なぜ沖縄の土地は売りに出ているのに売れないのか

※本稿は、当社が実際に取り扱っている事例をもとにしています。個別取引に関する情報に配慮し、オーナーに関する情報や具体的な賃料、売買価格などは伏せ、一部の数値については概数や比率を用いて記載しています。
【表面利回り5%の物件を見ながら考えました】
現在、沖縄県内にある一戸建ての売却相談を受けています。この物件には米軍関係者が入居しており、いわゆるオーナーチェンジ物件として販売していますので、購入した方は所有権を取得すると同時に、現在の賃貸借契約も引き継ぐことになります。
現在の賃料は、沖縄の一般的な居住用賃貸と比較するとかなり高い水準です。私の感覚では、同じような広さや築年数の一般住宅と比べれば2倍程度の賃料が取れていますので、家賃だけを見れば収益性の高い物件に見えると思います。
ところが、現在の売出価格に対する表面利回りを計算すると約5%です。不動産投資をしている方であれば、この数字を見た瞬間に「それほど魅力的ではない」と感じるかもしれませんし、実際に現在のところ大きな反響があるわけではありません。
ただ、この物件を見ながら私が少し気になったのは、本当に現在の家賃と表面利回りだけで、この不動産の価値を判断してよいのだろうかということでした。
【沖縄には米軍関係者向け賃貸という独特の市場があります】
沖縄県外の方にはあまり馴染みがないかもしれませんが、沖縄には米軍人や軍属などを対象とした米軍関係者向け賃貸という独特の市場があります。基地周辺を中心に形成されている賃貸市場で、一般的な日本人向け住宅とは求められる広さや間取り、設備などが異なり、条件が合えば一般の居住用賃貸より高い家賃が成立することがあります。
今回の物件も現在は米軍関係者へ賃貸していますので、一般的な沖縄の居住用賃貸として見ればかなり高い家賃が取れています。ただ、以前から米軍関係者向け住宅を見てきた私の相場感では、この建物の状態や広さなどを考えると、現在の賃料が特別高いという印象でもありません。
一方で、米軍関係者向け賃貸には独特の市場がありますので、一般的な賃貸住宅とまったく同じ感覚で考えることもできません。エリアによる需要の違いがありますし、米軍側の住宅事情などによっても影響を受けますので、「現在高い家賃で入居しているから、この先も同じ条件で安定して貸せる」と単純に考えるのも違うと思っています。
そう考えると、現在の入居者がいることだけを安心材料にするのではなく、その入居者が退去した後、この建物をどう使えるのかまで見ておく必要があります。
【退去したら価値が下がるのか、それとも選択肢が増えるのか】
一般的な収益物件では、入居者がいる状態は家賃収入が発生しているため安心材料になり、反対に退去は空室リスクとして捉えられます。もちろん、その考え方自体は間違っていません。
ただ、今回の物件については、私はむしろ退去した後の方が選択肢は増えるのではないかと見ています。
現在は米軍関係者へ賃貸していますので、購入した方が自分で住むことはできません。しかし退去すれば、沖縄へ移住して自宅として使うこともできますし、将来の移住を考えながら二拠点居住の拠点として持つこともできます。再び米軍関係者へ貸すこともできますし、宿泊事業を始めたい事業者へ貸すという方法もあります。
そして、私自身がこの物件を購入するのであれば、最も検討したいのは宿泊事業です。
理由は、この建物の広さや間取り、物件スペックが宿泊施設として使いやすいと感じているからです。周辺ではすでに旅館業の許可を取得して宿泊施設として運営されている物件も確認できていますし、この物件についても現時点では12名程度まで宿泊できる旅館業許可を取得できる見込みです。
もちろん、旅館業の許可を取れば自動的に収益が上がるわけではありません。家具や家電を入れ替え、宿泊者に選ばれる室内をつくり、料金を調整し、レビューを積み上げていく必要がありますので、開業した初年度から完成された収益が出るとも考えていません。
現在の想定では、初年度は6%から8%程度の収益性からスタートし、運営実績やレビューを積み上げながら宿泊単価や稼働率を改善していくことができれば、将来的には10%から12%程度まで伸ばせる可能性があると見ています。
現在の約5%という表面利回りだけを見ていると、それほど魅力的に見えなかった物件が、使い方を変えて数年先まで考えると、少し違う不動産に見えてきます。
【購入価格は、売出価格から考えるとは限りません】
ただ、ここで一つ問題があります。宿泊事業へ転換するのであれば、物件を購入するだけでは終わらないということです。
現在の家具や家電をそのまま使うのではなく、宿泊施設として改めてコーディネートするのであれば買い替えも必要になりますし、設備の整備や旅館業の許可取得にも費用がかかります。購入した後に数百万円の追加投資が必要になるのであれば、その費用まで含めて事業全体の収支を考えなければなりません。
そのため、私が買主側であれば、現在の売出価格をそのまま前提にして収支を考えるのではなく、「この物件を宿泊施設として成立させるためには総額でいくらまで投資できるのか」というところから逆算して購入価格を考えます。
ここは、実際の不動産売買の価格交渉でも大切なところだと思っています。
例えば、「売出価格から5%下げてください」「できるだけ安くしてください」という交渉では、売主側も何を基準に判断すればよいのか分かりません。それよりも、「購入後に家具や家電の入れ替えと設備の整備、旅館業取得のためにこれだけの費用を予定しているため、事業計画から考えると購入価格を○○円まで調整していただきたい」と、理由と金額を具体的に伝えた方が、売主も検討しやすくなります。
もちろん、買主の事業計画は売主には関係ないと言われれば、その通りですので、必ず価格を下げてもらえるわけではありません。ただ、なぜその金額なのかが分からない値引き交渉と、具体的な理由のある価格交渉では、売主が受ける印象は違うと思っています。
【価格をお願いするなら、ほかの条件では売主の事情も考えます】
もう一つ、私が価格交渉をするときに意識していることがあります。
価格について買主側の希望をお願いするのであれば、契約日、決済日、引渡し条件など、価格以外の部分については、できるだけ売主の事情を聞くということです。
価格は下げてほしい、契約日は自分の希望日にしてほしい、決済日も自分の都合に合わせてほしい、引渡し条件もこちらの希望を聞いてほしいとなれば、売主が「そこまでして売りたくない」と感じても不思議ではありません。
これは逆の立場になって考えると分かりやすいと思います。買主には買主の事情がありますが、売主にも売主の事情があります。
不動産売買は数字だけで決まっているように見えますが、最終的に条件を受け入れるかどうかを判断するのは人です。だからこそ、こちらが一つ大きな条件をお願いするのであれば、それ以外の部分では相手の希望を受け入れられないかを考えることも、価格交渉の一部なのだと思っています。
【まとめ】
今回の物件は、現在の米軍関係者向け賃貸という状態だけを見れば、一般的な居住用賃貸より高い家賃で貸せています。一方、売出価格に対する表面利回りは約5%ですので、その数字だけを見れば、それほど魅力を感じない投資家もいると思います。
ただ、現在の入居者が退去した後まで考えると、自宅、沖縄移住や二拠点居住、米軍関係者への再賃貸、宿泊事業者への賃貸、自ら旅館業を行うなど、選択肢は増えてきます。特に今回の物件は広さや間取り、物件スペックなどから宿泊事業との相性が良いと見ていますので、私であれば現在の家賃をそのまま維持することだけを考えるのではなく、宿泊施設として新しい収益を作る方法を検討します。
そうなると、今度は売出価格だけを見るのではなく、取得後に必要となる家具や家電、設備、旅館業取得などの費用まで含めて総投資額を考えることになり、そこから逆算すると、自分が購入できる価格も見えてきます。その価格を売主へお願いするのであれば、単なる値引きではなく理由を具体的に伝え、価格以外の条件では売主の事情も考える必要があります。
今回の物件を見ながら改めて感じたのは、不動産の価値は「現在いくらで貸せているのか」や「表面利回りが何%なのか」だけでは見えないということでした。その建物を誰が、どのように使えば価値をさらに引き出せるのか、そのためにはいくら投資できるのか、そして売主と買主の条件をどこで合わせられるのか。現在の数字だけではなく、その先の使い方まで考えてみると、同じ物件でも見え方はかなり変わってくるのだと思います。
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