滞納差押物件等を利用される物件に転換し、課税対象の状態に戻すことを目的とした公的機関です。そこから学ぶべきことは、まちを「使える」ようにするための「素地」をつくることであり、そのためには「住まいの終活」が必要不可欠だと主張されています。
第4章は、空き家を救う、支援の現場の活動紹介です。そこで筆者は「住まいのトリアージ(選別)」という戦略に着目しています。住まいのトリアージとは、空き家の老朽度、広さ、間取り、立地などの物的な条件と、エリアの特性や近隣・コミュニティの状況を見極め、空き家やその跡地の選択肢を検討するための活動です。また、民間市場で流通性が低いエリア・物件に対し、空き家やその跡地を活用するためのコーディネートに積極的に取り組む先進事例を取り上げています。
第5章では、住まいの終活の手順に引き続き、次の住まいの終活の支援策に関する提言がされています。
・「使える」土地にするための解体促進策
・解体費の税控除
・低額物件を扱う担い手づくり
・地域に根差したコーディネート組織への支援
皆さまも本書を読んで、「住まいの終活」について考えてみませんか。