白洲次郎さんのゴルフ・プリンシプル(原理原則)
コース内に広げて干していた洗濯物
その昔、セント・アンドルーズの町の主婦や娘さんたちは、コースを横切る小川で洗濯し、洗った衣類などをコースのフェアウェイの芝生の上に広げ、洗濯おけや石でおさえて風に吹き飛ばされないようにして干したといいます。
なにしろ北海からの強い東風が、物干し竿に干した物を吹き飛ばしてしまうので、いつの間にかリンクスコースの芝生の上にさらすようになったのです。
洗濯物が数多く干される晴天の日は、当然コースでは大勢のゴルファーで賑わっているわけで、飛んできたボールがしばしば干しているシーツや衣類の上に止まったり、下にもぐりこんだそうです。
洗濯おけや洗濯物に止まったボールに救済なし
困ったのはゴルファーたち。
1744年の最古のゴルフ規則が制定されてから10年、ほぼ同じ内容で1754年にセント・アンドルーズでも最初のゴルフ規則13カ条が定められました。
※最古のゴルフ規則のコラムはこちら
しかし、規則のどこを見ても洗濯物からの救済措置はありません。
ボールをプレーするために、石や骨または高価なクラブに損傷を与えるものを取り除くことは第4条で認められてはいますが、取り除くことができるのは自然物であって、洗濯おけや洗濯物は該当しないものとされました。
また、当然ながら第5条のハザードや第13条の排水溝、水路、子供が作った遊び用のトンネルや穴、兵隊のざんごうなどにもあてはまりません。
こんにちのような意味での障害物の概念が成立していませんでした。
ですから、事実、18世紀後半から19世紀中頃にかけてセント・アンドルーズのゴルファーは「あるがままの原則」に従って、洗濯おけに接触したボールや、洗濯物の上に乗ったり、下にもぐりこんだ球は、そのままプレーしていたのです。
そうなると洗濯おけは傷つけられるし、洗濯物は汚されたり、破られたりするので、当然のことながら主婦たちの怒りを買うようになりました。
洗濯おけや洗濯物から救済のために1回目のルール改正
そこで、1842年に、そのボールを動かすことなく、洗濯おけや衣類を取り除くことを許す規則が作られました。
しかし、この規則での問題は、「洗濯物の上にボールが乗っている」時です。
そのボールの位置を変えることなく、下のシーツや衣類を取り去ることは至難の業。ゴルファーは、この練習にかなりの時間を割いたそうです。
もしも、そのまま打って、シーツや衣類を汚したり破ってしまうと主婦たちからの怒号や罵声を浴びることは明白。
とにかく、この技術をマスターしないことには、ゴルフを楽しむことができないのだから、ゴルファーは真剣でした。
便宜的に規則を朝令暮改のごとく、変えていく今のゴルフとは違い、当時のゴルファーはくそ真面目にルールを守っていたのです。
それもなんと16年間もの間・・・。
そして2回目のルール改正
とうとう1858年になって、ボールを動かすことなく、下のシーツや衣類を引き出すことをあきらめて、ボールを拾い上げて洗濯物のすぐ近くの芝生の上へ無罰でドロップすることを認める規則が作られました。
衣類などの洗濯物を今でいう「動かせない障害物」としたわけです。
R&Aの規則では、その後何十年も忘れることなく、ご近所の主婦の皆様のため、洗濯物を保護するルールを取り入れ続けたということです。
改正1842年R&Aルール第4条
4. Lifting of Break-clubs, &c.
…When a ball lies on clothes or within a club-length of a washing tub, the clothes may be drawn from under the ball, and the tub may be removed.
改正1858年R&Aルール第4条
4. Lifting of Break-clubs, &c.
…When a ball lies within a club-length of a washing tub, the tub may be removed; and when on clothes, the ball may be lifted and dropped behind them.
◆参考文献
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