日本のコーチングの現状<No.10> セッションでコーチは何をみているのか(1)
マネジメント研修でコーチングスキルをご紹介したあとで、「コーチングスキルを職場で使ってみたがうまくいかない」 という相談が時々あります。そういう方々と面談させていただき、お話をお聞きすると、 “スキルだけを上手く使いこなせばいい” という姿勢を感じてしまいます。私と話をしている間でも、うなずきや相槌を交えて聞いていますが、意見を言いたくてたまらない顔をしているので聞いていないのがわかります。 「話を聞いたりほめたりしている」 という話なのに 「どうしょうもない奴がいて」 とか 「あいつはダメなんですよ」 など部下を否定する発言がでてくる。どのような関わりをされたかをお聞きしても、客観的事実に基づいて“ほめていない”ので、恐らく “おべんちゃら” のように聞こえてしまっている。確かに学んだスキルを使っているのですがどうも心がこもっていない。ご自身では気づかれていないのかもしれませんが、心のどこかで部下を 「仕事を正確にこなすロボット」 あるいは 「自分と同じ判断と行動をするクローン」 と見ておられるのではないかと思ってしまいます。
「部下は上司である自分と感じ方や考え方が違う」 とわかっているはずなのに、つい 「なぜ、そんな行動をするのだ!」 とイラだって、 「ここではこう判断して、こう行動するのが “普通” だろう!」 となってしまいます。自分が思っているように部下が行動しなかったときに 「なんで?」 と思わないように日頃から部下が何を大切にしているか、どういう判断基準をもっているかなどを理解しておくことが大切です。
そのためには普段から部下に興味・関心を示し、観察し、部下を受け入れて傾聴し、部下の話に共感する。部下の能力や強みを理解し、日頃の仕事への取り組みを労い、感謝している気持ちを伝える。これを普段から心掛けることです。
もう少し具体的に言いますと、「この部下は自分とは違うどのような価値観や考え方をするのだろうか?」と興味・関心をもって観察して、その部下の個性を受け入れる。そして部下の話をよく聞く。部下の大切にしているコト、モノ、ヒトについて理解を示し、それに関連した部下の話題に共感する。また部下が仕事上で何が得意で、どんな業務をしていることが好きなのかなどを理解して、取り組みに対して 「お疲れ様」 と労い、 「日頃頑張ってくれてありがとう」 と心から感謝する気持ちを持つことが大切です。
部下が大切にしているコト、モノ、ヒトですが、プライベートに関してもアンテナを張って知ることです。例えばペットの犬を我が子のように大事にしている部下が 「犬の様子がおかしいので、昨日深夜に救急病院に行った。胃腸の病気らしい」 という話をしたら、自分は全く犬に興味がなくても 「そうか。それは心配だね」 と“心から”心配してあげる。数日後 「その後、どう?」 と聞いてあげる。本人が心配している感情に触れることが大事です。そうやって、日頃から心を通わす関係をつくっておくと、部下に要望したり、期待したり、指示したりしても快く受けてくれるでしょう。また行動修正してほしいことをフィードバックしたり、時に必要があって叱責したりしても 「自分のことをよくわかっているこの上司が言ってくれているのだから」 と受け取るでしょう。
まず関係性をしっかり作っておくことです。これを怠っていきなり行動修正を求めるフィードバックや叱責をすると 「なんで、あなたに言われなければいけないのか?」 と思われるかもしれません。