地域ブランド経営
少子化や、市街地の人口のドーナツ化現象などにより廃校になる学校が増えています。学校は地域にとって特別な存在であり、その学校がなくなるということは地域にとって大きな問題です。
私たち地域科学研究所は、廃校を活用することによって地域の活性化に貢献できないかと、さまざまな試みを行っています。
廃校の現状と全国で進められる廃校活用の事例、また、私たち地域科学研究所の取り組みをご紹介します。
毎年約500校が廃校に
少子化による児童・生徒の減少、市町村の合併などで公立の小・中・高の多くが廃校になっています。まず、データを見てみましょう。文部科学省が平成30年5月1日現在の状況を取りまとめまたデータは次のようになっています。
平成14年~平成29年度に発生した廃校は7583校。毎年、約500校が廃校になっています。ちなみにその内訳は、小学校が5005校、中学校が1484校、高校が1094校です。
廃校数が最も多いのは北海道で760校。次が東京都の303校、そして、熊本県284校と続きます。私たち地域総合研究所がある大分県の廃校数は195校。全国13位になっています。
では、廃校になった学校はどうなっているのでしょう。
廃校のうち施設が現存されているのは6580校。そのうち、何らかのかたちで活用されているのは4905校(全体の74.5%)。
活用されていない廃校は1675校。このうち活用の用途が決まっているのは204校、用途未定は1295校。176校は取り壊し予定になっています。
現状では、廃校になった学校の2割以上が活用されていないということです。
ここで問題になるのは安全面と財政面です。廃校が放置され建物の弱体化が進むと、地震などの災害対策上の大きな問題になります。また、学校の敷地が不法投棄の場になるといった周辺地域のセキュリティー問題も考えられます。
そして、自治体が建物の修繕などを行う場合、学校の規模によっては年間約300万円の維持管理費がかかる場合もあります。
「みんなの廃校」プロジェクト
廃校施設の活用用途を見みると、「学校(大学を除く)」「社会体育施設(体育館、水泳プール、運動場など)」「社会教育施設(公民館、図書館、青少年教育施設、生涯学習施設など)」が多く、民間事業者などによる民間用途の活用は少ないのが現状です。
そこで、文部化科学省は「~未来につなごう~「みんなの廃校」プロジェクト」を立ち上げ、廃校施設の有効活用を進めています。
「民間企業・学校法人・NPO法人・社会福祉法人・医療法人などに情報を提供することで、廃校施設等の情報と活用ニーズのマッチングの一助になるように」ということで、ホームページで「廃校施設等の情報を公開」しています。
廃校の活用は民間事業者にとって次のようなメリットがあります。
①既存物件を使用できるため、初期費用を安く抑えることができる。
②「廃校利用」という話題性があるため、高い宣伝効果を期待することができる。
③学校は地域の人にとって愛着ある施設であるため、その施設を使うことで地域とつながりが深くなる。
④学校にはグラウンドや体育館、教室の間仕切りなど使い勝手の良い空間がある。
では、文部化科学省が紹介している廃校の活用事例をいくつか見てみましょう。いずれも廃校活用のメリットを生かした事例です。
全国の事例
【1:手作りみそ工場】
静岡県伊豆市の小学校(旧大東小学校)の事例です。この小学校は手作りみそ工場として活用されています。
食品の場合、材料置場、製造場所、製品保管庫などさまざまなスペースを必要とします。学校は教室ごとに間仕切りで区切られているため、それをうまく利用することで、大規模な改修を行う必要がなく、初期費用を抑えることができます。
製品・資材の搬出・搬入にもグラウンドが広く問題がありません。
【2:縫製工場として】
岩手県普代村の縫製工場も小学校(旧堀内小学校)の広いスペースに着目した例です。
縫製のためのミシンや裁断機など大型機械を設置できるため、縫製スペースとして校舎を使い、裁断スペースとして体育館を利用しています。
もともと村内あった2つの縫製工場を統合する場所として廃校の活用が検討され、雇用創出、生産性の向上など自治体・企業双方にとってメリットのある活用になりました。
【3:IT企業のオフィス】
島根県浜田市の事例です。廃校になった小学校(旧後野小学校)は公民館として使われていましたが、支社として使えるオフィスを探していた1T企業との検討が始まり、地域住民の理解も得られ、現在はオフィスとして活用されています。
企業側としては、廃校を活用しているということでメディアに取り上げられることも多く、企業名を覚えてもらえるなどのメリットがあります。IT企業の業務は場所を問わないため、山間部でも光回線が利用可能であればオフィスとして使うことができます。
【4:宿泊施設として】
岐阜県中津川市の小学校(旧神坂小学校)は、社会教育施設として活用していましたが、リニューアルし複合合宿施設として活用することになりました。
中山道・馬籠宿への外国人観光客、また、スポーツ合宿などによる集客が見込めると判断したからです。教室を宿泊施設とし、体育館はスポーツ合宿に使えるようにしました。
学校の雰囲気がそのまま残っている点が好評で、民間事業者のノウハウを生かした運営が実施されています。
【5:シェアオフィスとして】
高知県土佐町の小学校(相川小学校)は、学校の1階は地元住民の交流の場・緊急時避難場所とし、2階は光インターネットを配備したシェアオフィスとして利用できるようにしました。
都会のシェアオフィスと違い、ゆったりとした区画で仕事ができる点が売りの一つになっています。
管理しているのはNPO法人です。創業希望者やSOHO事業者などにシェアオフィスへの入居をすすめ、町における雇用創出や移住の促進、交流人口の拡大などにつなげようとしています。
【6:小学校が水族館に】
高知県室戸市の小学校(旧椎名小学校)は、「むろと廃校水族館」となり、ユニークな廃校活用として話題になりました。
開館から約半年で10万人を突破するなど、出足は好調です。水族館の目玉は25mの屋外大水槽で、地元の定置網にかかったウミガメやシュモクザメを間近に見ることができます。
人手不足に悩む地元の漁業組合も「漁業への興味がわくことにつながれば」と期待しています。
成功事例の共通点は地域の合意を得ていること
廃校の活用事例はこの他にも全国でさまざまなアプローチがあります。また、ケースごとに成功に至るまでの過程も違います。ただ、成功事例に共通していることは、いずれも地域のコンセンサスを得ているということです。
学校という施設は地域にとって特別な存在です。それだけに活用に際しては地域住民の合意形成が必要不可欠です。行政、地域住民、廃校を活用したい民間事業者による十分な話し合いが大切で、地域の合意が得られなければ成功は見込めません。
実際、廃校活用の成功事例では、幅広い意見を聞きながら合意を形成していますし、民間事業者も事業を始めるに際し内覧会を開いたり、定期的に地域交流会を開くなど、地域とのつながりを大切にしています。
地域科学研究所の事例1「サテライトオフィス」
私たち地域科学研究所は、さまざまな自治体の公共施設のマネジメント支援やシステム開発を行ってきました。廃校についても自治体個別の状況に合った活用方法をご提案してきました。
そうしたなか、自ら廃校の活用に取り組むことも大切ではないかと考え、大分県由布市の廃校になった小学校(旧朴木(ほおのき)小学校)を借りてみることにしました。
当社の入社式や新入社員研修・社内研修、年4回の全社会議もこの小学校で行い、当社のサテライトオフィスとして利用してきました。
もっと活用の幅を広げられないかと検討するなかで「地域の耕作放棄地を借りて、無農薬野菜を家庭向けに提供する農業法人を立ち上げる」という案が浮かび上がりました。
そこで2013年に当社が出資し、廃校を拠点とする農業法人「ほおのき畑」を立ち上げました。
まず耕作放棄地であった畑を、野菜を育てられる畑に再生しなければなりません。再生には1年をかけて取り組みました。
現在「ほおのき畑」は、無農薬野菜を家庭やカフェ、レストランなどに提供しています。野菜の出荷には広い出荷スペースが必要なので、廃校の校庭を野菜の出荷場として活用したり、校舎で子どものいるお母さんたちを対象に野菜を使った料理教室を開催したり、農業体験なども行っています。
この経験で私たちが学んだことは、「実際に公共施設を使ってみることで、地域やコミュニティーのことがよくわかる」ということです。
「ほおのき畑」では校庭に物販スペースを作り、地域の人に出店してもらう「ほおのきフェスティバル」という催しも開いています。
こうした活動一つひとつの積み重ねが、いつか地域の観光協会や自治会に波及効果を及ぼし、地域の活性化へつながることが実感できました。
地域科学研究所の事例2「幼稚園がパン屋さんに」
私たち地域科学研究所には「Public+(パブリックプラス)」というプロジェクトチームがあります。
民間の目線から地域の遊休施設や公共空間に新たな価値を+(プラス)していくことを目指し、「Public+(パブリックプラス)」というサイトも運営しています。
「ほおのき畑」のイベントに参加いただいた「国産小麦の天然酵母」のパン屋さん「HIBINO」代表の杉田さんとの出会いから、新しいプロジェクトがスタートしました。「私もこんな環境で、パン作りをしたい!」という杉田さんの言葉からです。
そこで、大分県豊後高田市で廃園になった幼稚園(旧都甲幼稚園)をご紹介しました。豊後高田市でも、この幼稚園をどうするか検討中だったのです。田園地帯にある小さな幼稚園は、広さも環境も杉田さんの希望にマッチするものでした。
私たち「Public+(パブリックプラス)」が豊後高田市と杉田さんの思いをつなぐことで、廃園になっていた幼稚園はパン屋さんに生まれ変わることになりました。
パン工房としてのリノベーションを施し、杉田さんは別府にあった店を閉め、豊後高田市に移住されました。「HIBINO」では、お店の近くにある小麦畑でとれた小麦を使ったパンやピザづくりを始めています。
住民の方や役所の方々の協力もあり、新たにパートを雇用することもできました。廃園になった幼稚園が、この地域の拠点の一つとなろうとしています。
地域科学研究所の事例3「校長室をオフィスに」
地域科学研究所は、西日本を中心に8つの拠点があります。その一つ和歌山事務所は、和歌山県日高郡由良町にあります。由良町の白崎海岸は、青い海と白い岩のコントラストが美しい海岸として有名です。
由良町にある中学校(旧白崎中学校)は2009年に廃校となりました。その校舎の元校長室を、当社和歌山オフィスとして活用しています。
当社のようなシステム開発などを手がける会社にとっては、ネット環境さえあれば十分に活用できると判断したからです。
同じ校舎の保健室や職員室の一部には他の民間事業者が入居しています。廃校になった中学校は、校舎の面影はそのままに、民間企業のサテライトオフィスとして活用されています。
学校という施設の活用の幅は広く、私たちは校舎内にある元コンピューター教室を使って自治体職員向けの研修会も開催しています。
空調やスクリーンなどの設備が整っており、元コンピューター室は研修会開催にはぴったりです。
今後も定期的な研修会を検討していますし、地域の方と一緒に学び集う場としてさらに活用していきたいと考えています。
私たち地域科学研究所は、豊かで活力ある地域社会作りに貢献することに全力で取り組んでいます。
廃校の活用による地域の活性化もその一つであり、廃校を活用したい自治体と廃校を使ってビジネスを展開したいと考える民間事業者を、私たち自身の体験と蓄積したテクノロジーでつなぎたいと考えています。