備えるためには自分から向き合うしかありません ~ だってあなた自身の人生なのだから ~
そろそろ正面から終末期に向かい合わなければならない段階となっている。周囲の人だけでなく、ご自分でもそう認めざるを得ない極めて厳しい状況にある50歳代の女性と出会いました。
平塚だけでなく、もっと周辺の在宅医療の現状も見たい。私のそんな思いから、茅ヶ崎・藤沢で在宅医療にかかわる専門職の事例検討会に何度か参加させていただくようになったとある日の夕方のこと、在宅医療専門医から『私の患者さんが終末期を迎えるにあたって、とても迷い苦しんでおられるので何とか力になってあげてもらえないでしょうか』と相談され、お引き合わせいただいたのがきっかけでした。そんな彼女はまだ50歳代、これまで果敢に幾多の積極的治療を試みたものの残念ながら効を奏することはなく、最近になって緩和ケアに比重を置くことを了承されたようで、すでに在宅医とは揺るぎない信頼関係を築き、今後起こりうるすべてを理解し受け入れているかのように感じられたのが印象的でした。
しかし、そんな彼女の心の奥底には一抹の不安があったのでした。それは、彼女には子どもがなく、自らがこの世を去った後で、ひとり残された最愛の夫と十数年前から疎遠になっている実父が顔を合わせたときどうなってしまうのだろうかでした。自分がいなくなった後、配偶者が困ってしまうような事態だけは何としても避けたい。緩和ケアによって身体的な苦痛が除去されているのとは裏腹に、日増しに心に迷いや不安が募るようになってしまったようで、在宅医療専門医に相談したことで私とつながることになった次第です。
もっとも、実際に彼女にお会いしてみたところ、彼女に残されている体力や時間を考えると、公正証書で遺言を作成することは到底無理だと感じました。そこで、私は自筆証書による遺言書の作成をご提案しました。健康な身体であれば、ものの数分で書けるであろうほんの数行の遺言書でしたが、体調が良い時を見計らいながらおよそ数日間かけて何とか無事に書き終えました。それから、彼女の心を覆っていた不安や迷いはだいぶ除去できたのでしょうか、彼女は片道1時間ほど要する県内の生まれ故郷へのお墓参りにもお出かけになられ、今は残された時間を心身ともに静かに穏やかにお過ごしになられているとお聞きしています。
まだ、50歳代の彼女には、もっとやりたいことや行きたいところがたくさんあったことでしょう。でも、彼女に残された時間はもうほとんどないのかもしれません。しかし、そんな現実からも決して逃げることなく、懸命に力を振り絞りながら今できることをひとつひとつ片付けながら、悔いのないよう人生の締めくくりを準備される姿には敬服の念を覚えずにはいられませんでした。
とてもデリケートな時期である終末期に、医療や福祉の専門職の皆さんと連携しながら、患者さんの心とカラダのケアの一端を担うことができたとすれば、また彼女の心の苦悩が少しでも緩和され残された時間を心身ともに安らかに過ごせるお手伝いができたとすれば何より幸いです。私は、彼女と出会うことで、この仕事をしている限り生涯忘れることのないであろう、『ともに気付き合い、支え合い、信頼し合うことの大切さ』を教えられました。あなたに出会えたことに、心より感謝いたします。
いますぐ まちなかステーション 代表 加藤俊光に相談する
これからも私は、医療や福祉の専門職の方々と連携・協働しながら、終末期に迷い苦しむひとりでも多くの患者さんのすぐ隣で寄り添い一緒に考えることのできる法律専門職であり続けます。