親や配偶者に遺言を書いて欲しい? まずはあなたから公証役場へ!
今年も残り少なくなってきました。改めて一年を振り返ってみると本当に様々な出来事がありましたが、私自身は高齢者の日常生活支援と後見業務に明け暮れた年であるとともに、貴重な刺激や新たな気付きをたくさん頂戴した年でもあったと感じています。
そんな中でも、私に格別な気付きを与えてくださったのがおひとり暮らしの高齢女性Kさんでした。およそ2年前の春のこと、地域包括の担当者のお引き合わせでお会いしたのがきっかけでした。とても物静かであまり多くを語ってくださらない、しかしご自分でお決めになった意思は簡単には曲げない芯の強さをお持ちの方だというのが第一印象でした。
そして、私はあなたの任意後見人となり、日常生活の見守りをさせていただくことになりました。あなたは、どんなに疲れていても体調が思わしくない時でも愚痴や不満を仰ることもなく、『忙しいところ悪かったねえ、ありがとう』といつも微笑んでおられましたが、あまり積極的な支援を求めようとされないことが私にはどうしても気掛かりでした。
しかし、私はこの一年間、あなたの生き様に正面から本気で向き合ったことで、ほんのわずかとは言えあなたの心の奥底にある本心を垣間見ることができたと感じています。
おそらく、年齢を重ねながら体調もだんだんと思わしくない時間が今以上に少しずつ増えて、日常生活もだんだんと思うようにいかなくなり不便を感じるようになっていく。それでも、あなたはデイサービスへ行くことも施設などに入ることも可能な限り避けようとされることでしょう。どうして、あなたがそこまでして住み慣れたこの自宅を離れたくないのか、もちろん少し前に亡くなったご主人との思い出がたくさん詰まっているからというのも理由のひとつだとは思われますが、あなたは命ある限りどんなことがあってもこの自宅を離れたくない理由がもうひとつあることに、私はやっと気付きました。プライバシーを守るためここでは詳しく書くことはできませんが、あのとき仰ったあのひと言で、私はおそらく違いないと確信できました。
人生の残り時間が少なくなった方を支援していく以上は、職種や立場に関わらず常に自分の人生に対しても真剣でなければならない。自分の人生に真剣でない人間が他人の人生の意思決定支援に関わったとしても、それは魂が抜けた表層的な援助にとどまる。なぜ自分がこの道を選んだのかを常に思い出しながら、多様性を把握し、許容し、支え切る覚悟と能力を持ち続けなければならないことを教えられました。
これからも私は、この地域に暮らす高齢者の『多様性を把握し、許容し、支えきる覚悟と能力』を持った法律専門職として、住み慣れた地域で最期まで安心して過ごしたいと願う高齢者の隣を一緒に歩き続けていきます。