“セイウチ髭”プロのひざまずきショットで、賞金37,333.33ドルから一転、競技失格に!

谷光高

谷光高

テーマ:ゴルフの歴史やエピソード

「今からでも遅くないゴルフマナー&ルール」というFacebookページで、ゴルフのエチケットマナーやルールの具体事例を毎日ひとつずつ更新しています。
ゴルフ規則や市販のルールブック、そしてJGA(日本ゴルフ協会)が発行している事例集のゴルフ規則裁定集などを参考に記事を載せています。

ゴルフ規則裁定集は、「こんなこと本当にあるの?」というぐらいに様々なケースを数多く掲載しています。
その中で、ページの更新当初からなぜか印象に残った事例があります。

「タオルを敷いて、その上に膝を乗せて打つ」とルール違反

規則13(球はあるがままの状態でプレー)-3(スタンスの場所
「タオルを敷いて、その上に膝を乗せてストロークを行う」というケース。
タオルを敷いてひざまずき
プレーヤーのボールが木の下にもぐりこみ、ひざまずいて打つしか方法がないようなとき、地面が湿っていたので、ズボンが濡れて汚れないように、タオルを敷いてその上にひざまずいて打ったというケース。

この場合、プレーヤーはスタンスの場所を作ったことに対して規則13-3に基づき、スタンスの場所を改善したとして2打の罰を受けることになります。

「よくこんなケースに気が付いたなあ」と思っていました。
「そんな奴はおらんやろ」と思いながら、でも「確かに地面が濡れていたらタオルをしきたくなるよなあ」と思い、おもしろいケースとしてFacebookページでも何度か紹介したほどです。

しかし、実際にそんな人はいらっしゃいました!
しかも、世界的に有名なトッププロです。

“セイウチ髭”クレイグ・スタドラーのひざまずきショット

仕出かしてしまったのは、 “癇癪もちのセイウチ”と呼ばれていたクレイグ・スタドラー。
チャームポイントの髭で、日本でも“アメリカの勝新”と親しまれていました。

スタドラーはサンディエゴ出身。1973年に全米アマを制覇。1976年プロに転向後、PGAツアーで通算13勝を挙げ、メジャー大会では1982年の「マスターズ・トーナメント」で優勝しました。日本のゴルフツアーでは1987年の「ダンロップフェニックストーナメント」でも優勝した実績があります。現在でも米国のチャンピオンズツアーで活躍しています。

そんなスタドラーが仕出かしてしまったのは、1987年2月のトーリー・パインズ・ゴルフコースで開催されたアンディ・ウィリアムス・クラシックでのこと。3日目14番ホール(398ヤード・パー4)で、首位争いをしていたクレイグ・スタドラーの打ったボールは、大きくスライスして松の木の根元にもぐりこんでしまいました。

プレ-を続行するにはひざまずいてショットをしなければなりません。

「ライはベアグラウンドに近い状態で、おまけに湿っていた。あのとき私は明るい色のズボンを履いていたから、泥で汚したくなかったんだ。そこで、ふと思いついたんだよ」
セイウチ髭のひざまずき
スタドラーは地面にタオルを敷いて、その上にひざまずき、水平にクラブを振ってボールを打つと、ボールはフェアウェイに落ち、ギャラリーからは「グッドショット!」の声が飛び交いました。

ひざまずきショットで、ルール違反の結末は!

この模様の一部始終が、テレビカメラに収められていました。
翌最終日、テレビ中継の放送開始早々、優勝争いをしているスタドラーの「昨日までのハイライト」の一場面で、例のシーンが流されました。

すると、たちまち視聴者から「故意にスタンスを改善するのは、規則13-3に違反するのではないか!」とトーナメント本部へ抗議の電話が殺到!

競技委員がテレビ中継センターへ飛んでいき、問題のシーンをビデオでチェックすると、スタドラーが規則13-3に違反していたことが明白となりました。

そんなこととは露知らず、スタドラーは最終日のプレーを終えてスコアカードを提出し、2位という好成績で高額の賞金がもらえることに気を良くしながら表彰式を待っているところへ、競技委員が悪い知らせを持ってきました。

「なんだって?タオルを敷いただけで2ペナを課すというのか?」
スタドラーはセイウチ髭をピクピク震わせながら競技委員を睨み返しました。

すると競技委員は追い打ちをかけるように
「君がタオルを敷いて打ったのは昨日のことだね。しかし、君は2ペナルティーを申告しなかった。すなわちスコアの過少申告をしたことになるため、規則6-6d(スコアの誤記)により、昨日の時点で競技失格となる」

スタドラーは、しばし茫然。
優勝したジョージ・バーンズに次いで2位タイ、賞金37,333ドルと33セントが、全部消し飛んでしまいました。

「解釈の違いによるんじゃないかね。ルールブックには確かに“足元”に関する規則が記されているが、私はタオルを足で踏んづけたわけじゃない。たんにズボンが汚れないように膝の下に敷いただけだよ。同伴競技者も何も言わなかったし、ギャラリーも誰も忠告してくれなかった。不運だったんだよ。そういやここ1、2年、新しいルールブックを読んでいなかったな。そのうちじっくり読んでみるさ」

ちなみに、冒頭に書いた裁定集に明記された「タオルを敷いて、その上に膝を乗せてストロークを行う」という事例は、この事件のひと月前、1987年1月に発行されたばかりの「ゴルフ規則裁定集」の中に初めて収録されていました。現在の裁定集を見てください。「1987年追加」の文字がちゃんとあります。
とんでもない偶然ですね。
セイウチ髭の切り倒し
それから8年後の1995年8月、問題となったこの木は切り倒されました。
、トーリー・パインズ・ゴルフコースは、この切り倒しイベントにスタドラーを招待したということです。

■参考文献
「ゴルフ規則裁定集」財団法人日本ゴルフ協会
「マイク青木のゴルフルール事件簿」マイク青木著:日経ビジネス文庫
「生きがいはゴルフだけ」ブルース・ナッシュ&アラン・ズーロ著、山崎雄介訳:二見書房
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谷光高
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谷光高(ゴルフ場経営者)

新有馬開発株式会社(有馬カンツリー倶楽部)

一部の人が楽しむゴルフから、誰もが気軽に楽しめるゴルフへ。日本のゴルフ文化を変えるため、ゴルフ初心者へのサポートや子どもたちへのレッスン、学校の授業などを行い、初心者にゴルフを楽しむ機会を提供している

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