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【著作権】工業製品と著作権

拾井央雄

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テーマ:中小企業の攻め方・守り方

著作権
著作権法2条1項1号に「著作物」の定義があり、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」とされています。

工業製品の中にはデザインに美的な特徴を持つものがありますが、これが「美術の範囲」に属すれば美術の著作物となり、著作権が生じることになります。

同条2項では、「『美術の著作物』には、美術工芸品を含むものとする。」とされています。
では、美術工芸品と言えない量産実用品の場合はどうなのでしょうか。

同法10条1項4号に、「絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物」と例示がされていることからして、「絵画、版画、彫刻」と並ぶような物でなければ著作物にあたらないと考えるべきなのでしょうか。

著作物にあたれば意匠登録の必要はないのでしょうか。

質問

当社は家具の製造・販売を行っています。
小さな会社ですが、特徴的なデザインの椅子はお客様から好評をいただき、販売から5年を経た今もロングセラーとなっています。
ところが、最近、この椅子とそっくりな椅子を他社が販売しています。
意匠登録をしていないので、販売をやめさせることはできないのでしょうか。

回答

意匠登録をしていなくても、形態を模倣した商品については、不正競争防止法によって販売を差止められる場合があります。
しかし、国内で販売を開始してから3年以上を経過していると、残念ながら適用対象外となります。

意匠登録がなく、不正競争防止法も使えないということですから、著作権侵害を主張できるか考えてみましょう。

著作権は著作物について発生する権利ですから、著作権を主張するためには、商品の椅子が著作物でなければなりません。
著作物にあたるとすれば、「美術の著作物」かどうかになります。

「美術の著作物」については、著作権法10条1項に「著作物の例示」がされ、4号に「絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物」とあります。
しかし、デザインが斬新だとは言え、量産品の椅子が「絵画、版画、彫刻」と並ぶような美術品とまでは言えないでしょう。

著作権法2条2項には、「美術の著作物」には美術工芸品を含むとあります。
しかし、 「美術工芸品」は鑑賞目的の工芸品を言いますから、量産品の椅子を「美術工芸品」と言うのは難しいでしょう。

例示された美術の著作物にもあたらず、美術工芸品でもないとすると、「美術の著作物」である余地はないのでしょうか。

この点を判断した裁判例として、平成27年4月14日の知財高裁判決があります。
この判決では、その物が「美術の著作物」として著作権法上の保護を受けるかどうかについて、次のような前提を置いています。

=================
「著作権法2条2項は、『美術の著作物』の例示規定にすぎず、例示に係る『美術工芸品』に該当しない応用美術であっても、同条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては、『美術の著作物』として、同法上保護されるものと解すべきである。」
=================

あくまでも「著作物性の要件」を満たすかで判断すべきだ、ということです。

「著作物性の要件」については、次のように述べています。

=================
「ある表現物が『著作物』として著作権法上の保護を受けるためには、『思想又は感情を創作的に表現したもの』であることを要し(同法2条1項1号)、『創作的に表現したもの』といえるためには、当該表現が、厳密な意味で独創性を有することまでは要しないものの、作成者の何らかの個性が発揮されたものでなければならない。表現が平凡かつありふれたものである場合、当該表現は、作成者の個性が発揮されたものとはいえず、『創作的』な表現ということはできない。」

「応用美術は、装身具等実用品自体であるもの、家具に施された彫刻等実用品と結合されたもの、染色図案等実用品の模様として利用されることを目的とするものなど様々であり、表現態様も多様であるから、応用美術に一律に適用すべきものとして、高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず、個別具体的に、作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきである。」
=================

独創性までは不要で、作者の個性が発揮されていれば著作物にあたるということです。
そして、原告の製品について、二つの特徴をあげて個性が発揮されていると認定し、著作物性を認めました。

下級審の判断にとどまりますが、この判断に従うとすれば、かなり広く著作性が認められるのではないでしょうか。

御社の椅子についても、量産品であるからとか実用品であるからという理由で著作権が発生しないと考えるのではなく、作成者の個性が発揮されているかどうか、発揮されているのはどのような点か、販売をやめてもらいたい他社製品はその部分の特徴を備えているか、という点を検討すべきということになります。

そしてこれらがYESであれば、その椅子の著作権に基づいて、他社の販売を差止められる可能性があるということになります。

そうであれば、もう意匠登録の必要はないんじゃないかとさえ考えてしまいます。
しかし、意匠登録をしておけば、著作物性を争う必要はなくなります。
あとからこのような心配をするよりも、やはり当初から意匠登録をしておかれることをお勧めいたします。

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拾井央雄
専門家

拾井央雄(弁護士)

京都北山特許法律事務所

エンジニア15年〜弁理士5年と弁護士としては異例の経歴を持ち、技術系分野に精通。知的財産や技術系法務のエキスパートとして数多くの事業者を支援。また自身が住職である立場から宗教法人のサポートも手掛ける。

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