せっかく書いたその遺言書、あなたがこの世を去った後にきちんと家族に届きますか?
相続財産は決して目に見えるものばかりではありません。なかには私ども専門家が調査しても残念ながら判明できないばかりか何年も経ってから突如として相続人に襲い掛かってくる、そんなおそろしい相続財産もあるのです。
確かに、被相続人は遺言こそ書いてありませんでしたが、幸いにも残されたご家族の間で誰が何を相続するかの話し合い(遺産分割協議)において相続トラブルも起きることなく速やかに円満に相続手続が終わり平穏な日々が続いていました。
しかし、それから3年ほどしたある日のこと、これまで全く取引のない銀行から書類が届き家族はとんでもない事態に巻き込まれてしまいました。
中を開けてみると、2000万円の借金があり速やかに返済してほしいとの内容でした。何かの間違いではないかと銀行に問い合わせてみたところ、亡くなった父親が友人の連帯保証人になっており今回友人が返済できない事態になったので連帯保証人に請求をしたとのことでした。しかも、その友人も最近亡くなり家族は相続放棄をしてしまったため、借金の返済義務は父親の相続人であるご家族にあるという説明を受けたそうです。
当然ですが、『連帯保証人になっていること』は目に見えるものではありません。しかも、不動産における抵当権のように公示方法もありませんし、ご本人がご家族にも内緒にしておられたような場合には私ども専門家が調査しても分からないのが現実です。
さらには、遺産分割協議が終わってから何年も経ってから『連帯保証人であったこと』がわかるケースも実は多く、なおかつ遺産分割協議の合意内容は債権者には対抗できないというリスクもあるのです。たとえば、遺産分割協議で母が全財産を相続するという内容で合意していたとしても、債権者に対しては私たち兄弟は関係ありませんとは言えず、債権者から見れば相続人全員が法定相続分に応じてそれぞれ連帯保証人になっているとして請求できてしまうのです。
世間では『連帯保証人にだけはなってはいけない』とよく言われます。なぜならこちらの事情など関係なく、ある日突然その責任を負わなければならない事態に陥る危険性があるからです。しかも、借金の当事者の家族が相続放棄をしてしまったとしても、その責任は消えることなく残り続けて、連帯保証人の家族を巻き込みながら相続されていくのです。
もっとも、やむを得ずどうしても保証人にならなければならないケースもあるのかもしれません。その際は、ご本人が連帯保証人のリスクを正しく理解されるのは当然のことですが、さらに相続によって残されたご家族を予想外の事態に巻き込まないためにも、たとえば遺言の中できちんと明示するなどの対策を講じておくことが必要不可欠です。
相続にひそむリスクを正しく理解して適切な措置を講じれば、起こりうるであろう相続トラブルはほぼ確実に回避できます。これからも私は、ひとりでも多くの方に対して相続に対する誤解や思い込みを解きほぐして適切な助言をさせていただきながら、残されたご家族が災難に巻き込まれることを防ぐ『争わないための遺言書』のご提案をし続けていきます。