親や配偶者に遺言を書いて欲しい? まずはあなたから公証役場へ!
元気なうちから、いざというときのことを考えておきましょう。私がそんなことを訴え始めてから5年が過ぎましたが、やはりというべきでしょうか、これを考えていない人があまりにも多いことを実感する出来事がありました。
平塚市内のある施設に、98歳の身寄りのない女性が入居していました。数年前に入居する際に、彼女は身の周りをすべて整理して終の棲家として選んだ施設で最期を迎えられるよう任意後見人を選任しました。後見人に対しては、不要な延命措置はしない、病院には搬送せず終の棲家で最期を迎えること等を強く要望していたようです。
ところが、残念なことに彼女の要望は叶いませんでした。食事が次第にとれなくなり、眠っている時間も長くなり、いよいよ終末期が近づいてきたある日のこと、慢性の持病が悪化した彼女は肺炎を引き起こしてしまい、施設を訪問している医師と看護師の判断で病院に救急搬送されてしまったそうです。それから数日後、彼女の『早く退院したい』という最後の要望も叶うことなく、病院のベッドから静かに天国へと旅立たれたとのことでした。
残念なことですが、私はこのようなことは今後もなくならない、いやむしろ増えるのではとさえ感じています。なぜなら、自分が亡くなるときは余計なことはして欲しくないものですが、いざ目の前で人が亡くなるときはできる限りのことをしてあげたいと考えるのが人間の自然な感情だからです。そのような状況の下で、目の前の終末期の本人の真意が汲み取られずに本人の望んでいない治療が行われてしまったとすれば、もはやそんな医療の現場を誰かが止めることなど到底できないことでしょう。
では、どうしたらいいのでしょうか。それは、あなたがこの世を去る瞬間まで、あなたの意思を客観的に遂行してくれる責任者、あなたに成り代わって意思を表示してくれる代理人を立てておくことでしか実現する方法はない、と私はこの数年の経験から断言できます。
住み慣れた自宅や施設で最期を迎えたい! いますぐまちなかステーションに相談する
もし、私が彼女の後見人であったなら、私は彼女が元気なうちから彼女の主治医や施設の責任者、日常生活で最も身近にいる介護スタッフの皆さんと、日々連携をとりながら彼女の終末期が近づいたときはどう対応するかを納得いくまで話し合います。そして、彼女が亡くなる際に、万一彼女の望まない治療が行われる事態に直面したら、医療・施設関係者を問いただし、良心的な代理人(自らの感情ではなく患者の想いを客観的・理性的に伝える者)として、命がけで彼女の要望を実現させるべく意見をしたことでしょう。もっと早く彼女と出会い、人生観や死生観、医療に求めることを聴き取って想いを汲み取ることができたら、彼女の意思を彼女に代わって医療者や施設関係者に表明し要望を叶えられたのにと思うと残念の極みですが、同時に私自身がこの地域でやっていくべきことを再認識させられました。
だからこそこれからも私は、この地域の高齢者を支える法律専門職として、ひとりでも多くの方が『住み慣れた自宅や施設で最期を迎えられる』ように、リビングウィルを推奨し続けていきたいと思っています。