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まちづくりや農業におけるGISの活用

西田稔彦

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テーマ:地域科学研究所 事業案内

GIS(Geographic Information System)は、さまざまな領域で活用されています。都市計画はもちろん、農業の活性化、地域連携など多様な課題にこたえるシステムです。

しかし、その一方、GISをどのように活用するか、活用のためには何が必要になるかについても考える必要があります。GIS活用の現状、また、私たち地域科学研究所がシステム構築にあたってなにを重視しているか、事例を紹介しながらお話ししましょう。

GISの活用

GIS(Geographic Information System)は「地理情報システム」と訳されます。

国土地理院の説明には、「地理的位置を手がかりに、位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工し、視覚的に表示し、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術」とあります。
一般的にはGISといえば「Googleマップやカーナビのこと」ということになりますが、GISの活用領域は広範囲です。

例えば、物流業界。
UPS(ユナイテッド・パーセル・サービス)は、世界220カ国で事業展開する小口貨物輸送会社です。配送する荷物は1日1900万個。配送ルートは大きな課題です。渋滞は避けたいですし、荷物は多種多様。同じ通りにある配送先であっても、指定された配達時間が異なるものもあります。USPは、GISを活用して最適な配送ルートを導き出すことで、年間4億ドルのコスト削減に成功しました。

小売業界の出店に際してもGISが利用されています。
例えば「〇〇市に出店したい。購買ターゲットは50代以上の女性」という条件であれば、〇〇市の地図上に国勢調査のデータ等を重ね合わせて女性比率の高い地域を抽出。さらに地域の消費者の購買行動、競合店情報などとも重ね合わせ出店地域を絞り込みます。
また、地域の消費者の属性や購買行動を分析し、店舗ごとに最適な品ぞろえにすることにGISを活用している企業もあります。

GISは広告業界においても活用されています。
折り込み広告(新聞折り込み)やポスティングは、地域への広告として効果があります。GISを使い、地図上に地域の人口、男女比率、世帯数、持ち家・共同住宅世帯などのデータを重ね合わせることで、ターゲット層の分布比率を視覚的に把握することができ、より効率的な配布を行います。

各自治体が公表しているハザードマップも、GIS活用の代表的な例です。
電気・ガス・上下水道などのライフラインの管理、公共施設の整備計画などにもGISが使われています。各自治体の大切な財源である固定資産税についても、課税対象となる土地(筆)の画地計測などさまざまな面でGISが活用されています。

「個別GIS」と「統合型GIS」

GISには、個々の業務に特化した「個別GIS」と、データを一元的に管理する「統合型GIS」の2つのタイプがあります。

地方自治体のGISは、「統合型GIS」を「全庁型GIS」と呼びます。各部門の個別の情報を全部門で共有するシステムです。
総務省の「地方自治情報管理概要(平成30年)」によれば、「統合型GISをすでに導入している団体は、都道府県では23団体(48.9%)、市区町村では993団体(57.0%)」となっています。

全庁型GISの利用業務を見ると、都道府県の場合は、
「消防防災、環境、農林政、教育、都市計画、道路、商工・観光、河川、医療・福祉…」の順に並びます。
市区町村の場合は、
「道路、固定資産税、消防防災、農林政、都市計画、地籍、下水道、管財、上下水道、建築、医療・福祉…」となっています。

「全庁型GIS」を導入している都道府県、市区町村ともにGIS活用の重要なポイントとして「部局を越えた政策判断」への活用を挙げています。行政にはさまざまな部門があり、各部門が密接に関わっています。自治体のGISは、やはり「全庁型GIS」が理想的でしょう。

農業とGISの活用について─その1─

農業におけるGISの活用について見てみましょう。農業というと地方がイメージされますが、実は都市部においても農地は重要です。

2018年9月1日に都市農地貸借法が制定され、市街化区域内の農地のうち、生産緑地の貸借がスムーズに行えるようになりました。これがどういう効果を発揮するかといえば、農地が持つさまざまな機能の有効活用です。

農地には、農作物を耕作し都市部に野菜などを供給するほかにも有用な機能があります。例えば防災空間としての機能があります。また農地が持つ緑地空間は、自然が少ない都市部の環境面においても大きく貢献します。

農業従事者の減少・高齢化が進むなか、農地が持つさまざまな機能を有効活用することは、都市農業の健全な発展と都市部の人々の暮らしにもプラスになります。

この新しい仕組みを円滑に進めるためには、正確な農地情報の提供が不可欠です。そして、その情報の整備・分析にはGISが必要になります。農地の所有者、貸借の希望、地番、面積などを地図データに重ね合わせ表示します。

農業とGISの活用について─その2─

農家の経営環境は年々厳しさを増しています。こうしたなか、全国的に「集落営農」への取り組みが進んでいます。「集落営農」とは、「集落を単位として、農業生産過程の全部または一部について共同で取り組む組織(農林水産省)」です。

集落営農には、広範囲の圃場(ほじょう)管理が重要になりますが、管理のためには現状の把握が欠かせません。その際、求められるのがGISです。
地図データに経営者、所有者、貸借の希望、地番、面積、土壌情報、品種、食味等の品質、栽培履歴などを重ね合わせ、マップ化(見える化)を図ります。

GISを活用することで圃場の状態がひと目でわかり、人員、時間、コストの軽減、施肥管理、販売など営農計画全般の立案を効率的に行うことができます。
集落営農で農業機械や施設を共同利用する場合、その計画も立案しなければなりませんし、オペレーターによる作業受託という課題も出てきます。こうした計画立案、集落の合意にもGISは有効です。

しかしGISの活用にあたっては、地域の農業支援の拠点である営農センター、各自治体、農家との連携が必要であり、地域の農業活性化への一体的な体制があって初めて、有効に活用することができます。

まちづくりとGIS─富山市の事例─

GISは「まちづくり」にも活用されています。電気・ガス・上下水道などのライフラインの管理など都市計画に関するものはもちろんですが、市民の連携を図るという面でも活用されています。

自治体の中で利用が広がっているGISですが、富山市の事例を見てみましょう。
富山市では郊外拡散型まちづくりをすすめ、その結果、多くの市民が市の中心部を離れ、郊外へ移り住む傾向が強くなりました。しかし、ここで課題が浮上します。

富山市は自動車交通への依存度が高く、一世帯あたりの車の保有台数は2台、通勤者の約84%がマイカー通勤です。そのため、路線バスなど公共交通の利用者は徐々に減少していきました。
しかし、高齢化が進む現在、市民の移動がマイカーに限られ、しかも高齢のため車の運転がままならないということでは、街が「市民にとって暮らしにくい街」になる可能性があります。

そこで富山市は、郊外拡散型まちづくりに歯止めをかけ、拠点集中型の「コンパクトなまちづくり」に取り組むことにしたのです。

その際、重視したのが公共交通です。公共交通の沿線に居住・商業・文化など、都市の諸機能を集め、公共交通を軸とした拠点集中型のコンパクトなまちづくりを目指しました。
具体的には、公共交通を活性化させ、駅や停留所の徒歩圏(500m程度の範囲)に居住と市民生活に必要な機能を集約させました。

富山市の公共交通を軸に据えた「コンパクトなまちづくり」は、その戦略的、具体的な施策が評価され、「環境未来都市」にも選ばれました。

そして、その立案に欠かせなかったのがGISです。人口の属性ごとの分布に時間帯別交通量などの交通情報を加え、バスの走行ルートを改善するなどの施策がとられました。GISによる現状把握とシミュレーション技術がなければ、富山市の構想を実現することは困難なものになったでしょう。

地域科学研究所におけるGISへの取り組み

私たち地域科学研究所は、GISによる地域の活性化に取り組んできました。そのなかで痛感するのは、一口に地域と言っても同じ環境はない、ということです。
統計的なデータはもちろん重要です。そして、そのデータから課題を抽出することもできますが、個々の課題の軽重は地域によって異なります。

私たちはGIS構築に際し、まず各自治体担当の方のお話をお伺いします。そして、さらに現場へ足を運びます。現場で感じ、考えることが、地域の暮らしに直結するシステムを構築するうえで欠かせないことだからです。こういったコミュニケーションをもとに課題を一つひとつ解決し、使いやすいシステムを構築しています。

また、私たちはシステムの導入だけではなく、運用についてのサポートも大切にしています。手厚いサポート体制があるということも、私たちがご提供するシステムの大きな特徴です。

地域の連携という側面から

GISの活用には、農業の活性化や都市計画の立案など、地域とそこに暮らす人たちを対象とした案件があるほか、地域の人々の連携を深めることを目的とした案件もあります。その一つの例として、神戸市の取り組みを挙げることができます。

神戸市の市民協働課は、地域の魅力や課題を整理し、地域の将来などについて話し合う際に活用することを目的に、GISにより、人口、世帯数、高齢化率などについて小学校区ごとにまとめた「地域の基礎データ」を作成しました。

この「地域の基礎データ」はインターネットで公開され、データをどのように活用するかについても紹介されています。具体的には、マンション管理組合との交流による災害時の協力体制の構築、子どもも参加できるイベントの検討などです。

また、各地域の自治会の会長に参集してもらい、GISによる地域の基礎データの活用方法を紹介するなど、GISを活用した地域の連携に取り組んでいます。

子どもたちと作る「安全マップ」

私たち地域科学研究所は「豊かで活力ある地域社会づくり」へ貢献することを経営理念にしています。「まちづくりGIS(地理情報システム)担当者会議」の開催もその一つです。こうした取り組みの一方、子どもたちと一緒に地域の「安全マップ」を作るという活動も行っています。

GISを身近に感じてほしい、興味を持ってほしいという思いから取り組んだ活動です。私たちが構築したGIS現地調査端末を子どもたちに持ってもらい、一緒に通学路や周辺地域を歩いてみました。
すると、子どもたちは自分たちの通学路に「側溝のふたがない」「ガードレールがない」といったことを発見したり、普段は車でしか通らない保護者も「こんな場所があったのか」と気づいたり、地域に対するさまざまな発見がありました。最後は、通学路のグループごとに地図をまとめて発表もしてもらいました。
この企画を通して、子どもたちはGISを体感的に理解する機会、そして自分たちの地域について深く知るきっかけを得ることができたと思います。

こういったことからも、地域をよりよく知るということは「まちづくり」や地域の活性化の原点と言えるのではないでしょうか。

コミュニケーションを大切に

地域の課題を解決するためには、問題点についてヒアリングを重ね、理解を深めるなど現場を知ることが大切で、現場ではコミュニケーションが欠かせません。

システムは人から作られるものです。そのため、私たちは人と人をつなぐコミュニケーションを大切にしています。それは、ともに働く仲間とのコミュニケーションについても同じです。

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西田稔彦
専門家

西田稔彦(まちづくり AI、ICT開発)

株式会社 地域科学研究所

地域に眠っている公共不動産の活用のため、民間企業や個人をマッチングさせたり、新しい切り口での新たな事業を考えるなどして、潜在ニーズを掘り起こして、「無」から「有」の価値を生み出します。

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