平塚でおなじみの相続の専門家がラジオで語る ~ 相続の基礎知識 その2 相続放棄と限定承認 ~
5月も後半に入り、初夏を感じさせるような爽やかな日差しを感じる日も増えてきました。延長された「緊急事態宣言」がいつまで続くのか分からず不安が募る中、東京オリンピックの開催も懸念される日々です。そんな、5月20日(木)の昼下がりにFM湘南ナパサ『ナパサタイムス☆アフタヌーン』にコーナー出演してまいりました(新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、今月もリモート出演です)。
2011年7月以来、おかげさまでナパサのコーナーでお話をさせていただいて118回目の出演となりました。新年度スタートは、三回にわたって「相続の基礎知識」をテーマに、相続の一番の基礎、一番知っておいて欲しいことについて学んでいきたいと思います。そして第二回目の今回は「相続放棄と限定承認」についてお話してみます。まちなかステーションに寄せられた相談事例を題材に、今月もテーマに関わる出題をしますので皆さんも一緒に考えていきましょう。
次の、相続や遺言に関する設問は、正しいか間違っているかを答えてください。
【設問】
先月、父が亡くなりました。葬儀や遺品整理などに200万円ほどかかりましたが、遺産分割前の仮払い制度を利用し父の遺産から支払いました。母はすでに亡くなっており、相続人は私と弟の二人です。
ところが、今月になって父にはかなりの借金があることが分かったので、限定承認の手続きをすることでプラスの財産の限度で債務を負担したいと考えているのですがこの主張は認められる。
さて、設問の記述は正しいでしょうか?それとも間違っているでしょうか?
本問では、先月に父が亡くなり、葬儀や遺品整理にかかった費用の支払いを相続人全員が同意することにより遺産分割前の仮払い制度を利用することで被相続人の遺産から支払ったようです。
以前は、遺産分割協議が成立する前の段階では、被相続人の預貯金の払い出しを認めてもらえませんでしたが、葬儀費用や医療・介護費用など火急の支払いに困る相続人が急増したことから、2018(平成30)年の法改正によって遺産分割前の仮払い制度が認められるようになりました。
しかし、本問ではその後に相続人にかなりの借金があることが予想される事態になったため、プラスの財産の限度で債務を引き受ける限定承認の申し立てを検討しているようですが、はたしてこれは認められるでしょうか。
遺産の仮払い制度を利用して遺産の一部を引き出した以上は、当然に相続人としての地位を承認したものであり単純承認をしたものとみなされます。単純承認をした以上は、その後に相続放棄や限定承認が認めてしまうと、不測の損害を被る第三者が発生する可能性があることから、たとえ熟慮期間内の相続開始から3か月以内であっても相続放棄や限定承認が認められる可能性はほぼありません。
これを本問についてあてはめてみますと、確かに相続開始から3か月以内ではありますが、遺産分割前の仮払い制度を利用して遺産の一部を払い戻して支払いに充てていることから、単純承認をしたとみなされる可能性が高く、これから限定承認を申し立てても認められる可能性は極めて低いと考えられます。
以上より、本問は誤りと判断できるでしょう。
【相続の基礎知識 ~ 相続放棄と限定承認 ~】
遺産分割前の仮払い制度によって、葬儀費用や被相続人の入院費、介護サービスの利用料などの火急の支払いに困る事態がずいぶんと救済されるようになりました。
しかし、遺産分割前の仮払い制度を利用して遺産の一部を払い戻し手支払いに充てることで単純承認をしたとみなされることによって、それ以後に相続放棄や限定承認が出来なくなってしまう点には十分な注意が必要です。
特に、相続放棄や限定承認は期間制限や用件が厳格に定められており、これを間違えるとやり直しは出来なくなります。ご自分で判断できない場合やご不安がある場合には専門家に助言を求めることを強くお勧めします。
相続放棄をするにはどうしたらいいか教えてほしい。いますぐまちなかステーションに相談する
今回のテーマは『相相続の基礎知識 2 ~ 相続放棄と限定承認 ~』でしたが、相続法改正によってひとつ便利な手段が創設された一方で、他の制度にも大きな影響が及ぶことを改めて思い知らされました。あのときこうすればよかったと後悔をしないためにも、是非とも事前に私たち法律専門職に事前に相談していただけることを願っております。
これからも、相続まちなかステーション 代表 加藤俊光は、身近な相続・遺言に関するテーマを題材にしながら、地域の皆様に役立つ情報をご提供できるよう頑張ってまいります。最後になりましたが、山田博康さん、そしてお聴きいただいたリスナーの皆様、ありがとうございました。