日本のコーチングの現状<No.10> セッションでコーチは何をみているのか(1)
コーチングの代表的なスキルというと、「聴く」、「承認する」、「質問する」などがあります。これらはコミュニケーション研修などでも扱う基本的なスキルでもありますので、管理職の方々は何らかの機会に学んだ経験のある方もいらっしゃいます。ですからコーチング研修で、これらのスキルをお伝えしようとすると「あ~。知っている」 という反応があります。 「日頃、出来ていますか?」 とお聞きすると 「できているよ」 と口を揃えておっしゃいます。「じゃあ、やってみましょう」 ということでペアワークをすると確かに “おおよそ” はできています。しかし研修前に受講者の部下の方たちに実施したアンケートでは面白い結果が出ていたりします。彼らは研修の場面では出来ているのに、部下の人たちからは 「自分の上司は私の話を聞いてくれない」、「上司にほめてもらったことがない」、「質問攻めにあって苦しいことがある」 などの現状が聞こえてきます。この認識にずれがあるのはなぜでしょう?
最近このようなことがありました。コーチしているある部長さんにご自身のコミュニケーションの癖を知っていただくために 「コミュニケーション自己チェック」 をしていただきました。そのチェックでお気づきになったことは 「自分は部下の話はよく聞いているが、どうもほめ方が十分ではない」 と言うものでした。ところが部下である複数の課長さんたちにアンケートを行うと真逆の回答が返ってきました。 「うちの部長は、部下の話を全く聞いていない。しかし人をほめるのはうまい」。自分の認識と部下の受け止め方がずれています。コーチングをしていますとこういったケースによく出会います。なぜでしょう?
特に 「聴く」 ことは結構難しいことです。聞いている時間は受け身になっていることが多いので、 “聞いているつもり” になりやすいのも一因です。ましてや部下との会話の場合、話の内容や相手が考えている結論もだいたい予測がついてしまう。 「彼の言いたいことはこういうことだろう」、「彼女の相談内容は自分が担当の時に経験したことと同じだろうからこうすれば解決する」、「この忙しい時に、こいつはまたこんなことを言いにきた」など、思い込みや自分の価値観で相手を判断して話の内容を決めつけてしまって “しっかり” 聞いていない。そういう聞き方でも大きな問題にならないということを経験から学習してしまうとますますその傾向が強くなっていく。しかし “しっかり” 聞いていないことは相手にはすぐにわかってしまいます。
研修で行うワークの相手は同じ研修を受講している同僚ですし、おおよそ聴くスキルはわかっているので意識して聞く。だから内容も理解できますし相手も聞いてもらっている感を得ることが出来ます。しかし相手が部下だと甘えてしまって、 「聞いていない」 などつい従来のコミュニケーションスタイルが出てしまうということが起こるのではないでしょうか。これは 「聞く」 だけではなくコーチングスキル全般についても同じことが言えます。ですから常に自分のコミュニケーションスタイルを客観的に検証して修正していく必要があります。