1996年『ゴルフ赤トンボ事件』の真相
ゴルフ作家 夏坂健さんの話が大好きです。
単なる昔話ではなく、現代においても変わることがない魅力がゴルフにはあるということを教えられ、さらにそれぞれの話に登場するゴルファーの魅力が存分に伝わってきて、読んでいて楽しくなります。
そして失礼ながら、品格と魅力ある登場人物と自分自身を比べた時に、「まだまだ未熟だなぁ」と痛感させられます。
そんな話を一つ・・・。
「セントアンドリュースの聖人」ロバート・フィンリー卿
1903年からセントアンドリュースのキャプテンに就任したロバート・フィンリー卿は「セントアンドリュースの聖人」と呼ばれた人。自然に対する畏敬といつくしみの心なくしてゴルファーとはいえないという思想の持ち主でした。
「流れる雲、移りゆく四季折々の花と生き物たちの変わらぬ営み。壮大なる環境の中にあってゴルファーは大地の起伏と戯れ、偉大なるゲームから真の己れと対峙する機会を得て成長するのが正しい姿勢というもの。常に百歩譲るべきである」
名著『ゲームの精神』の中で、卿はこのように書いているそうです。
ラフにある「あざみのお花畑」にボールが入ったら、どうする?
ある日の午後、晩夏のラフ一面咲き乱れるスコットランドの国花シッスル(あざみ)に、フィンリー卿は陶然と見惚れていました。ラベンダーほどの華やぎはないものの、短い夏の短い期間にしか咲かない小さな花は、色彩に乏しいスコットランドの風景にとって貴重なやすらぎを与えてくれるものでした。
と、そのとき可憐な花にお構いなし、靴とクラブで花びらを蹴り散らしながらボール探しに夢中になっている一人のゴルファーがやってきました。
「あったぞ!」
叫ぶと同時に、お花畑の真ん中で早くもボールを打とうとしていました。
「ちょっと待ちたまえ!」
卿は走り寄って言いました。
「君には咲いている花が見えないのか」
「見えるとも。こいつはゴルファーにとっていまいましい限りのシッスルの花だ」
「いつから咲いていると思う?」
「そんなこと、知るものか!」
「ならば教えよう。この地にシッスルが根を下ろしたのは、ざっと1万年前。きみはいつからここに来た?」
「ええと、1時間ほど前かな」
「だったら、ここはシッスルの土地だ。きみはスコアのために、わずか1年に1か月しか咲かない貴重な花たちを殺すつもりかね?」
沈黙したゴルファーは、うなだれて思案した末に尋ねた。
「どうしたらいいと思う?」
「私なら花のために喜んで1罰打を献上、アンプレヤブル宣言をして後方にドロップするがね」
彼は、卿の言葉に従ってボールを拾い上げた。
ケチなショットのために花は殺せないと悟ったゴルファーが、こうしてまた一人増えたということです。
芝生以外は、花も雑草にしか見えていなかった私・・・
以前コースメンテナンス作業をしていた私にとって、ラフに咲くタンポポやスミレの花は除草困難な雑草としか見ることができず、話同様にいまいましい思いしか持っていませんでした。
この話を読んで、あまりにも視野が狭くなっていた自分の愚かさに気づきました。
そんな時に神戸ゴルフ倶楽部でプレーさせていただき、さらに大きなカルチャーショックを受けました。
神戸ゴルフ倶楽部は、原則として農薬を使用しないという草地管理を行っており、六甲山の持つ草地環境が今も残っています。フェアウェイ、ラフには芝生だけでなく、一面に様々な草花が繁殖しており、それらをまるごと刈り込んでいくという体でした。
今まで見てきた日本のゴルフコースのメンテナンスではありえない・・・
「これもゴルフコースなんだ・・・」
それ以来、少しコースのメンテナンスに対して気持ちが楽になりました。
芝生だけ、それも単一の品種だけを生かす不自然な環境を無理に無理を重ねて維持していくのではなく、草花をはじめ自然な環境を保全しながらコース・クオリティーを落とさないメンテナンスしていくということを目指していきたいと思うようになりました。
また、目の前のボールの行方だけを見るスコア至上主義より、自然や景観を慈しみ、そして楽しむ余裕を持ってプレーしているゴルファーの方が格好いいと思うのですが、みなさんはどう思いますか?
■参考文献
「ゴルフへの恋文」夏坂健:新潮社
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